百五話 鍛冶屋との交渉
「コスタスか?」
「あ?てめぇ口の利き方を知らねぇようだな」
威圧によって怯むロイに代わってすぐさまラーシャが割って入った。
「すみません、コスタスさんですよね?」
「お、おう。……そうだが?」
ロイとは打って変わっておどおどとして、だらしない態度だ。
それでも崩れないように頑張っているのがバレバレである。
「だった、とはどういう意味でしょう?」
ラーシャもそこが気になっていたようだ。
「そのまんまの意味だ。辞めた」
バツが悪そうに答える。
「なぜ辞めてしまわれたのですか?」
「単純だ。儲かんね」
ここで引き下がるわけにはいかないと、ラーシャも負けじと言う。
「もう一度作ってもらえないでしょうか?」
「ほう。お客かい。でも無理だ。辞めたんだ」
「クラインさんの頼みでもですか?」
「……クラインっつたか」
コスタスの顔色が変わる。
しわの寄った額がさらに増す。
「あいつが俺に頼みか」
「はい。俺の名を出せば大丈夫、と」
「けっ、あいつの言いそうなことだ」
舌打ちをして顔を背ける。
俺のソードブレイカー一つでこんなことが起こるのか?
「それでも無理だ」
「どうしてですか?」
「材料がねぇ」
「材料、ですか」
ああそうだ、と前置きして話す。
「ここのに鉱山があんだろ?」
世界でみても貴重な浮遊石が取れるところだ。
「あそこの石さえ手に入りゃあな」
コスタスはここからでもよく見える山を指して言った。
「でもあの鉱山の石は確か柔らかかったですよね?」
ディオーレで取れる富裕席は非常に有名だ。
ここを浮かしているのもその石のおかげである。
また加工しやすく、使用用途がたくさんあり、価値が高くなっている。
しかし加工しやすいということは、それだけ柔らかいということだ。
それに高級なため、武器への転化はコストパフォーマンスが悪い。
それを知ったうえでラーシャは聞いたのだ。
コスタスは首を横に振る。
「ちげぇ、ちげぇ。わかってねぇな。もう一つあるんだよ」
得意げに語り始める。
「あそこは浮遊石で有名だ。それで影に隠れちゃいるが、あるんだよ」
もったいぶって焦らすコスタスに、ロイは我慢できず問いかける。
「それでそれってのはなんなんだよ」
「うるせけなクソ坊主。あれだ。ヴァイスロート。知ってるか?」
ロイとラーシャは顔を見合わせた。
二人とも知らないようだ。
「けっ、知らねぇんのかい」
「それはどんなものなのですか?」
興味がわき、目を輝かせて聞く。
「世界で二番目に硬い鉱物だ!」
声を張って、ラーシャの興味に答える。
「世界で一番硬いのは帝国付近で取れる鉱石ですから、連邦側には一番硬い加工物ではないですか」
「そうだ。これがどれだけ凄いかわかるか?」
ロイはわからなかったが、とりあえず神妙な面持ちでいた。
「でも加工とか大変ではないですか?」
「もちろん!そこが腕の見せ所よ!」
二人で盛り上がっているが、ロイとセシリアは置いて行かれた。
こそこそと二人に聞こえないように耳打ちする。
「ラーシャってあんな感じだったか?」
「……たまにそうなります」
「へ、へぇ……」
嬉しそうに話しているラーシャは新鮮だ。
こんなのは酒が入ったとき以来である。
「ではそれが手に入れば作っていただけるのですね?」
「当ったり前よ!……あっ」
こちらに振り向いてにやっと笑う。
「ですってロイさん。では行きましょうか」
「えっと、どこに?」
「決まっているではないですか。鉱山にですよ」
王女ラーシャが策士であることが垣間見えた瞬間であった。




