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忌神の昔話

 船に乗り込んで一週間が過ぎようとしていた。なぜこんなに時間がかかるのかと船員に聞いたところ、船旅を楽しんでほしいからだそうだ。

 つまりわざと時間がかかるルートを進んでいることになる。考えてみるとおかしい話だ。しかし、まだ子供の俺たちには関係ないことなんだろう。


「風が気持ちいいですねー」


 少し離れた場所でメーアとフィア、ミーナが潮風に当たりながら話している。出来れば俺も混ざりたいけど、女子三人の中に男が一人の構図を、想像した時のぼっち感が凄そうだったので無難に武器の手入れを選んだ。


 フィアは忌神の力に似たモノが使え、メーアの魔法の基礎は、上位魔法であるはずの召喚魔法。ミーナは、並外れた身体能力の持ち主。俺の周りは、濃い人達ばかりだ。


 そういや親父元気かな。


 ここに入学してから一年が経ったけど、連絡一つも入れてないや。今度家に戻るか。


「アインもこっちに来ないの?」


 声がした方向に向くと、この間買った服を着ているフィアが隣にいた。


「いや、いいわ」


「そう、だったらちょうどいい。ねぇアインは、メーアに何か感じない? 」


 俺の言葉を聞いて帰るのかと思いきや、フィアは変なことを言い出した。

 何か感じない? ってあれ? 恋心的な何か? いえいえ全く何もだわ。と心の中で呟く。


「あー、もちろん恋心とかじゃないからね。なんて言うのかな。えっと直感的に初めて会った気がしないとか」


 なんだそっちか。


「別に何も感じなかったけども、それがどうしたんだ? 」


「色々とみんなの事を調べたんだけどね」


 おいちょっと待て。なぜ調べるんだ。


「まあ、なんで調べたのかというと。将来アインの軍を率いるにたる人物かどうかを見極めるために、ね」


 あれあれ。頭がついて行けない。俺はそれなりに頭の回転が速いんだが。

 そんな俺を無視してフィアは、話を進める。


「私の見立てでは、私達が学校を卒業する頃に戦争が起きる。誰と誰が何のために戦うのかは分からないけど。その戦争には必ずあなたが、巻き込まれる。確証はないけど、最近隣国達の動向が少しおかしいの」


 よし、もう考えるのはやめだ。


「分かったがそれとメーアは関係あるのか? 」


 フィアは、真剣な眼差しを俺に向けて静かに口を開いた。


「戦争には関係はないと思う。けど忌神には関係あるかもしれない。調べたんだけど彼女は、聖女の末裔なのよ。で聖女というのは、昔まだ神々が地上にいた頃、神と身体を交え神を産むことができる女性のことを言うの。その行為を『神降ろし』って言うらしいわ」


 ……マジかよ。


「それで忌神とはどんな関係が? 」


 フィアは目を逸らしながら、トーンを落として言う。


「聖女が最後に神降ろしをしたのは、文献によると東の大神エウロスなの、でもさらに古い文献だと、神降ろしをする前に原初の炎神に攫われたって書いてある。そうするともしかしたらメーアは忌神の遠い子孫かもしれない」


 俺は一人で考えたいとフィアに告げ、船内へと戻った。

 当の本人メーアは、向こうでミーナと海を眺めていた。メーアはその事を知っているんだろうか。


 [おい忌神。お前は何でそう呼ばれるようになった]


「あ? 何だ珍しく話しかけてきたと思ったらそんな事が知りたいのか]


 忌神は、前みたいな剽軽な声で懐かしむように語り出した。俺はこの語りを聴き終えたら何を思うんだろうか。


 [いいだろう。話してやるよ。まあ、簡単に言えば、全ての神の内、三分の一を殺戮したからだな。歴史でも習っただろう? 大昔、神は地上にいて、誰が統治するのかで争っていたんだ。有力候補は東の大神エウロスと西の大神ゼピュロス。本当はあと二人北と南がいたんだが、二人は東の大神と西の大神それぞれに協力し、統治者争いからは辞退したんだ。そして、そのニ大勢力は争いを続け、戦力を増強するために人間に目をつけた。だが人間はあまりにも弱かったため、食料くらいに扱われていたわけ。ところがある日、一人の神が人間の女に欲情し、犯した。すると新たな神が産まれた。それを知ったその神は、次々と人間の女を襲ったが、最初の女以外は意味がなかった。それゆえ最初の女を聖女とし、神様製造機として使った。そこで俺が登場な。俺は許せなかった。神の戦争に人間を巻き込むのは神あるまじきことだと。幸い俺は、原初の炎神だったから、神としての力は最上位らへんにいた。それで聖女を助けて、報復するために神々を虐殺した。まあ、結果は西と東、北南にやられたけどな。

 はい! これで昔話は終わりだ]


 そんな事が昔にあったのか。

 神々を虐殺した神と人間でありながら神の子を宿せる人間。

 まだ忌神は何か隠してるはずだ。言わないということは今は時期ではないということなんだろうな。


 [ありがとうな]


 そう言うと忌神は眠りについたようだった。

 部屋から出て外を見る。

 波が船にぶつかり、波は消え、また次の波がの繰り返し、空は晴れ渡り、とても青々としている。淀みはなく澄み切った海。

 気温もそれほど高くないから過ごしやすい。

 こんな天気なら普通、気持ちが昂ぶるんだろうけどあんな話を聴いたあとじゃ、いい気持ちにはなれないな。


 世界は争いが絶えない。けど俺はみんなが笑える世界が見たい。親父にも言われたけど、そんなの甘い幻想なのかもしれないが、時には幻想に浸るのもいいはずだ。

 この世界のどこかで俺と同じことを考えてる人がきっといるはず。


「俺はもう決めた。忌神の力を使ってでも、この身が朽ち果てるまで平和な世界を夢想する」


 誰にも向けていない言葉、そうこの言葉は俺自身に向けたモノ。きっとこれは自分を縛るだろう。けど、今の俺には必要なんだ。強くあるために。


[いや、だから使わせないぜ?]


 せっかくかっこ良く決まったのに……,



 船の汽笛が鳴らされた。ということはもうすぐ街に着くということだ。前方を見ると確かに街が見える。

 そして、無事に船は港に着くことができた。


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