十一話 隠れ家での生活
事情聴取という名の拷問が終わったのは草木も眠る丑三つ時であった。
ロイが何も答えないためこんな時間までかかってしまった。
クラインはというと呆れて部屋を出て行った。
魔遺物は取られそうになったが何とか死守した。
ロイは話せないのではなく何も知らないのだが、その事を言っても信じてもらえなかった。
「あぁ~、疲れたし腹減った~」
くぅ~っ、と伸びをする。
ずっと座っていたので身体の節々が痛い。
「ほんと。あたしね寝よっかなーって思ったわ」
「可視の時は魔力使うんだからできれば眠ってて欲しかった」
怒られている時に横でばたばたしたりちょっかい出したり相当暇なようであった。
まったくクロエは変なところが律儀である。
クラインの質問攻めをくらっていた部屋を出ると、アリアスが待っていた。
「結構時間かかったね~。さすがのロイもぐったりってところ?」
「そうだな。それにしても待っててくれたんだな」
「お腹がすいてるかな~って」
という事は何か作ってくれるのだろう。
料理が全くできないロイにとっては命を救われたようなものだ。
「あたしはお邪魔みたいね。おやすみー」
「おう。また明日な」
可視状態が解けたのだろう。
一瞬にして視界から消えた。
もちろんアリアスは気付かない。
何事もなかったかのように話を続ける。
「でも作る場所とかここにあるか?」
「何でも一通りあるみたい。厨房とか食堂とか。それに食材も揃ってるの」
「でっかい家みたいだな」
「隠れ家なんだから家でしょ?」
確か家でした。
それだけのものがあるなら人も多いのだろう。
「何が食べたい?」
「がっつり肉で!」
食堂でアリアスの料理に舌鼓を打ち、これ以上胃に入らないというまで食べた。
「はぁ~、食った食った。ごちそーさん」
「ふふ、お粗末さま」
「さぁて、寝る……場所がない……」
「それならあっちだって。案内するね」
食堂を後にしてその場所へと向かう。
それにしてもここは非常に入り組んでいる。
十字路が何度もあり、道を覚えていなければ目的の場所には到達できないだろう。
アリの巣にでも迷い込んだみたいだ。
しかしアリアスは一切困った表情を見せる事なく歩みを進める。
やがて扉が等間隔で並んでいる通路に出た。
「ロイの部屋は……ここね」
「ああ、ありがとな」
「どういたしまして。じゃあお休み」
「また明日」
部屋に入ると、右にベッド、正面にはそれと同じぐらいの高さの机があった。
殺風景ではあるが昨日に比べると天国だ。
疲れる事ばかりだったのですぐさまベッドに飛び込むと、ウトウトと微睡み始めた。
「ロイ、起きて」
クロエの声だった。
「ん、もう朝か」
地下だと昼も夜もわからない。
「いや、違うけど……話さないといけない事があるからよ~く聞いて」
「そうなのか。わかった」
ロイは身体を起こしてクロエを見る。
「で、なんだ?」
「え~と、弾とか魔法陣の色って覚えてる?」
「確か魔法陣が青で弾が灰色だったよな。それがどうした?」
「これには意味があって、青はどんな効果の魔法かを表して、弾は属性を表すの」
つまり他にももっと多くの組み合わせがあるという事だ。
「で、今回は青、つまり催眠系ね。弾は灰色だから無属性って事」
「へえ、そんな意味があるのか。覚えとく」
眠気のとれないロイの反応は薄かった。
それを察したのか、クロエは早めに話を切り上げた。
「まあ、そんな感じ。じゃあこれで今度こそお休み」
「ああ、お休み」
ロイが再び横になるとすぐにいびきが部屋に鳴り響いた。
クロエはまだ可視状態を解かないで、ただロイの顔を眺めていた。
ロイが完全に寝た事がわかるとぽつりと呟いた。
「実はそんな言わなきゃならないような話じゃないんだけどね」
クロエはてへっ、と笑ってから可視状態を解いた。




