九十八話 闇属性魔法教室:実践編④
「今度はなに?」
何度も呼び出され、少しばかりご機嫌ナナメのようだ。
「いや……魔法ってどう使うのかなって……」
「影刃ね、透明なる殺人者使えるなら余裕で使えると思うけど」
「そうか……」
考える仕草を見せ、戦闘を続ける。
そろそろ何かで気を引いている間に攻撃もバレ始めるころだろう。
新たな方法を考えなければならない。
「さぁて、どうしたもんか」
「あれあれ万策尽きちゃった~?」
「……」
「ははっ、わかりやすっ」
クロエもそれに乗じて口を開く。
「まあ、言ってることは間違ってないわね」
「だから余計に腹が立つんだよ!」
涙目で声もシャウト気味に訴える。
みっともないのはわかっているが、もともと戦う能力が低いのにここまでこれたのでも相当すごいと思っているくらいなのに。
「もう終わらせていい?」
微笑を浮かばせながらそんなことを言ってくる。
「……いいぞ。全力でこい」
なんかボスみたいだな俺、かっこいい。
実力に伴わない発言をしたと、誰より自分が理解している。
「なにそれ、まあいっか、いくよっ!」
一瞬にして姿が見えなくなった。
それはロイの視界から消えたからだ。
それほどの速い移動は、クラインぐらいしか見たことがない。
クライン……?
あいつは確か魔法を使っていたはずだ。
もしかしたらそれをザミーラも使っているかもしれない。
次に姿が見えたのは、頭上だった。
飛び上がり、すでにナイフの切っ先を向けている。
意表を突くに飛ぶのはいいが、飛んだあとに着地点を変えられないのが最大の欠点でもある。
だからそれを防ぐため、魔法を唱えてくるはずだ。
「ほ~ら、雷壁」
予想通りだ。
雷を平行に落とすことで、輝くカーテンのようなものを作り出す。
それに隠れてザミーラ姿は全く見えなくなってしまった。
どこからくるか。
「そこだ!」
身体を反転して銃を縦ににしてナイフの攻撃を弾いた。
「おっ、さすがに読まれた?」
「そこまでまだ実践慣れしてねぇよ!」
あれを使うとしたら今だ。
「影刃」
だがまた失敗したようで何も起こらなかった。
「そろそろ成功させないとー」
「俺が一番わかってるわ!」
わかっていながらにできないもどかしさが集中力を欠かせる。
なおも至近距離にいるザミーラは、斬撃を繰り出す。
初撃はなんとか弾いたが、そのあとが続かない。
集中力もさることながらスピードにもついていけない。
二つの理由から、身体に浅い傷が刻まれていく。
腕、腿、腹全てを狙う攻撃は一点に狙いをつけさせず、ただ後ずさりすることしか許さない。
このまま死すらも考えるほどだ。
ザミーラは楽しそうに、傷をつけるたびに狂気ともとれる笑顔が溢れる。
「ほらほらほら~!」
昂ぶりは声にも表れる。
ナイフを持つ手はロイの返り血で染まっている。
それでも攻撃は留まることを知らない。
「ロイ、そろそろ降参したら?」
哀れみはなかった。
当然の判断だ。
しかしロイの反応はなかった。
しなかったのか、できなかったのか、クロエにすらわからなかった。
ロイの反応を見て、口を閉ざす。
何をも映さない虚ろな目だった。
ザミーラはふとそれに気付いた。
気のせいだろう、傷のせいだろう、大したことはないと考えていた。
「これでお~わりっ!」
連撃の速さを殺し、柄尻をハンマーのように振り下ろした。
が、ロイはいとも簡単にザミーラの細い手首を掴んだ。




