百十一話 鉱山の主
翌日、フランカを含めた四人は鉱山の麓に立っていた。
そこで昨日の夜、フランカと話していた内容を伝える。
「……っていうわけなんだ」
否定か、それに近いことを言われると思っていたが、ラーシャはどちらも当てはまらない回答をする。
「わかりました。では私からもそのように伝えられるように頑張りますね」
予想に反して、すんなりと受け入れられ拍子抜けした。
「え、いいのか?」
自Bんで言っておいてなんだが、説得が必要だと思っていたからだ。
「ええ、ロイさんが決めたことなら大丈夫だと信じています」
「はは、そうか」
いつのまにか信用を得ていてびっくりする。
相変わらずにこにこと笑うラーシャ。
それほどのことをしたのかと頭を掻くロイ。
ともあれこちら側のフランカをどうするかは決めた。
あとは鉱山に向かうだけだ。
半円の落とし格子の目に着くと、そこからすでに何人かの猪人が見えていた。
中央にはここの長である者と、隣にはアーロと呼ばれていた者もいる。
「おう、捕まえたか?」
「捕まえた」
その言葉を聞いて、猪人たちの口角は上がった。
これで気兼ねなく作業に集中できると。
「早くそいつを出してくれ」
「こいつだ」
ロイは背中を押して、強引に前へやる。
猪人たちを目の前にして、足がすくんでいるからだ。
「まさかぁ、獣人族、しかも狐人とはなぁ」
アーロはフランカを値踏みするように見る。
必死に目を合わせないようにと目線を下にやっている。
「ご苦労だったな。そしたらヴァイスロートをくれてやろう」
手をくいくいとして渡せとジェスチャーをした。
だがロイはフランスの目の前で手を制止させた。
「いや、捕まえろとは言われたが、そっちに渡すとは言ってない」
「なに?」
昨日の交渉時の出来事だ。
ロイは捕まえろとだけしか言われていないのだ。
渡す義理などない、そう考えた。
「こっちはあんたが言ったとおりに捕まえた。その時点でヴァイスロート渡してもらえるはずだ」
「へぇ、意外と頭が回るもんだな。若造といって甘く見ていたかもしれん」
「じゃあそういうわけでいいな?」
「ダメだ」
きっぱりと言われた。
確かに不満があるかもしれないが、違反はしていないはずだ。
「どうしてだ?」
「ここからは交渉相手が違うぜ」
気付けば場が凍っていた。
先ほどまでの猪人たちとは全く違う。
どこか緊張感のようなものが伝わってくる。
「いや~、お邪魔だったかな?」
その場の雰囲気に似つかわしくない声色が、後ろから不意にした。
振り返るとそこにはクラインと同年齢ぐらいの、金髪赤眼のやせ気味でおちゃらけた男が立っていた。
ネックレスに指輪、ピアスなどいたるところに装飾品を身に着けている。
赤や青の宝石は目にも鮮やかで、一発で金持ちであることがわかる。
「君たちが泥棒を捕まえたのかい?」
問いかけに猪人たちにしたように答える。
「ああそうだ。あんたは?」
突如現れた謎の人物に、今度はこっちから疑問をぶつける。
「申し遅れた。俺はプルザール・ヴォレンクライト。ここの鉱山を所持する者だ」
驚きはしない。
これだけ着飾れれば鉱山の主をやっていてもおかしくはないだろう。
プルザールと名乗った男はフランカを見る。
どうやら話は聞いていたようで、犯人はわかっているようだ。
「ほう、君か。うちに損害を与えるなんてやるじゃないか」
ただ、と言って妙にほがらかだった顔が一瞬で凍る。
「その代償はきっちり払ってもらうからな?」
いやにしっとりとした声がいつまでも耳をつんざこうとしていた。




