百十六話 平原にて
あくる日の朝、ロイは平原にいた。
冷たい風が吹く中、以前と同じように、ザミーラと戦っていた。
「こいつ前よりキレ上がってんだけど!?」
ザミーラの驚愕の声が辺りに響き渡る。
前と変わらないほど攻めてはいるのに攻め切れていない。
それがザミーラを焦らせていた。
「ホントだな、こっちから見ててもわかる」
腕を組んでうんうんと頷くレノーレ。
「うるっさい!傍観者はだーってろ!」
「へいへい……」
呆れ顔のレノーレをよそに、なおも戦闘は続く。
「なあ、あれってなんで急に良くなったんだ?」
「それはですね、たぶんですけど、ロイさんの……そのですね……なんていうか……」
言い方が見つからないために、回答が曖昧になってしまう。
「はっきりしねぇな。つまりあれってか、恋仲ってことか。お熱いねぇ」
「い、いえ、そうではないかもしれないといいますか……」
「言わなくてもだいたいわかる。察しはいいほうだからな」
はははと笑うレノーレの傍ら、引きつった顔のラーシャ。
実は顔には出していないが、もう一人ラーシャと同じ感情の者がいた。
セシリアである。
もともと表に感情を出すことがあまりないため、悟られはしなかったものの内心では違う。
「でそれがどうしたんだい?」
「え、まあ恋仲かどうかはわからないですけれども……」
と、強調して前置きしつつ言う。
「その方がちょっと囚われまして……」
「へぇなるほどねぇ。それでカチコミ行こうって意気込んでるわけだね。ますますお熱いこと」
「で、ですからわかりませんって!」
「そんな否定したいってのはなにかあるみたいだな?」
迫るレノーレに怖気づいて後ずさりをする。
「ま、いいか。人のあれこれに関わるとろくなことなんてないからな」
「その言葉なぜか重みを感じます……」
乾いた笑いをするラーシャはちらりとロイを見る。
呼吸も前ほどは乱れていない。
銃だけでザミーラのナイフを受け続けている。
「なにこいつ全然攻めて来ないじゃないの!バカにしてんの!?」
「無茶言うな。こっちもギリギリでやってんだから」
「だったらこれから防御禁止~!」
「ちょ!それは無理!」
実際ロイはそれほど余裕があるわけではない。
しかしそれは攻めに限ってのことで、守りに関して言えば苦しさはそれほどない。
近接でこれだけ耐えれれば上出来だとラーシャは思う。
なぜならロイは銃を活かした遠距離攻撃が強みだ。
だから近接はあまり好ましくない。
遠距離の弱みはそれであるからだ。
「よーし、そこまでだ。ちょっと休憩入れるか」
レノーレは手を叩いて終了の合図を送る。
途端に二人は動きを止め、地面に座り込む。
「あ~、疲れた」
「本当にな」
「もとはといえばあんたの所為よ!」
「呼んだのはレノーレだぞ!?あっちが責任者だ!」
怒りの矛先を変える。
「さ、来たみたいだし、ちょうどいいんじゃないの?」
「来たって誰が?」
どすの利いた声で、レノーレ聞く。
「ほれ、あっち」
そこには頭に獣を彷彿とさせる耳がついた人影があった。
「お、来たかフランカ」
「呼んだのはそっちでしょ。で、何?」
少し不機嫌な顔で言った。
「ほれ」
レノーレがナイフをフランカに投げる。
「え、何、アブなっ!」
なんとかキャッチしてまじまじと見る。
変哲もないナイフだ。
「よし、二週間ぐらいでアタシぐらいまで強くなってもらうぞ」
「え、え!?聞いてないんだけど」
「今言った」
フランカはロイに対し怒りの限り言葉をぶつけた。




