百十四話 希望
「おい!どこほっつき歩いてたんだ!?」
ちょうど食堂へとつながる道の途中。
目の前に立ちはだかったレノーレが声を張り上げた。
げんこつをこしらえて、今にも手が出そうだ。
「ちょっと待て、やらなきゃいけないことがあったんだ!」
「お前がやらなきゃいけないことが別にあるだろうが!」
「ナイフだ!ナイフを作ってもらいに行ってたんだよ!」
「え?」
胸ぐらをつかむ勢いも急に収まる。
「そうなのか?」
ロイの言葉は信用に足らなかったのか、ラーシャに尋ねた。
「はい、本当ですよ」
「へぇ、で、どれだい?」
「だから言ったろ、作ってもらってるって」
話していると後ろから、どたどたと何者かが走ってくる音がする。
クラインだ。
「おい、ここいいたか!」
息を切らしてロイたちの元まで来た。
「どうしたんだ?」
ロイが聞くと、食い気味にクラインが答える。
「わかったぞ」
「なにが?」
「アリアスの居場所が」
「本当か!?」
その名を聞いた瞬間、周りのことなどどうでもよくなっていた。
クラインの話にただただ聞き入る。
「帝都から北にあるエリクフォルトの砦だ」
聞き覚えのない蒔苗に首を傾げる。
「そこはな、帝国領へと続く唯一の道にある砦だ。つまり陸から帝都を落とすならこおを必ず突破しなければならないんだ」
エリクフォルトの砦は海と山に挟まれた所に位置する。
山は前人未踏の領域であり、登った者は誰一人としていないほどの標高があり、そこを突っ切ることはできない。
だから帝都への進行はここを通るしかないのである。
帝都を守る防衛線の役割を果たしている。
「それよりアリアスはどこに!?」
ほかの情報など、ロイにとっては右から左に流れている。
とにかくアリアスの場所が最優先だ。
「それがな、そこの砦だ」
「嘘だろ……?」
砦を落とすことはほぼ不可能だ。
帝国の誇りともいわれる防壁は、一度も攻め込まれたことがないほど頑丈である。
そこに囚われたということは、助け出すのは非常に困難であることを意味する。
「どうするんだよ?」
絶望が目の前に現れた。
希望は分厚い壁に遮られた。
そんな状況でもクラインは希望を捨ててはいなかった。
「大丈夫だ。そのために交渉してきたんだ」
希望を口にする。
「二週間後だ。それまでに戦えるようにしとけ」
「え……?」
「助けにいかねぇのか?」
子供でもわかるほどの無理を言ったクラインに聞き返す」
「どうやって助けるんだ?」
「決まってんだろ、砦を攻めるんだ」
にっ、と笑うクライン。
「俺ら仲間の一員が取られて黙ってるわけがないだろう?敵にもそれをわからせるときが来ただけだ。だから準備しとけよ?」
返事を待たずに去っていく。
後り姿はやはりここのリーダーであった。
「ロイさん、二週間です。それまでにアリアスさんがびっくりするぐらい強くなりましょうね」
微笑むラーシャ。
ロイは力強く返す。
「おう!」
希望が見えた瞬間であった。




