夜
■――翌日――
(まさか、あんなところに居るなんて)
その後、私は、家に戻り考えていた。
「確か、名前は…」
その時、私は重大なことに気がついた。
(名前・・・聞いてなかった・・・)
私はいつもこうなのだ。何かを忘れてしまうのだった。
「まあ、明日あの場所に行けばいいのよね」
そう、自分に言い聞かせ座っていたイスから立ち上がる。
「ミシル。ご飯よ」
「はーい」
お母さんが呼んでいた。私は、部屋を出てリビングに向かう。
私の魔法はお母さんには、黙っている。
お母さんは、普通のセミレント(魔法が使えない人)なのだ。
私たちの地域では、ルイレント(魔法を使える人)は、どこかに連れて行かれてしまう。
(私は、母さんの所を離れるわけには行かないの…)
この魔法が、分かったのは2日前。
いつものように、水汲みをしようとしてちょっと遠回りをしたらグレズリー(熊の怪物)に
襲われて、つい使ってしまった。
(もう、こんなことしないようにしなきゃ)
私は、ずっとお母さんのそばについていなくちゃいけないから。
お父さんは、ルイレントでどこかに連れて行かれてしまった。
お母さんはそのショックで、しばらくの間、昏睡状態で入院することになってしまった。
その後、お父さんはまだ帰ってこない。
(あの人を、もとの世界に帰してそれで終わり)
そう決意して、私はリビングに続く扉をくぐった。
「やっときた」
そういう言葉と共に、いつも通りの笑顔を浮かべるお母さんの顔を見ながら。