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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第三章
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九十九話 闇属性魔法教室:実践編⑤

 ロイは続けざまの攻撃の中、諦めてもいいだろうと思っていた。

 ここまで戦ったんだ、誰も咎めはしないだろう。

 不意に自分の所為で奪い去られたアリアスの姿が脳裏をよぎった。

 幻か香りまでしてくるようだ。

 目の前にいるそれ、はロイに語りかけているようにもみえる。

 なんと言っているかはわからない。

 それでもロイにはなんと言っているか、手に取るようにわかった。

 言葉が全神経にいきわたるように感覚が戻ってきた。

 傷の痛みなどはない。

 あるのは銃を握っている感覚だけ。

 再度目の前を見る。

 いるのはザミーラだけ。

 よし、いける。

 今までに感じたことのないほど冴えわたっている。


「えっ?」


 ザミーラは理解が遅れた。

 自分の速さについてきたものは一人もいなかった。

 決して力を抜いたわけではない。

 訓練といえどそのような真似は絶対にしない。

 ただロイが速かっただけだった。

 理解の遅れは行動の遅れに通じる。

 美しく背負い投げが決まる。

 背中から叩きつけられ、内臓が揺れる。

 常人ならすぐには立ち上がれないが、ザミーラは違った。

 跳ねるように起き上がると、距離をとって、面と向かい合う。


「い、いきなり復活して……なんなの?」


 確かにダメージを負っているようで、腹部を抑えている。


「やらなきゃいけないことを0思い出しただけだ」


 はぁ、と首傾げるザミーラにロイは警告した。


「ちゃんと避けてくれよ。力加減できないから」

「ば、バカにしてんの!?いい度胸ね!」


 しかしザミーラは感じていた。

 先ほどまで圧倒していたロイとは別人と断言できるほど、殺気立っていることを。

 銃を向け、放つ。

 青の魔法陣に、灰色の弾。

 それがザミーラに向かっていく。

 まずザミーラは色の違いについて警戒しつつ横へ避ける行動を取った。

 分散、追尾の可能性もあるとレノーレから聞いていたからだ。

 しかし、予想に反して直線に飛んでいくだけだった。

 そんなものかと、期待外れだと思ったときだ。

 ロイはその場にはいなかった。

 ザミーラの左側からロイの姿が現れた。

 ナイフで対応する前に、ロイは唱えた。


影刃シャッテンクリンゲ


 やけに落ち着ている声だった。

 変わらず呼吸は乱れてはいる。


「それまだ使えないんじゃ……」


 言い切る前にザミーラは気付いた。

 勘付いたともいえる。

 自分の後方から攻撃がくると。

 

「おわっ!?」


 ザミーラは思わず声が出た。

 それほどぎりぎりの回避だった。

 しかし攻撃はそれがメインではなかった。


「おらぁぁ!!」


 銃の先端を持って、スイングした。

 当たったのはナイフを持っている手だった。

 痛いみに耐え兼ね、手を放す。

 ナイフがくるくると宙を舞い地面に落ちた。

 なおも攻撃を仕掛けようとするロイと、涙目になっているザミーラ。


「終わりだ」


 口を開いたのはレノーレだった。


「もういいだろ。魔法も覚えたし」


 ロイはそれを聞いた瞬間、地面に倒れこんだ。


「ロイさん!?」


 真っ先に駆け寄ったのは、ラーシャとセシリアだ。


「ははっ、最近疲れることが多いな……」


 その様子を見た二人は胸をなで下ろした。


「心配しました。でもよかったです」

「ああ」

「では治させていただきますね」

「頼む」


 なんとか勝つこと、そして魔法を使いこなすことができた。

 安堵の中で微睡み、目を閉じた。

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