神の見えざる手
さすがの寝不足のレンも、眠気は覚めた。冗談にしては、手間がかかりすぎている。他の教室からも、ざわめきが聞こえる。学校中で、同様の現象が起きているのだろうか。
つづいて電子黒板には、草原の絵が映し出された。女性の声がこだまする。冷淡な声でささやくようにスピーカーは宣言した。
「今からこの国は、こういう風景に変わります。そこで生活してください」
えっ…
その風景は、レンが毎晩見る風景だった。
とあるMMORPG、つまりWEBの同時参加型のロールプレイングゲーム、そのタイトルにでてくる光景なのだ。
すでに窓の外の風景は「上書きされ」つつあった。風景にはノイズのようなものが発生し、今まであった風景が、マス目状に剥ぎ取られてゆく。同時に、新しい風景が「貼り付け」られていく。
あたかも「並べ替えパズル」のように、めまぐるしく、今までと、これからが変わる。皆はただ見つめることしかできなかった。
そこには、校庭も舗装道路も車もなくなっていた。
ただ建築物と人間だけを残し、さっき見た、あの草原が広がっていた。
電子黒板の女性の声は、再び話しかける。
「これはとあるゲームの世界です。書き換えるのに簡単な素材だから、使わせてもらいました。この国で一番ユーザーが多いので、情報も共有しやすいでしょう」
電子黒板はゲームのチュートリアル説明画面が写っている。
「職業は全て、ゲームに従います。主に、戦う職業は、若者が行い、職人や商人などは、年寄りや子供にするといいでしょう。ただし、どれを選ぶかは、自分次第。みなさんそれぞれ、選んでください。それではくれぐれも滅亡しないよう、頑張って生き延びてください。健闘を祈ります」
声は消え、「職業選択画面」のみが残った。