百話 訓練の末
目が覚めると、ラーシャがいた。
やけに近いと思ったら、膝枕をされていた。
後頭部が柔らかさを噛みしめている。
日はまだ落ちていない。
それほど長くは寝ていないようだった。
半開きの目をこする。
「あっ、起きましたか?」
「おう。どれくらいたった?」
「そうですね~、一時間前後といったところだと思います」
そうかと言って起き上がった。
あ、くそ、もうちょっといたかったぜ。
「おお、起きたか。じゃ始めるぞ」
寝起きでいきなりそんなことを言われるとついていけない。
ぼけっ~っとした顔をしているロイに、ラーシャがいちから説明する。
「え~っとですね、レノーレさん曰く、その銃?というものの使い方を考えるらしいですよ」
「そうなのか」
よっ、と立ち上がり、伸びをする。
ぽきぽきと骨が鳴った。
「いいご身分だな。昼間っから」
「あれだけ動けばそうなるだろ」
全身の傷がきれいさっぱり消えている。
ラーシャとセシリアがやってくれたのだろう。
それが消えているのはロイだけではなかった。
ザミーラも傷一つなくなっていた。
「それにしても急にどうした?お前あんな動ける奴だったか?」
「本気出せばあれぐらい余裕だろ」
「だったら最初からやれって話だ」
「そこを突かれると弱い」
近赤井はたまたま助かっただけだ。
次もこう上手くいくとは限らない。
やはり鍛錬が必要だ。
「さ、話もそろそろこの辺にして次だ」
「そうだな。じゃ、帰るか」
「戦わないのか?」
「実践は今日は終わりだ」
ロイは納得がいかなかった。
「なんでだ?まだできるぞ?」
「お前が慌てる理由は知ってる。焦っても仕方ないぞ?」
「違う。だから」
「あんだけ動いたのは誰だ?」
口をつぐむしかなかった。
なおもレノーレは続ける。
「今日はもう休んだほうがいい。でもただ休むんじゃない。さっき聞いたろ?」
「戦い方を考える、か」
「そうだ。もういいか?」
「了解だ」
レノーレはようやく安堵の表情を見せた。
「で、ワタシは?」
「もういいぞ。帰れ」
「え、ええぇ~!?」
ザミーラは項垂れた。
「ちょっと扱いひどくない?ねぇ?」
「いや、正直思う」
いや、こっち見られても。
仮にも初対面だ。
無難に返す。
「ほら、この人も言ってるしぃ」
「こ、この人……」
なんか存在感ないのかな?戦った相手なのに。
「わーった、わーった。子供みたいに駄々こねるな。子供みたいな体型して」
「それは関係ないでしょ!」
ザミーラ以外笑顔であった。
冷たい風が通り過ぎる中、寒さも忘れ、暫し雑談をした。
「よぉし、腹も減ってきたな」
「ワタシも」
「お、じゃああそこまでくるか?」
「おっ、どこどこ?」
いいのかレノーレ?勝手に人を連れ込んで、と思ったが自分もやってることたいして変わりませんでした。
「ロイさん」
読んだのはラーシャだ。
ん?と言って振り返る。
「きっとアリアスさんは無事です。私やセシリアも協力させていただきますので、絶対助けましょうね」
ロイは大きく、力の込もった返事をした。




