おまけ その頃のナヅキさん
誰もいなくなり、寂れた店内で1人ポツンと居座る女性がいた。
この店の主、ナヅキである。
「ふむ、九朗君。お茶」
新聞に目を落としながら、呟く。
……だが反応するものは誰もいない。
先ほど自分で指示を出して、《ダンジョン》に同行させたのだから。
「……自分で入れるか、お茶」
よいしょと立ち上がり、台所へ向かう。
しかしお茶を入れようと思っても、よく考えたら最近自分で入れていないことに気が付く。
というかいままで店で買ったものを飲んでいたのだ、自分で作ったことはない。
「……作ってみるか。九朗君にできて私にできないわけがない」
まず、どこにお茶の葉があるのか、そこが問題だった。
とりあえず台所をひっくりかえしてみる。
九朗にまかせきりだった台所は、1人で店を切り盛りしていた時とはすっかり変わっていた。
極端にいうと、綺麗だった。
その代わりに、どこに何がおいてあるのかわからなくなったのだ。
結局お茶の葉ひとつ見つけることはできなかった。
「……もうお茶はいいか……」
仕方なく、カウンターに戻りまた椅子に座る。
「……喉かわいたな」
と、独り言を呟きながら、新聞を読んで気を紛らわすナヅキだった。