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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第三章
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百十五話 謎の儀式

 コスタスとの交渉が成立する数日前。

 薄暗い牢の中に横たわる一人の女がいる。

 じめじめとした湿度が心地悪く、目が覚めた。

 鉄格子の向こう、見知った人が立っている。

 見下すようにその男はこちらに対し、質問をした。


「貴様の名前はアリアス・アルストロメリア、だな?」


 確認するように、特に家の名前を強めて言った。


「そうよ。ここは?」

「エリクフォルトの砦だ。悪いが付き合ってもらう」


 ファニクスは腰からについていた鍵を使い鉄格子を開けた。

 きっーと音がして立て付けの悪さがうかがえる。


「来てもらおう」

「隙を見て逃げるってことは考えてないの?」

「ここから逃げ出せるものか」


 ファニクスは鼻で笑う。

 絶対にできない自信があるらしい。


「どこへ連れていくの?」


 どうせロクな場所ではないだろうが気になる。


「さあな、ほら立て」


 手を差し出し、捕まるように言った。


「けっこう、自分で立てるわ」


 手を振り払って立つ。

 ファニクスの手など借りずともよいという意思表示だ。


「さすがはアルストロメリア家の末裔だ」

「え、なんて?」

「いや、なんでもない。さっさと行くぞ」


 先導するように前を歩くファニクスのにやけ顔は、アリアス」には見えなかった。

 連れていかれた場所は、誰もいない、またなにも置かれていない正方形の部屋だった。

 しかし床にはなにやら文字のようなものが円形に羅列されたものが描かれてある。

 それがより一層その場を不気味にしていた。


「ここで何をするの?」


 聞かずにはいられなかった。

 連れてこられたということは、自分はここでなにかをされるということだからだ。


「真ん中に立て」


 ファニクス銃を突きつけて言った。

 ロイのこともあってアリアスは銃については知っているほうだ。

 脅しには十分にあたいするだろう。

 言われるがままその輪の中央に立つ。


「よし、それでいい。これで……」


 小声にため上手くは聞き取れなかったが、なにやら嬉しそうに言っている。


発動ベシュヴェールング


 ファニクスがそう唱えた瞬間、その羅列された文字が輝き始める。

 赤紫色を帯びたそれは一気に強くなり、ついには目も開けられないほどになっていた。

 

「くっ……!」

 

 驚きでアリアスは腰を抜かす。


「これで……これでっ……!」


 ファニクスの歓喜の声も輪の中心にいるアリアスには届かない。

 光を手でふさぐので精一杯なのだ。

 だが光も長くは続かず、徐々にだが弱くなっていった。

 ようやくファニクスを目視できる状態にまでなると、愉悦に浸っていた。

 それは清々しいほどの笑顔で、相好を崩していた。


「な、なにしたの?」


 そんな中恐る恐る聞く。

 一通り笑い終えたファニクスは、ほくそ笑みながら答える。


「もう誰もお前に手を差しのべることなどしないだろう」


 そう言うとまた悦に入る。

 アリアスは不思議でたまらなかった。

 何一つ状況が理解できないのだ。

 身体には何の以上も見受けられないし、それなのにファニクスはこれ以上ないほど愉しそうに笑っている。


「おい、牢に戻れ。俺には触れるなよ?」


 先ほどは手を差しのべたのに、今回はそれをしなかった。

 何か意味がある気がして、牢に戻った後でも、それについて考えるばかりであった。

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