十話 初めての射撃
帝国兵はさらに先へと走っている。
このまま追ってもまかれてしまうだろう。
「な~にもたもたしてんの。ほらそれに指をかけて」
「こ、こうか」
「次に先端をあれに向けて」
次々出される指示に何とかこなしていく。
「今回はあたしが手伝うけどいつもしてもらえるとは思わないでよね」
「それはどーも」
特別な手順がいるのだろうか。
「後はそのかけてる指を引くだけ。簡単でしょ?」
「それをしたらどうなるんだ」
「まあ、見てのお楽しみ♪」
「あんた一人で何ぶつぶつ言ってるの?」
アリアスは心配そうにロイに言葉をかけた。
「いやぁ、何でもない」
今はアリアスと話す時間はない。
結構な怖さがあるが、割り切って引いてみる。
多少重かったが難なく限界まで引く事ができた。
その瞬間、先端部分に奇怪な青い魔法陣が浮かび上がった。
「うわっ!?」
魔法陣から何かが勢いよく発射された。
目にも見えないスピードだが、それには色が付いていた。
灰色だ。
それは瞬く間に帝国兵めがけて飛んで行った。
「ちょっと何今の!?」
聞かれてもロイにすらわからない。
「終わったわね」
そうクロエが呟いた直後、帝国兵に直撃した。
帝国兵はばたりと倒れ動かなくなってしまった。
「えっ!?死んだ!?」
一番驚いたのはロイだった。
言われた通りにすると人が倒れたのだ。
「死んでなんかないわ。眠っただけ」
クロエが教えてくれた。
「お~い、探したぞ」
声の主はクラインで、その場を見て驚愕した。
「なんだこれは!?」
全員が同じ気持ちだ。
アリアスは隣で棒から何かが放たれて、ロイは自分が人を殺めたと思っていたからだ。
クラインは周囲を見回し、状況を理解して言った。
「ロイ、何でそれを持っている」
「え~と……」
「まあいい。その話は後だ。あの帝国兵を見に行くぞ」
三人は駆け寄った。
そこにはぐっすりと寝ている帝国兵がいた。
「寝てる?」
「ああ、寝てる」
気持ちよさそうに寝ている帝国兵のそばを、それの敵である三人が見降ろしている。
なんとも奇妙な光景だ。
「どうする?」
「とりあえず家に運ぶ。お前ら手伝え」
その後で町で男を運ぶ三人組が噂になった事は誰も知らない。
隠れ家に着くと事情聴取が始まった。
「どういう事だ!これをどこで見つけた!?これがどんな物かわかってるのか!?」
だんっ、と机を叩き怒鳴ったのはクラインである。
「ところであんたってどう呼べばいいの?」
この状況ですらクロエは平然と違う話をする。
誰の所為でこんな事になっているのかわかってないらしい。
「ロイだ。ちょっと黙ってろ」
小声で言った、つもりだった。
「ああ!?何が黙れだ」
怒鳴り声は夜遅くまで続いた。




