百六話 鉱山で働く者
「てめぇ、ハメやがったな……!」
不愉快そうに口を曲げる。
「ちゃんと聞きましたよ?お願いしますね」
頼むように手をこすり合わせる。
「あとはどうそのヴァイスロートとやらをいただきに行きましょう」
「お、おう。そうだな……」
饒舌を振るう手腕に感嘆し、短く肯定の意を示すほかなかった。
しかしその言葉に対し、コスタスは疑問を投げかける。
「果たしてそんなうまくいくかな?」
「それはなぜですか?」
「俺が鍛冶屋をやめた理由もそこにある」
疑問符が頭の上に浮かぶ。
「行ってせいぜい頑張るんだな。俺に打たせるように」
嫌な笑いを残して、コスタスはそのぼろい店だった家へと入っていった。
「なんだあいつ」
「さ、さあ。でもこれで次の目的地がはっきりしました」
三人は鉱山に向かって足を進めた。
鉱山は町からそう遠くない距離にある。
普段は一般人は立ち入らないため、向かう道は舗装されておらず、少々困難であった。
微かに人の通ったを辿って砂利道を歩く。
事務所は鉱山入口付近にあるらしく、そこまで登らなければならなかった。
「はぁ、はぁ。まだあんのかよ……」
急な斜面が体力を奪う。
「もう少しだと思います。頑張りましょう」
疲れた表情を出さず、笑顔でいるラーシャに元気をもらいながらそこを目指す。
疲れが出てくると自然と会話がなくなる。
乱れる呼吸音とともに、登り終えた。
きょろきょろと見渡して、一棟の小さい建物が見える。
「あそこではないでしょうか?」
「そうだな。聞いてみるか」
ここはさすがにラーシャにさせるわけにはいかないと、先頭を切ってドアをノックして言う。
「ちょっと誰かいる~?」
返事はない。
何回か叩いてはみたが、変わらず反応はない。
「誰もいないみたいですね」
「だったら絶対人がいるとこ行こうぜ」
「どこですか?」
「鉱山の中だ。あっちに道が続いてる」
その先には、人間の身長の何倍もある半円の落とし格子が開けられている。
「そうですね。そこには誰かいるでしょう」
「だな」
鉱山の中を目指して、再び歩き出した。
鉱山の中はさらに寒い。
風が入ってこない代わりに、ひんやりとした空気が肌をなでる。
壁には等間隔に松明が掛けられている。
奥からはなにかがぶつかる音がしている。
「ヴァイスロートをもらえるでしょうか?」
「すぐにもらえるといいけどな。コスタスの様子じゃ……」
それ以上は言わなくてもわかると判断し口をつぐんだ。
やがてて人影が現れた。
ロイはそれに気づき、声をかける。
「お~ちょっと……」
振り返ったのは、人間ではなかった。
ロイの身長よりはるかに大きく、一回りも二回りも大きい体格を持った者だった。
「あぁ!?なんだてめぇ」
ツルハシを肩に担いだそれは、低い声で脅すように言った。
「え、猪人……」
獣人族の中でも、最も多く、力仕事をしている種族であった。
「ニンゲンがこんなとこに何の用だ?」
見下ろす目はまるで敵でも見ているようだった。




