百二十話 砦の偵察②
時は遡ってクラインの部屋を出た直後だ。
不意にセシリアが言った一言について、食堂にて話していた。
三人は悩んだが、結局クラインの指示通りいくことにしたのだ。
しかしイェーリンには注意を払ってと全員が意思統一したうえでここまで来た。
「そろそろ戻ってきそうですね」
「ああ、悟られないように、な」
「はい」
イェーリンは光から戻ってきて、ロイたちに言う。
「どうやら問題ないようです。ついてきてください」
「わかった」
またイェーリンを先頭に一列で行く。
端まで行くと、扉があり、そこについている窓から光が漏れている状態だった。
静かに扉を開けると、中はオルトルート連邦の建物やディオーレのそれとは少し違っていた。
壁であるレンガも、床も黒いのだ。
連邦では赤色だったが、どこか懐かしい雰囲気だ。
窓からは弱い光が差し込んできている。
どうやら太陽が昇り始めているみたいだ。
のぞくとここは二、三回らしい。
「久しぶりだな」
以前帝国で住んでいたので、見覚えのある造りだ。
「こちらです。急いで」
口数は少なく、最低限の言葉で指示を出す。
「どちらへ向かわれるのですか?」
「着いたとき話します」
とにかく急ぎたいらしく、ラーシャの質問にぞんざいに答える。
この場がどこかすらわかっていないまま、イェーリンが進む。
おいて行かれるのも嫌なので、仕方なしについていく。
「あんだけ疑っておいてのこのこついていくんだ~?」
クロエが嫌味ったらしく言った。
(仕方がない。こんな状況ならどんなバカ犬でも飼い主の言うこと聞くだろ)
「つまりあんたはバカ犬だと」
(せめていいように言ってくれ。狂犬とか?)
「悪化してるわよ……」
また一つ賢くなったところで、つきあたりにある扉を開けた。
「ここです」
「お、おう」
開けるとそこは倉庫のような場所で、窓から入る光以外ない。
奥へ進むが、何をしに入ったのかわからない。
「なあ、ここって……」
ばたん、と勢いよく扉が閉まる。
「お、おどかすなよ……」
悪びれる様子もないイェーリン。
ロイの言葉も無視して、水が張っている台から一杯くみ取る。
「な、なにをしているのでしょうか?」
声をひそめて聞くラーシャ。
「さあ……?あ!」
後ろで結っていた髪をほどく。
そしてくみ取ったそれを頭にかけたのだ。
「何をしているんです?」
イェーリンは答えない。
しかしにたにたと笑っている。
「あ、髪が……!?」
漆黒の髪色だったのが、どんどんと落ちていき、しまいには赤銅色になってしまった。
「うふふははははは!!」
壊れるほどの高笑いした。
「イ、イェーリン……?」
ロイの問いに対して、指を振る。
「違う違う~!イェーリンはウソウソ!本当はね!」
砦内まで先導していたイェーリンだったときとは打って変わってハイテンションである。
別人と言われても信じてしまうほどの豹変ぶりだ。
「私の名前知りたい?」
少し間をあけて、イェーリンと名乗っていた者は続ける。
「私はね?ナターシャ・ベルナールよ!どこかで聞いたことぐらいあるでしょ!?」
その名を持つものは、この場にナターシャと言った者を含めれば三人いる。




