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チルチルサマー  作者: 戦刃 紫染 (慚愧)
第一章「デイズinサマー」
4/4

ストレイチルドレン1-3

○-------

●      /2

「……アツい」

颯に、そそのかされて二年ぶりの外出をすることになったはいいことなのだが、家を出て早々にボクは死にそうになっていた。

雲ひとつない炎天下、道路は陽炎揺らめくほど熱せられていて、クーラーのある生活に慣れきってしまった体は、滝のように汗が流れ出て今にも溶けそうだ。

汗で濡れて被っているヘッドホンの耳当ての部分がグチョグチョして気持ち悪い。

さっさと食材と電子部品を買って帰りたいところだが、このままでは、店にたどり着けるのかも怪しい。

引きこもっていた二年間で街の風景は変わっており、地図アプリを開きながら歩いても時々間違える。

おまけに暑さのせいで行軍速度が落ち太陽の殺人光線に晒される時間が長くなる、そのせいでさらに行軍速度が遅くなる、という悪循環で、なかなか目的地にたどり着けそうにない。

途中、自販機で水分補給をしながら、何度目かの曲がり角を抜けてようやく知っている大通りに出ることができた。

街の中心に近づいてきたのか人通りが多くなる。

苦手な人ごみにビクビクしながらその流れに乗って目的の店へ向かう。

少し歩いて大きなビルが見えてきた。地図アプリを見てみると、どうやらあれらしい。

引きこもっている間に、ずいぶんと大きくなったもんだ。目指していた電機店は隣の百貨店と連絡通路で繋がっていた。

電子部品と食料品を外を歩き回いて買い物をする必要がなさそうで助かった。

とりあえず先に電気店のほうの用事を済ませよう。

店のドアを開いて店内へ入る。

「ふぁああああ~」

入ったとたん心地のよい冷気がやってきて思わず生き返った気分になって蕩けた様な声を出してしまった。

誰か聞いてないよな?と羞恥心に襲われた、その時、冷や水を浴びせられたかのように、背筋に寒気が走った。

「……っ!?」

あわてて振り返るもそこには、夏の暑さにやられた亡者の行進があるだけだった。

……気のせいか?一瞬殺気のようなものを感じ取ったが……

久々の外出で変に緊張でもしてたのだろう。

なんだか嫌な予感もするが、このことは、勘違いということにしてさっさと、買い物を済ましてしまおう。

ボクはエスカレーターに乗って電子部品のコーナーを目指した。



結局、双子の昼飯を買って家で食べなければならなかったために、商品の物色にあまり時間をかけることができなかった。

それでもいいものが手に入り、そのままもって帰るのは一苦労だったので、宅配してもらうことにして僕は、百貨店下のスーパーで、夕食の分も買い込んで帰路についた。


双子のためにアイスを買ったのは少し早まったのかもしれない。

野菜お肉に加えドライアイス、大きめのアイスで重さ倍増、遅い歩行速度が更に遅くなる。

ドライアイスで冷たさを維持してはいるものの熱気に負けそうで、急速に溶け始めていた。

早く帰らなきゃ。

暑さのせいで、僕の思考はもうそれだけしか考えられなかった。

砂漠で遭難した人のように、一歩一歩を踏みしめながら路地を歩く。


家まであともうちょっと、大通りから路地裏を抜けて住宅街へ入った。

さして広くない道路

そこに、ボクの行く手を阻むように、白いフードパーカーを着た男が立っていた。

顔はうつむきフードをかぶっているので表情は見えない。

だが、ボクは直感でこいつはやばいと感じた。

「……お前だな?」

殺気のこもった低い声、男はうつむいていた顔をわずかに上げ言った。

「……お前が『夏の迷い子』を迷わせているのだな」

いったい何の話だ?と聞き返したくなったが、男の殺気がそれを許さない。

一歩一歩、男がこちらに寄ってきた。

それにつられボクは後ずさりをする。

その歩調は次第に速くなる。

そして、男はこちらに歩みながら袖口から一本のサバイバルナイフを出した、その瞬間ナイフを腰元に構え突進してきた。

「返せ、俺のあの子を返しやがれええええええええええええ!!」

ボクは荷物を捨てなりふり構わず、逃げ出した。

「うわぁぁぁああああああああああああああああっ!!!!」

なんなんだ。いったいなんなんだ!

