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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第三章
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百四話 大通り

 まず向かったのは大通りだ。

 人だかりを縫うように歩いていく。

 ディオーレのほぼ中心にあるそれは、年中人通りも多く、店も大量にある。

 そしてこのとおりであった事件が、レノーレと知り合うキッカケになったところでもある。


「今度は絶対捕まらないようにしないとな」

「……はい」


 セシリアは小さく頷いた。

 頬が小さく赤らんでいる。


「なんの話ですか?」

「いや、まあ、いろいろとな、な?」


 こくこく、と二回。


「なんですか~、私の知らない間に仲良くなっていたんですか?」

「ん~、そんなとこ」


 軽く笑いあった。


「でもよかったです」

「ん?」

「いえ、セシリアは人付き合いが苦手、というのは言いましたね。ですので、こんな姿を見るのは私初めてなんです」


 最初は確かに話せなかったが、今では気の置けない人物の一人である。


「心配しなくてもいいぞ。たぶんだけどラーシャが思ってるより強いから」

「ふふ、やっぱりなにかあったんですね」

「い、いや、別になにもないぞ?」


 ラーシャの中ではなにか考えているらしいことはあるが、違うと思う。

 

「大丈夫ですって。なにも言いませんよ、ロイさんなら」

「お、おう?」


 ちょっとよくわからないが、まあいいか。


「さてどう探しましょうか?」

「まず人に聞くか」

「じゃあ聞いてきますね」

「おっ!頼む」


 思わず大きい声が出てしまった。

 これで人と話さずにすむ。

 大通りの端に移動してからラーシャに言った。


「ここでセシリアと待ってる」

「わかりました。ではいってきますね」


 そう言ってラーシャは人ごみの中へと消えていった。

 女の子一人にするのは気が引けるが、ここはラーシャが得意、であろう話術に任せるとしよう、適材適所というやつだ。

 セシリアロイの袖を引っ張る。

 ロイを呼ぶときはこの仕草をするのだ。


「ん、どうした?」


 少し間をあけて、ゆっくり口を開いた。


「……あれ……?」


 指さした先、大通りから直接行ける路地裏にぼろい一軒の店らしきものがあった。

 店というより民家に近かった。

 しかしそれとは雰囲気が違うのだ。

 看板もなく、人の出入りすら見かけない。

 それでも引きつけるなにかがあった。


「ラーシャが来たらあそこに言ってみよう」


五分後ぐらいにセシリアが言った。


「……来ました」


 人が多い中でもすぐにわかる。

 ラーシャだけが輝いて見える。

 それをただ恍惚として見入っていた。


「ロイさんどうしました?」

「い、いやなんでもない」

「そうですか。何人かに聞いたんですが、残念ながら情報は集まりませんでした。ごめんなさい」

「いや、ありがとう。ところであれなんだけど、それっぽくない?」


 ラーシャもなにか引かれるものがあったのだろう。


「かもしれませんね。入ってみましょう」


 さすがの行動力だ。

 一人だったら絶対こんなとこ入りたくないな。

 店の前に立つも売っている物すらわからない。

 汚れた窓からは中の様子すら見えなくなっている。


「おい、何してんだ」


 低い声が不意に後ろから聞こえた。


「ここはガキが来る場所じゃねぇぞ」


 後ろにはロイより背が低く、セシリアより少し大きいぐらいの、猫背の老人がいた。


「いやぁ、何売ってるのかなぁって……」


 いや、が口癖になりつつある、気をつけよう。


「……ここは鍛冶屋、だったところだ」


 薄汚れた看板に掠れた字でコスタス・グローテヴォールと書かれている。

 驚いて思わず声が出る。


「ここがっ!?」


 見つけたという安堵と、だった、という言葉の意味に対する疑問が心に浮かんだ。

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