百二話 その日の夜
人は機嫌よくものごとをしているときに邪魔が入ると不機嫌になる。
まさに今が例だ。
明日の活力を補給しているときにクラインの秘書らしき人物が、来い、と一言言って、三人を連れていくのだ。
食べているときに急に来い、とか言われて大好物を残しておいたのに食えずに終わってしまった。
これからは好きなものは最初に食べると心に誓った。
道中なぜ呼ばれたか、小声でラーシャロイに聞いた。
「どうしたんでしょうか?」
「なにか見つかったとかだろ」
「なるほどアリアスさんを助ける手立てが見つかったということですね」
「まだわからないけど、そうだといいな」
その方法さえわければ、自分も何かの役に立てるはずだ。
そうこうしているうちに、部屋前に着いた。
秘書がノックして、扉を開けると、中にはクラインが息を切らしていた。
「どうしたんだ?」
尋ねると、何かにいら立つ、あるいは焦っているように荒々しく答えた。
「今から帝国の奴らと話し合いだ。だからお前らに手短に話す」
「お、おう」
「いいか、帝国にアリアスが連れ去られた、間違いないな?」
「もちろんだ」
ファニクスはアリアスをさらう理由までは口にしなかったが、確かにそうしようとしていた。
あの場にはロイ、アリアス、ファニクスしかいなかったのを考えるとそれが妥当だ。
「さらったとすると今アリアスがいるのは、帝国の都市となるか」
「それがどうしたんだ?」
疑問を投げかけるロイにクラインが答える。
「戦いに規約があるのは話したな」
「ああ」
「その中に都市や砦で戦うときもある。その場合に別の規約があるんだ」
ぽか~んとするロイを、よそ目に秘書がクラインに言う。
「もう時間です。話はこの辺に」
「もうそんな時間か!」
「後の説明は私がしておきます」
「ああ頼んだ」
クラインは三人の隙間を縫うようにすり抜ける。
が、すぐ止まって、振り返った。
「ソードブレイカー折れたんならこのディオーレにいる鍛冶屋に行け。俺の名前を出せばなんとかなる」
そう言い残すと、また廊下を走っていった。
その場に沈黙が立ち込める。
「……では続きですが」
と前置きして、話を続けようとする。
「いや、ちょっと待って!あいつすげぇ大事なこと言ってたぞ!」
他人はどうでもいいだろうが、ロイにとっては大問題だ。
ソードブレイカーがなければ近接戦闘ができない。
それの話になると真剣にならざるを得ない。
「ええ、その話についても聞いています」
「そ、そうなのか……よかった」
ほっと胸をなで下ろす。
「まず帝国との闘いですが、都市戦の規約が適用されます」
「ほう」
「終わりです」
「えっ?雑くない?」
そんなつっこみを物ともせず、淡々と進める。
「そうですね。詳しくはあそこに置いている本で学んでください」
「あれ……って何?石?」
「規約について書かれている本です」
「あ、じゃあいいです。続けてください」
読み終わるのと寿命がいい勝負しそうな分厚さだ。
ここのリーダーになるにはあれも覚えないといけないのか。
「次に言っていた例のナイフですが」
「おお、それそれ。待ってました」
身を乗り出し聞き入る。
「鍛冶屋のことですが、コスタス・グレーテヴォールという人をお尋ねください」
「まさか」
「終わりです」
ですよね~、と流す。
慣れているところ見ると適応力高いな、俺。
「話は以上です。それでは」
無言で、出ていけオーラを発している。
三人はいそいそと部屋を出た。