暑いのも殺人的な太陽の日差しも関係ない、死に物狂いで路地裏を駆け抜ける。

だが、二年間の引きこもり生活で弱った体は、急な運動に耐え切れなかった。

少し走ったところで、足がもつれ盛大に転ぶ。

あわてて起き上がろうとするが、時すでに遅し、男に追いつかれナイフが今振り下ろされようとしていた。

男と目が合った。その目は血走り焦点が合っていない。

ボクはもう駄目だ。とギュッと目をつぶった。


その時だった。

「ぐはぁ!」

突然聞こえた、衝突音と男の悲鳴。何が起こったのか。

ボクは恐る恐る目を開けた。するとそこには、男がいたはずの場所に、自転車に乗った少年がいた。

「無事か?」

最初、その少年は、帽子を目深くかぶっていて誰かわからなかったが、声を聞いて思わず、その少年の名を叫んだ。

つるぎっ!」

「ん、その声は大河じゃないか、しばらく見ないうちにずいぶんと美少年になりやがって……」

昔の同級生であった楯無剣たてなしつるぎはそう言うと、自転車から降り籠に入っていた一冊の分厚い本を取り出した。

「積もる話は後だ。先にあのストーカーを倒そう、大河は警察に連絡しておいてくれ。」

「わ、わかった」

ポケットから震える手で、ケータイを操作して110番通報をする。

吹っ飛ばされていた男のほうは、轢かれたときのダメージから回復したのか、地面から起き上がり再びこちらに向かって突進してきた。

「お前も邪魔をするなぁぁああああっ!」

叫び声をあげながら剣に向かってナイフを突き出す。

対する剣は、代わりに本を突き出した。

ナイフが本の表紙に突き刺さり貫通する。

「はっ」

ナイフを封じた剣は、短く息を吐いて手首をひねりナイフを男の手から奪った。

そしてナイフが刺さった本ごとポイすると、ナイフを取られ呆けた状態の男の股間をつま先で蹴り上げた。

「っ!!」

「うわぁ……」

その瞬間を見ていたボクは、一瞬だけ男のほうが気の毒に思えた。

あまりの痛さに声も出なかったのだろう。男は股間を押さえたまま地面に崩れ落ちた。

だが剣の攻撃はここで終わらなかった。

今度は男の腹を蹴り飛ばし地面に倒す。そして再びがら空きになった股間あたりを踏み潰した・・・・・。それも何度も。

その行為を剣は、男が白目をむくまで続けた。


「ふぅ、疲れた」

男を倒しなぜか持っていた紐で縛り上げた、剣は清々しい顔をしながら僕の元へ戻ってきた。

「大丈夫か?」

「あぁ、助かった。ありがとう」

ボクは立ち上がろうとして、腰が抜けてしまったのかうまく立てない。

しかたないな、と剣は手を差し伸べてくれてようやく立ち上がれた。

恐怖のせいか足がまだ震えている。

「しかし、剣は強かったんだな」

二年ぶりに会ったとはいえ彼にそんなイメージはなかったはずなのだが……

「読書家たるもの、何時如何なるときも読書できるよう体を鍛えておけってな」

そういえば、こいつはそういうやつだった。

剣は、三度の飯より本が好きで、四六時中本を読んでいるようなやつだ。

学校でも、図書委員長を務めており、利用者数が少ないのと司書さんがめんどくさがりなことに漬け込んで、図書室を彼の領域にしてしまったという伝説を持っている。

「……さて、改めて久しぶり」

「うん、久しぶり」

「見た感じ、元気そうで何よりだ」

「剣のほうこそ」

「いや~二年前のあの事件を知ってしばらく寝込んだよ」

「……桜のことか?」

「あぁ……」

ボクと剣は、幼馴染であり桜の共通の友人であった。特に剣は、桜と仲がよかった。

「まぁ、お前とは違って寝込んだ後は、学校に行ったよ」

「そっか」

「悪かったな、お前の事も構ってられなくて」

「うん、いいよこうして助けてくれたし」

そういってボクは微笑んだ。

すると、剣はボクを上から下まで見つめ

「しかしまぁ、ずいぶんと美少年になりやがって。せっかくその性別・・・・にふさわしい・・・・・・女物・・の洋服着てもただのイケメンにしか見えないぞ」

言われボクは、ガックリとうなだれた。

「そうなんだよね……ボーイッシュにもほどがあるよ。せっかく髪伸ばしているのに」

「まずは、その一人称を直すこったな。男と間違われても仕方ない」

と、そのときパトカーのサイレンが遠くのほうから聞こえてきた。

通報したのがようやく来たらしい。

「おっ、ようやく来たな。俺が誘導してくる。お前は少し休んでいろ」

「う、うん」

剣は、パトカーを呼びに行くため、その場を離れていった。

後に残されたボクは、ようやく緊張というか恐怖に開放された気がして不意に力が抜け、意識を手放してしまった。


そのとき最後に、見えたのは倒した男のそばに佇む白い少女だった。

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