九十七話 闇属性魔法教室:実践編③
ロイは自分の攻撃が通らないとわかっていた。
だから土属性をブラフとして使って、本命の気をそらす作戦であった。
心配だったのは土属性の弾が使えるかどうかだったが、そこは上手くいけた。
本命の火属性の弾は弧を描いてザミーラんも頭上を通って背を狙い百八十度向きを変えた。
そして気づかれないまま当たれば、という願いもそこまでは通じず今に至る。
ザミーラはまんまとロイの作戦にハマったというわけだ。
「くっそがっ!」
模擬戦とは思えないほどの迫力だ。
上半身を捻って炎を弾丸を避けようとする。
さすがの速さだ。
至近であっても余裕すらあるように見える。
横に避け、態勢を整える。
すぐさま反撃の準備をした。
だがロイかてそこまで甘くはない。
勝機と見たその時間に更なる攻撃を仕掛ける。
狙いをつけ、連続して放つ。
もちろん赤い魔法陣、赤い弾丸だ。
「もううっとおしいなー!」
左手と足で身体を支えているザミーラは、目の前の弾丸に対し、魔法を唱えた。
「線雷槍」
小さな雷とでも形容できるそれは、弾をめがけ、集団で襲い掛かる。
ロイはそれに違和感を得た。
原因はその量だ。
魔法自体は何回か見たことがある。
目に見たときはもっと大量の、眩しいほどの雷だった。
だがこれはそれほどではなく、アリアスのものと比べると、ちっぽけな感じである。
いかにアリアスの体内魔力量、火力がすごいかがよくわかる。
それでも威力があることに変わりはなく、弾と打ち消しあい、爆発が起こる。
煙が晴れ、ザミーラの姿が見える。
その顔は嬉しそうに笑っているようだった。
「へぇ、レノーレが負けただけはある。やるじゃん」
「おお、ありがてぇ……」
久々に真正面から認められた気がする。
思わず目がうるっときた。
「でも戦い方が単調だな。接近戦になったらすぐ終わりそーだ」
「いや、前はそれに似たナイフがあったけど折れちゃってな。この有様だ」
「へぇ、じゃあいい武器屋教えてやろっか?」
「マジで?」
ふふっと笑うザミーラ。
瞬時にロイの前に移動し、ナイフを振るう。
咄嗟に銃でガードして目を見る。
息すら感じられるほどの至近距離だ。
「ワタシに勝ったら教えてやるよ」
「じゃなにがなんでも勝つしかないな」
銃とナイフの奇妙な鍔迫り合いを、弾いて強制的に終了させる。
距離をとって、簡単に接近させないように銃をいつでも撃てる状態を保つ。
「そ~れが単調の理由の一つなんだって。接近戦ならそこで仕留めないと~」
「そんなもんなの?」
「アタシが倒しやすいじゃん~」
「ぜってー離れるわ!」
危うく口車に乗ってカモにされるところだった……!
だがザミーラの言っていることにも一理あるような気もする。
戦いが終わってから聞けばいいか。
「そっちから来ないならこっちからいくよ!」
「はぁ、ちょっとは休憩」
「おりゃ!」
息次ぐ暇なく距離を詰める。
細身のナイフがまたしても牙を剥く。
斬るのではなく、突きに似た攻撃。
後ろに下がりながら紙一重で躱していく。
「ちょこまかちょこまかホントうっとおしー。じっとしてよ~」
「それだけは無理!」
バックステップして大きめの間を作る。
そこで魔法を使う。
「焔壁」
炎をの壁を作り出して時間を稼ぐ。
ここだ。
あの魔法を使うとしたらここしかない。
続けざまに魔法を叩き込む。
「影刃!」
壁で遮られた状態で、そのうえ死角からの攻撃だ。
焔壁を終了させ、相手の様子を見る。
「残念でした~」
べ~っと下を出してバカにする。
当たってないどころか成功すらしてなかったのか。
ダブルでショックだ。
「くっそ腹立つな。マジで」
そこで銃を構え、クロエを呼び出した。




