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チルチルサマー  作者: 戦刃 紫染 (慚愧)
第一章「デイズinサマー」
3/4

ストレイチルドレン1-2

○------ 

●    /2


目覚めてしまった時計バーサーカーをたたき伏せた後、パジャマから青色ジャージに着替え身支度を整えるとリビングへ向かった。

「タイガさん、おはようございます」「タイガ、おはよう!」

「二人とも、おはよ~」

そこには、双子の兄妹が先に起きて、ニュースなり新聞を読んでいた。

物腰の柔らかいほうが兄の東風谷颯こちやはやて

元気はつらつとしているのが妹の東風谷楓こちやかえでだ。

この双子は、姓が違うことから察せられるように、ボクの弟たちではない。

二年ほど前、双子の姉である東風谷桜と友人関係であったことから、彼女らの父親に双子を預かってくれと頼まれたのだ。

その時、ボクは何の疑いもなく二人を預かったのだが、後になって何かの事件に巻き込まれていたために、双子を安全地帯へ逃がすためだったのか両親と桜は行方不明になってしまった。

そのことをボクはとても後悔している。

何か手助けできることはなかったのか。助けを求める声を聞き逃していたのではないか。

そんなことを考えるのは、お節介が過ぎるのかもしれないがそう思わざるを得なかった。


「タイガさん、なんかやつれてますけど大丈夫ですか」

「あぁ、大丈夫、ダイジョウブ、ちょっと夜更かししてちょっとね……」

ふあぁ、と出そうになる欠伸をかみ殺しながらボクはリビングの隣にあるキッチンに向かい朝食の準備を始める。

我が家では、基本和食だ。そのため小六の二人が作るにはいささか荷が重いので、こうしてボクが作ることになっている。

「タイガさん手伝います」「あっ、私も!」

フライパンを出しまず一品目を作り始めると、二人が手伝いを申し出た。

「じゃあ、米を研ぐのと、食器を洗うのをお願い」

「わかりました」「わかった」

火を扱うのはボクがやり残りを二人に任せ、手早く調理を進めていく。

おかげで、朝食はあっという間に出来上がった。


ご飯に味噌汁、焼き魚に卵焼きとこれぞ庶民っといったメニューを机に並べ三人。席に着く。

「「「いただきます!」」」

合唱と共に食事が始まり各々が箸を進め始める。

うん、今日の味付けはうまくいったようだ。味噌汁がおいしい。

しかし、こうしてみると双子でも性格がこんなにも真逆なものなのだろうか。

ボクの隣に座る楓は、がっつく様に食べ、その正面に座る颯は深窓の佳人とでも言えるくらい上品に箸を進めていた。

さっきの調理のときも米を研ぐのは颯が、食器を洗うのは、楓がやっていたし……性格的に普通は逆だと思うのだが。

……つい、中身が変わったらどうなってしまうのだろうと考えてしまった。

案外違和感がないのかもしれない……

そんなくだらないことを思っていたら、不意に楓が話を切り出した。

「タイガ、今度遊園地へ行く計画どうなっているの?」

「ん?あー、も、問題ないよ。ちゃんと立ててあるよ」

そういえば、そんな約束していたんだった。なにせ夏休みの最初にしたのだ。そのときにすぐ計画は立てていたっきり言われるまですっかり頭から抜けていた。確か明後日の18日に行くんだっけか。

