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カミドの街の錬金術師  作者: 現夢中
《夢追いし》営業中
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《夢追いし》営業中(4)

 世界には、様々な《ダンジョン》がある。

例えば、真っ暗な洞窟だとか、旧時代の遺跡だとか。

 その種類は数え切れないほどあるらしい。

 それもそのはず大抵の場合、《ダンジョン》とは《怪物》が集い

コロニー化した場所のことを指すからである。

 勿論、集う《怪物》は場所によって様々だ。

だから《ダンジョン》内には、《怪物》達による独自の生態系が築かれている。


「九朗、何を読んでるんだ?」


「できるダンジョン攻略って本です」


 以上のことは、この本に書いてあります。

定価1200アルバルト……金貨1枚ほど。


「そういうの読んでも、あんまり意味ないとおもうぞ」


「気持ちの問題なんですよ」


 同じ未知の物に挑戦するにしても

予習したぞ!と思い込むのとそうでないのとでは

心の持ちように雲泥の差がある……と思う。


「さて、じゃあ入るぞ九朗」


 バルッタさんがそうして指差した先には、いかにもおぞましい入り口があった。

紫や赤の肉片のような何かが壁のあちこちにこびりついており、想像していたものとまったく違う。


「ちょっと気持ち悪いんですけど……」


「この《ダンジョン》は中がまだマシだ。いくぞ」


 そう言って入り口をくぐる。

地面にこびりついている肉片のような何かを踏んでしまいグチュリと音を立てる。

 すっごく勘弁してほしい。


「さて、気合を入れろ九朗……!」


 入り口を通りすぎた瞬間、中から生ぬるい風が噴出してくる。

さらに奥に進むと……入り口のグロテスクさからは打って変わっていた。


「すっごいファンシー……?!」


 中はまさしくファンシーという言葉が似合っていた。

壁にはハートマークの壁紙が貼られており、床は真っ赤な絨毯。

 ところどころにシャンデリアがぶらさがっており、入り口とはまた違った

衝撃を受けた。


「恐ろしいだろう……行くぞ……」


 何が恐ろしいのか。

バルッタさんの素がでることか?

 等とおもいながら、バルッタさんの傍を離れないように歩く。


 キキ……クク……カッカ……。


 通路の奥から、奇怪な音が聞こえる。

笑っているような、泣いているような、それでいて怒っているような。

ただ、よくわからない不快感だけが僕を襲う。


「来た……!」

 

 バルッタさんの声が強張る。

張り詰めた空気の中、僕はナヅキさんから預かったネットに手を出した。


(迷惑だけはかけないように……)


 バルッタさんが、背中に背負った巨大な片刃剣を引き抜く。

殺せないとは言っていたが、それでも自衛はするために取り出したのだろう。


「九朗。傍を離れるな」


「は、はい!」


 僕の声が終わった瞬間に、それは現れた。


『グゲガゲゲガエアゲッゲ』


 物陰から、よくわからない不快な鳴き声を発しながら、30cmほどの大きさの人形が

這いずりながら出てきたのだ。

 両足がつぶれており、片目があったであろう場所には紫色の肉片がこびりついている。

 正直すっごいホラーだ。


「ッふん」


 バルッタさんが気合を入れ、引き抜いた巨大な刃で人形に切りかかった。

刃は見事に人形に命中し、木片を撒き散らしながらいよいよ動かなくなった。

 これも、人形が姿を現してから1秒程度の出来事だ。


「人形は大丈夫なんですね」


「ぬいぐるみがダメなのだ」


 しかし判断の早さといい、この巨大な片刃剣を悠々と操るところといい。

この人の実力は相当高いのだろうと、改めて思い知らされる。


「進むぞ九朗」


 バルッタさんがそういいかけた時、異常に気がついた。

今僕達が立っている場所は、壁のあちこちに小さな穴が開いていた。

 さっきまでは気にも留めていなかった穴だが、今はその穴に釘付けだった。

 ……穴の中から何かがこちらを覗いている、しかも一匹や二匹ではない。

かなり多い……!


「バルッタさん!」


「わかっている。囲まれたな」


 焦る僕とは違い、バルッタさんはこんな状況でもその冷静さを崩さなかった。


「とりあえず俺の後ろでしゃがんでおけ。少し乱戦になる」


 そう言うとバルッタさんは、片刃剣を正面に構える。

まるでサムライのような、美しいとすらいえる構えだった。


「……来る」


 バルッタさんのこの言葉で、まるで琴線が切れたかのごとく

小さな穴という穴から大量の人形が飛び出してきた。

 手には小さなナイフ、ガラス、鈍器を持って!


『グガガガゲゲアガ』


 両足両手がしっかりついている人形は、壁を蹴り、床を蹴り、高く跳躍する。

その跳躍はバルッタさんの喉下にも届くような勢いだった。

 人形はそれぞれが所持している武器をバルッタさんに向ける。

 "殺しに来ているのだ"。


「おらァッ!」

 

 しかしバルッタさんは、自分に向けられた武器を軽々しく避け、さらに片刃剣で叩き潰していく。

一匹、二匹、三匹……次々に飛び掛ってくる人形を、武器を、殺意を、この男は全て避け、斬る。

 それは、まるで荒々しく踊っている竜のようだった。


「九朗!捕獲するのはこいつらか?」


「いえ!ナヅキさんからはぬいぐるみだと聞いています!」


「なら……」


 バルッタさんは、片刃剣を正面に構え、上半身をすばやく左右に捻る。


風陣廻斬(ふうじんまわしぎり)


 すばやい身のこなしで、まるで刃が一回転したかのように見えた。

そう、端的に表現するならこれは……、回転斬だ!

 バルッタさんが放った回転斬によって、周りに風圧が発生する。

その風圧で、群がってきてた人形達は遠く飛ばされて行く。


「九朗!ボーっとするな!逃げるぞ」


 既に片刃剣を背中にしまいこんだバルッタさんが

技に見とれていた僕の背中を猫のようにつまむ。


「うわっ!?」


「走れ!」


 ちょこんと地面に立たされた僕に、バルッタさんが叫ぶ。

その声に条件反射で走り出す。


「全部倒しちゃわなかったんですかーー!?」


 走りながら必死に声をあげる。


「キリがない!そもそも目的は、ぬいぐるみの捕獲だろう!」


 それもそうだ。

僕らの目的は、ナヅキさんの言うとおりぬいぐるみを確保することだ。

 この《ダンジョン》を攻略することじゃない。


「お、おおおお追ってくる!?」


「当然だろうが!」


 吹き飛ばされたあとの人形が、ぞろぞろと僕らを目掛けて移動を始める。

中にはさっきの技で、足が壊れたものや身体が半壊しているものもいる。

 うぞうぞうぞうぞうぞと、壊れた人形が追い立ててくる。


「めっちゃ怖いですよこれえええええ」


「男だろうが九朗!ともかくはしれえ!」


 そのまま僕達は、ファンシーで目の痛くなるような廊下を

全力疾走し続けた……。


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