ラッドアットの殺人鬼(終)
僕が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。
今度は病院かとおもいつつ、身体を起こす。
「痛ッ!しゃれにならない!」
ついわけのわからない言葉を口走ってしまうくらい痛かった。
なにせ、腕、足、腹を刺されたのだ。
生きている分ラッキーだと思うべきか。
「暗いな」
窓の外を見る限り、どうやら夜のようだった。
「へんな時間に目がさめちゃったな」
病室にはどうやら、誰もいないようだった。
僕のベッドにもたれかかるようにして寝息をたてている時雨以外は。
「時雨も散々やられたのに、僕の心配なんかしてる場合じゃないだろ……時雨」
時雨は、腕に包帯を巻いていた。
結構深く刺されていたみたいで、厳重に巻いてある。
「でも、よかった」
生きてて。
自分でも、こんなに時雨のことを大事に思っているなんて驚きだった。
好きだとか、そんな気持ちじゃなくて。
ただ一緒にいたいなと思う。
「ほんと、ちょっと前まで意地悪してたのが嘘みたいだ」
僕は、それが自分勝手だと思った。
勝手に嫉妬して、意地悪をして。
と思えば、次は一緒にいたいと思ったり。
「気持ちの整理もできないなんて、やっぱり子供だよ」
誰が聞いているわけでもない。
ただ独り言を言いたくなった。
自分への戒めでもあった。
「……」
そっと、時雨の頭を撫でる。
「ありがとう、時雨。これからもよろしく」
すーすーと静かな寝息を立てる助手に
僕は自分の気持ちを伝えた。
これからもきっと、迷惑をかけるだろうけど。
僕ももっと大人になるからと。
誰にも聞こえない、一人の決意を固める。
▼
「ナヅキちゃぁん……」
九朗君のお見舞いの帰り道、シズクが突然弱弱しい声を出す。
「どうした、シズク」
「あのね、マル君のことで……」
マルグス……。
あいつは、過去の出来事を引きずって引き返せないところまで来てしまっている。
でも私には……、どうすることもできない。
「もういい」
言葉が少し強くなってしまった。
ごめんと謝ったあとに、私の気持ちを伝える。
「マルグスは……もう仕方がない。私が逃げてきた罰だ」
「ナヅキちゃん……」
月夜が当たる夜道、私とシズクは歩き続ける。
自分達の居場所に向かって。
でもそれは、マルグスとは正反対の道で。
どこで違えてしまったのだろうか。
昔は、同じ魔法学校の生徒で。
仲のいい4人組だったじゃないか。
「ごめんな、シズク。もう大丈夫だ」
「それならいいですよぉ……でも」
無理しないでくださいねぇ~と。
私の親友は間の抜けた声でそう言った。
「大丈夫さ。帰ろう、シズク」
「はいです~」
今ここに"アイツ"がいたら、なんて言っただろう。
などと、あえりえないことを考える。
それは私の願望だった。
……でもまぁ、今はそんなことよりも。
がんばった我が弟子と、その助手にどんなプレゼントをやろうかと考える。
そっちのほうが、今は重要だな。
これでラッドアットの殺人鬼編終了です!
九朗と時雨は、さらに歩み寄りいいパートナーになっていきますね。
次回は戦闘なしのまったり回を予定!
時雨ちゃんの猫好きなところをぜひ見てあげてくださいね!