大丈夫、ちゃんと覚えていましたよー的な表情を取り繕いつつボクは、尋ねる。

「そういう楓も行ける準備できてる?宿題とか」

すると、楓はぎくうっ、と肩を竦ませた。

どうやら、できていないらしい。

「だ、大丈夫、明日中に全部できるもん!」

「算数ドリルと、読書感想文、その他もろもろ全部をできるのか?ちなみに僕はすでに出来ているからね」

颯の横槍に、楓はがっくりと項垂れた。

「まぁ、まぁ、当日までにある程度できてたらいいよ」

一応フォローを入れてやるが、たぶん楓は夏休み終盤悲鳴を上げるくらいしかやらないだろう。

実際、そのことは本人が一番わかってるようで、再び顔を上げた時の表情は、いかにも手伝ってくださいと救いを求める子羊のような顔をしていた。

「「ボクは手伝ってやらないからな」」

二人一緒にそう言ってやると、楓は机に崩れ落ちた。



「じゃあ、何かあったら呼んでね」

朝食を終え、完食した食器を片付けた後、ボクは自分の部屋に引きこもった。

部屋のパソコンに電源を入れヘッドフォンをかぶり外の世界をシャットアウト、一人自分だけの電脳世界へ入る。

二年前のあの日からずっとこの生活をしていた。

世間ではこういうのを自宅警備員とか引きニートだの呼ぶようだが、まさしくそのとおりだろう。

あの日、双子とは別件でボクは事件に巻き込まれた。そのときのショックで、学校も休学してしまっている。

双子のおかげで少々マシになっているが、いなかったら立ち直れずにもっと酷い事になっていただろう。

仕事ばかりでめったに帰ってこない親だがボクの気持ちを理解してくれている。トラウマを克服してくれるのを待ってくれている。

ボクは、まだ外に行く勇気を振り絞れないでいた。


パソコンが起ち上がり、画面の隅に、小さな少女が現れた。

虎耳をした目つきの悪いフードパーカーを着た少女は、ボクが作ったAI「トララコ」だ。

彼女は主にボクがする作業のサポートなどをしてもらういわゆる秘書的な存在だ。

ボクがする作業というのは、パソコンで日ごろやっているプログラミングとかハッキングのことだ。

ボクはフリーのプログラマーとして納期の迫ったプログラムを期日内に収められるよう手伝ったり、時々アプリなんか作って稼いでる。

ハッキングのほうは、趣味のようなものだ。

いろいろなところにもぐりこんでは、極秘情報をあさり公にぶちまけていく。

そのおかげで、いくつかテロや紛争を未然に食い止めたこともあったらしいが、別に正義心からやったわけではない。ただの自己満足を満たすためだ。

この小さな部屋でそんなことをしても、君が戻ってくるわけでもないのにね。


さて今日は、することもないのでかねてから作っていたゲームのアプリの開発を進めることとしよう。

まず、インターネットを開いてお気に入りの動画を流し作業用BGMにする。

他に面白そうな動画はトララコに探させて、今度はプログラミング用のソフトを開き作業を始める。

カタカタとキーボードの上で指を踊らせプログラムを打ち込んでいく。

途中トララコがお勧めした動画を再生させたり、打ち込んだプログラムがきちんと動くかテストさせたりする。

そうしている間にもう昼時。小腹が減り始めてきた。

もうこんな時間か~、と気伸びをして固まった体をほぐす。

その時だった。


プスン、とパソコンが突然落ちた。そしてプスプスと焦げたようなにおいが臭い始める。

「えっ、えぇえええっ!?」

まさかの出来事に、驚きを通り越して唖然するしかない。

あれか?オーバーヒートでコードが焼き切れてしまったのか?

幸いにもデータはセーブ&バックアップしているので大丈夫だと思うが、急にこんな形で寿命を迎えるとは思わなかった。

パソコンの中身を開けてみると中のコードと基盤がいくつか駄目になっていた。

この部品は、通販では取り扱っていないところだ。直接、買いにいかないといけない。

「うぅ……」

双子にお使いを頼むか…いやこれは少しハードルが高過ぎる。

こんなときでも、他力本願。少しは情けないと思う。もう少し自分で何とかしなければ……

では、どうしたら……と頭を悩ませていると、ぐぅ~と、大きな腹の虫が鳴った。


……とりあえずおなかが減った。

この問題はとりあえず保留にして昼飯にしよう。

部屋から出て、リビングへ向かうとそこでは、双子が机に座り宿題を進めていた。

すらすらとペンを走らせる颯に対し、楓はペンが止まっていて、時折うがー、と頭を抱えていた。

「二人とも、宿題は順調?」

すると颯がこちらを向いて首を横に振った。

「僕はともかく、楓が全然だめです。算数はともかく国語がちょっとだめです」

「あぅぅ~」

頭を使いすぎたのか、楓の頭からさっきのパソコンみたいに煙が立ち上っている。

「国語は、ちょっとなぁ……ボクは理系だからねぇ。まぁちょうど昼時だしここら辺で休憩にしようか」

「わかりました」「ふぁ~い」

さっそく、昼飯を作ろうとボクはキッチンに向かい冷蔵庫を物色し始める。

そこで、ボクは固まった。

「なんていうことだ……ボクとしたことが兵糧の量を測り間違えていたとは……っ!?」

冷蔵庫の中身は、昼飯になりそうな材料がなかった。あるのはジュースとか牛乳とかそこらへん。

今のボクたちは、頭を使った後で、栄養を欲している。流動食ぐらいじゃ夕食まで持ちそうにない。というか夕食分もない。

仕方ない双子にお使いに行ってもらおうか。

そう言おうと振り返るとそこには、颯が立っていて、申し訳なさそうに言った。


「すいません。タイガさん。本来ならあなたの気持ちを知っている僕たちが行くべきなんでしょうけど、今楓は明後日遊園地に行くためにがんばっていてグロッキー状態です」

そこで、一息入れ続ける。

「こんなことをいうのもあれなのですが、僕は楓のサポートしなきゃいけないので、タイガさんが買い物行ってくれませんか?」

「……………………」

「タイガさんが、二年前のことで外に行くのが怖いのはわかっています。

ですが、そろそろその殻を破るときなんだと思います。

明後日遊園地へ行くことを約束してくれたのはとてもうれしかったです。

タイガさんのおかげで、僕たちは不幸な運命に会わずにすんでいます。

だから、今度はタイガさんがそのつらい運命から解放される番です」

「……………生意気な奴め、小六のくせに偉そうなこと言ってくれちゃって、手伝わないんじゃなかったのか?」

年下相手に、こんな事言われたら逃げるわけにはいかなくなってしまうではないか。

はぁ~とため息ついて苦笑いしてやると颯は、すいませんと一緒に笑う

「僕は手伝いませんよ。支えてやるだけです」

「そこが、生意気なんだよ。仕方ない今日はボクが行こう」

双子がこんなボクを応援してくれてんだ。がんばるしかないだろう。

じゃ、楓のことは頼んだよといって、ボクは自分の部屋に戻る。


さすがに外をジャージで行くのは無茶だろう。

久々に開けたクローゼット。たまに換気していたが、中は埃くさかった。

何か着れるもんはないかと物色して試着してみる。

サイズに問題なく着れてしまい少々ショックだ。身長とかいろいろ伸びたりしていたかと思っていたのに……

それに、前に買っておいたお気に入りも年をとれば似合うかもと、とっておいたがそんな事はなくますます似合わなくなっていた。

とりあえず、ホットパンツに、青色パーカーを着て行く事にした。


「じゃ、行ってきます」

「いってらっしゃいませ」

颯に見送られてボクは二年ぶりに外の空気を吸った。

あの時と変わらないむせる様な熱気だった。

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