百一話 休息
ロイは隠れ家の中にある自分の部屋に戻ろうとしていた。
あの後、隠れ家に入ると、レノーレはザミーラを連れて食堂へと向かっていった。
軽く別れを告げ、残された三人は一旦それぞれの部屋へと戻ることにした。
まだご飯の時間には少し早かったからだ。
それまでの間、休むことにした。
戸を開け、迷わずベッドに飛び込む。
「そんな疲れたの?」
「マジで疲れるぞ、あれ」
「これからが心配ね」
お手上げといったふうに首を横に振る。
寝転んで、宙に浮いてるクロエと話すのにも随分と慣れた。
「そうだな。でもあれを続けてたらちょっとは強くなるんじゃないか?」
「ホント楽観ね。もう慣れたけど」
二人は笑いあった。
落ち着きを取り戻すと、ロイはある物を取り出した。
それは、ここに来るハメになった元凶である石だ。
「これなんなんだろうな」
仰向けの状態で、それを天にかざすように持つ。
今は変哲もない石だが、拾う前は、確かに輝いていた。
「さぁ、私でも知らないことあるのね」
「まるでこの世のことは全部知ってるみたいだな」
「知ってるわよ」
「じゃあなんで教えてくれないんだ?」
戦いのときもそれ以外のときも事前に教えたことはなかった。
まるでそこにルールでもあるようだった。
「あんたら人間は覚えられる量があるから下手に情報を出しちゃうと容量オーバーになるの」
「……つまりお前には教えないってことだな」
「そうは言ってないでしょ。聞かれたことに関してはちゃんと答えているわ」
そう言われれば確かにそうだ。
クロエだけでなく、ロベルティーネにしても自分からは情報を出さなかった。
「それに人間が質問できる量なんてちっぽけだし、それぐらいなら答えてあげるわ」
「じゃあなんでアレクサンドラとはあんな仲が悪いんだ?」
「個人情報については出さないってのも一つの容量オーバーよっ!」
「教えたくないあまり理論おかしくないか!?」
相当な確執があると見た。
以後触れないように尽力したいと思う。
「質問……かぁ」
ロイは石をしまってから悩んだ。
聞きたいこと、聞きたいこと……
その場その場では浮かぶものの、いざ聞くとなると浮かばなくなるものだ。
絞り出してようやくクロエに問うた。
「主が俺でよかったか?」
クロエは戸惑った様子を見せた。
まさかそのような質問がくるとは思いもしなかったからだ。
だが、すぐさま平常を保つと、いつもと変わらぬ口調で答えた。
「そうね。悪くはないわね。どんな弱い奴でも戦えるようにするのが私の仕事だし」
「弱くて悪かったな」
「だったらそう言われないように努力しなさい」
「努力かぁ~」
遠い目になる。
その言葉を撤回させるくらいの強さになると、それはもう群と戦えるレベルだろう。
ただただ遠い目標だ。
「でもいいんじゃない?あんたけっこう好きよ?」
「え?」
突然の告白か?
どっきとしてクロエを見つめる。
「そうそう、そのびっくりしてマヌケな面になったときとか」
ぜんぜん違った。
けらけらといたずら笑顔で笑っている。
「経験ないって丸わかりよ」
「う、うるせぇ。そんな暇ないんだよ、こっちは!」
「言い訳するあたりが図星って感じね」
「じゃあなんて返せばいいんだよっ!」
心が手玉に取られてるのが痛いほどわかる。
何を言っても軽くあしらわれる。
もうちょっと勉強しておくべきだった。
後悔の念に駆られているロイを、扉のノックが引き戻す。
「そろそろ行きませんか?」
ラーシャの声だ。
今行く、と返事して、立ち上がる。
「それじゃね~」
姉に似てるぞとか言ったら大激怒だろうな、と心で思った。
それがいけなかった。
「あんた帰ってきたら覚えてなさいよ?」
ふふふ、と笑みを浮かべてるが、正直暴走した陸竜より恐ろしい。
「は、はい。では……」
と言い残して、戸を開け、勢いよく閉めた。




