百十二話 ヴァイスロートの行方
代償などわかりきっている。
狐人といえばそれししかない。
フランカは依然として俯いている。
「聞いてたんなら話は早い」
プルザールとフランカの間に割って入った。
「おやおや、君は誰だい?子供はこんなとこにいちゃいけないよ?」
もっと小さい子を諭すように笑顔を作る。
それが偽物であることぐらいロイにもわかる。
「残念だな、キザ野郎。フランカを落とすんなら手遅れだ」
「落とす必要なんてないさ。悪いのはそっちなんだから」
「だから捕まえた」
「ふ~ん、わりと使えるようだね」
驚いた表情もなぜか疑わしい。
ひょうひょうとした態度が鼻につく。
「でも渡してはくれないんだろう?」
「渡すのは条件に入ってなかったからな」
「ほ~う、それなら……」
長である猪人のすぐ横まで行き、非常に小さい声でやりとりをする。
時間にして一分弱。
またこちらを向いて話し始める。
「君の言うとおりにしてもいい」
「本当か!?」
一転して快諾したかに思えた。
しかしそれは大きな間違いであった。
「でもヴァイスロートの分量は言っていないはずだろう?だったら……ほれ」
壁際に置いてあった採掘してある鉱物のひとかけらを足元へ投げる。
「これでこっちも条件は果たしただろう」
それはどう見ても小さかった。
プルザールの指輪についている宝石より少し大きい程度だ。
原石のため、削ればそれより小さくなるだろう。
しまった、としか言えなかった。
声にこそ出さなかったが、心では焦りが生まれていた。
同じ交渉手段を取られてしまったのだ。
「勝ったと思ったかい?残念隙間だらけだ」
「……」
「肯定する方法は、はいって答え以外のもあるんだよ。。それが黙るってことだ」
次の方法を考えなければ。
ついさっきまで攻勢だったはずがいまでは危機的状況だ。
向こうはフランカがほしいが、身を切るほど欲してはいない。
対してこちら側は少々なら出血を覚悟してでもヴァイスロートを手に入れたい。
「さあ、どうする、少年?僕は忙しいからできれば早く決めてほしんだけど」
催促の言葉をかける。
時間を縮めれば縮めるほど妙案を思いつく可能性が低くなる。
「悪いなぁ、少年。さあ、渡してくれ」
「いやだ」
「はぁ、平行線だな」
ため息をつき、手を腰に当てる。
「話を変えよう。なぜヴァイスロートを求める?なぜヴァイスロートを知っている?」
ヴァイスロートはあまり知られていない。
世界で二番目の強度を誇る石がなぜ知られていないのか。
供給が追い付かなくなるからだ。
一番は帝国領土にあるため、連邦は手が出せない。
でもディオーレにあれば簡単に手が出せる。
しかもディオーレはどちらかといえば連邦側だ。
国がいくつも集まっている連邦の装備をヴァイスロートを使ったものにすれば、たちまちここにあるものはなくなってしまう。
そのうえ大した報酬は見込めない。
だったら秘密にして、一部の口の堅い金持ちを相手に稼いだほうがよっぽど割に合うというわけだ。
それを実行したのが、プルザールだ。
だからヴァイスロートの存在を知るものは少なく、ましてやプルザールからして子供が知っているのはも妙と感じた。
「武器を作るためだ。ヴァイスロートはコスタスってじいさんから聞いた」
「コスタス……よりによってコスタスか」
そう小さく呟いたかと思えばすぐさま曇りかけた表情を戻し、営業スマイルを作る。
「そうかい。じゃあ求める理由は?」
「武器を作るためだ」
「なるほど。でも君が使うぐらいならヴァイスロートじゃなくてもいいんじゃない?」
「いや、うんと硬いのがいい。普通のやつはこの前折られたからな」
だから今度は強度のあるものがほしい。
「なるほど。ちょっとは考えてもいいかもね」
返答は予想とはかけ離れたものだった。
考えを変えた理由はわからないがいい方向へと傾いているのは確かだ。
「本当か?!」
「ああ、でもそうだな、面白そうだし。どれくらいほしい?」
「ナイフを作れるくらいだ」
商談はまとまった。
意外にな決着ではあったが、思っていたとおりの結果であった。
「よかったですね」
「ああ、けっこう危なかったけどな」
ラーシャとロイが話しているところと少し離れた場所で、プルザールと長である猪人が会話をしている。
「……いいんですか?そんな簡単にくれてやって」
遠くを見ながら言う。
「いんだよ、それで。若者にはチャンスには与えるべきかなぁ~って」
プルザール・グローテヴォール、鍛冶屋の息子、失われた跡継ぎである。




