九十九話 闇属性魔法教室:実践編⑤
ロイは続けざまの攻撃の中、諦めてもいいだろうと思っていた。
ここまで戦ったんだ、誰も咎めはしないだろう。
不意に自分の所為で奪い去られたアリアスの姿が脳裏をよぎった。
幻か香りまでしてくるようだ。
目の前にいるそれ、はロイに語りかけているようにもみえる。
なんと言っているかはわからない。
それでもロイにはなんと言っているか、手に取るようにわかった。
言葉が全神経にいきわたるように感覚が戻ってきた。
傷の痛みなどはない。
あるのは銃を握っている感覚だけ。
再度目の前を見る。
いるのはザミーラだけ。
よし、いける。
今までに感じたことのないほど冴えわたっている。
「えっ?」
ザミーラは理解が遅れた。
自分の速さについてきたものは一人もいなかった。
決して力を抜いたわけではない。
訓練といえどそのような真似は絶対にしない。
ただロイが速かっただけだった。
理解の遅れは行動の遅れに通じる。
美しく背負い投げが決まる。
背中から叩きつけられ、内臓が揺れる。
常人ならすぐには立ち上がれないが、ザミーラは違った。
跳ねるように起き上がると、距離をとって、面と向かい合う。
「い、いきなり復活して……なんなの?」
確かにダメージを負っているようで、腹部を抑えている。
「やらなきゃいけないことを0思い出しただけだ」
はぁ、と首傾げるザミーラにロイは警告した。
「ちゃんと避けてくれよ。力加減できないから」
「ば、バカにしてんの!?いい度胸ね!」
しかしザミーラは感じていた。
先ほどまで圧倒していたロイとは別人と断言できるほど、殺気立っていることを。
銃を向け、放つ。
青の魔法陣に、灰色の弾。
それがザミーラに向かっていく。
まずザミーラは色の違いについて警戒しつつ横へ避ける行動を取った。
分散、追尾の可能性もあるとレノーレから聞いていたからだ。
しかし、予想に反して直線に飛んでいくだけだった。
そんなものかと、期待外れだと思ったときだ。
ロイはその場にはいなかった。
ザミーラの左側からロイの姿が現れた。
ナイフで対応する前に、ロイは唱えた。
「影刃」
やけに落ち着ている声だった。
変わらず呼吸は乱れてはいる。
「それまだ使えないんじゃ……」
言い切る前にザミーラは気付いた。
勘付いたともいえる。
自分の後方から攻撃がくると。
「おわっ!?」
ザミーラは思わず声が出た。
それほどぎりぎりの回避だった。
しかし攻撃はそれがメインではなかった。
「おらぁぁ!!」
銃の先端を持って、スイングした。
当たったのはナイフを持っている手だった。
痛いみに耐え兼ね、手を放す。
ナイフがくるくると宙を舞い地面に落ちた。
なおも攻撃を仕掛けようとするロイと、涙目になっているザミーラ。
「終わりだ」
口を開いたのはレノーレだった。
「もういいだろ。魔法も覚えたし」
ロイはそれを聞いた瞬間、地面に倒れこんだ。
「ロイさん!?」
真っ先に駆け寄ったのは、ラーシャとセシリアだ。
「ははっ、最近疲れることが多いな……」
その様子を見た二人は胸をなで下ろした。
「心配しました。でもよかったです」
「ああ」
「では治させていただきますね」
「頼む」
なんとか勝つこと、そして魔法を使いこなすことができた。
安堵の中で微睡み、目を閉じた。




