父親の真実
お久しぶりです
どうぞ驚いてってください
俺とフィアは、荷物をまとめ終わり集合場所へと向かっていた。
といっても俺の持ち物と言えば、剣と着替え、少しの金だけだ。
それに対しフィアの荷物は、そこそこの量。集合場所の船着き場に着くと、すでにメーアとミーナが居た。
彼女たちは二人楽しく雑談している。どうやら二人もこっちに気づいたらしく、元気良く腕を振ってくる。
俺とフィアは若干小走り気味に合流し、船へと乗り込んだ。
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その頃、アインの家では一人の男が忍び寄っていた。
「ひ、久しぶりに団長に会うのか……妙に緊張するな」
男はとても緊張した面持ちで、アイン邸のドアに手をかけ、中にいる人、つまりアインの父親ゼファーを呼び出そうとした瞬間だった。ドアが勢いよく開いたのだ。
そのせいで男は顔面をドアに強打し、イケメンの部類に入る男の顔は、一瞬だけひしゃげて後ろへ転んだ。
ふぎゃっ! となんとも間抜けた悲鳴をあげて転んだ男は、立ち上がり顔を上げるとゼファーがゲスい笑みとともに仁王立ちしていた。
「ゼファー団長、酷いっすよ!」
男は不満タラタラの声で、不満をタラタラと吐き出す。
「いつもあなたという人は、こう分かっていながらイタズラして僕を困らせたり困らせたり困らせたり! 何ですか! 僕に恨みでもあるんですか! 」
ゼファーはまあまあとなだめながら言う。
「恨みはあるぞ。学生時代に俺のケーキのイチゴを一個食べた! 」
「ちっさ⁉︎ 小さい! 小さいですよ恨みが!まあ、こんな茶番はやめ、げふっ⁉︎」
男は真面目に話そうと切り出しかけたところを、ゼファーお手製のケーキを顔面にぶつけられ遮断された。
「まあ、茶番はこれくらいにして……アルマお前が来たってことは、育児休暇は終わりってことか?」
いつか、絶対いつかこの人にぎゃふんと言わせてやる! と言いそうな顔をしながらアルマは、そういう気持ちを抑えて真面目な口調で話し出した。
「えぇ、そうです。アスカル王国騎士団ゼファー=フリューゲル総隊長。最近、隣国の動きが活発化しており、僕の読みが正しければおそらく戦争が起きるはずです。
もし戦争となれば、王国最強のあなたが必要不可欠なのです。奥さんのことはまだ区切りがつけれていないかもしれませんが、あなたはアスカル王国騎士団総隊長を背負っている。国事には参加する義務がある」
それに対しゼファーも、さっきのおちゃらけた雰囲気を消して口を開く。
「メディアの事はもう立ち直った。息子のおかげでな。しかし、剣の道からは少し離れていたゆえ、練習相手をしてくれないか? 王国騎士団副隊長アルマ=マギクルア。王都マギクルスト学院理事長殿」
分かりましたと一言言うと、アルマは剣を抜き放ち構えた。
ゼファーも剣を構える。
「じゃ、このコインが地面に落ちた時が合図な」
そう言ってゼファーは、コインを真上に弾く。クルクルと回転しながらコインは上がり、やがて最高到達点まで行くと落ちる。
そして、コインが地面へ当たった。
瞬間、一帯に強烈な風が巻き起こった。木々は揺れ、地面の枯葉は舞い上がり天を駆け上がる。しかし、考えてみれば分かるのだがこんな風は異常だ。絶対に起こした犯人がいる。そしてその犯人は、ゼファーとアルマ。
たった一撃の剣戟でこの風が起きたのだ。
「なにがなまってるですか。全然強い……ですよッ‼︎」
素人には捉えることすら不可能な剣戟がここで、繰り広げられている。もしこの場にアイン達が居たとしても彼らには捉えるのは困難だろう。それまでに次元が異なるのだ。
「ハッハッハ‼︎ 神速の剛剣と呼ばれたのは伊達じゃないってな! ほらほらッ! 」
誰がどう見てもゼファーの優勢なのだが、アルマは全く動じない。むしろ余裕すら感じている顔持ちだった。
「魔法ならメディアさんの次に強いんで、あなたには負けませんよ!
高速展開、魔法限定解除!詠唱破棄ならびに魔力過剰吸収。
第六禁忌魔法 ナイツオブグローリア!」
アルマは大量の魔力を魔法へと変え、詠唱破棄した場合の威力を補うどころかそれを上回るほどの破壊力を実現した。
それは並大抵の者にはできない。なぜなら魔力過剰吸収は通常の数倍の魔力を消費するからだ。ゆえに使うには尋常な魔力を保有する必要がある。現在それを使うことができるのは、ほんの一握りの人のみ。
幾万の聖剣がゼファー目掛けて降り注ぐ。
「いきなり最上位の魔法でしかも禁忌魔法かよ。人の家を壊す気か? アルマ俺の眼のこと忘れたのか 」
そうゼファーが言うとアルマは思い出したように手を叩く。そして叩いた後、顔面が真っ白になり一言「ヤバイ」と呟いた。
「だが流石にこの量を全て無力化するにはちと骨が折れる。盛大にやらさせてもらうぞ。
魔眼発動。マジックイレイザー! 範囲指定、欠点を発見。消去!」
そう言いながらゼファーは剣を薙ぎ払うと、アルマの魔法がなかったかのように霧散する。アルマはまた剣を取り、できる限りの速さで切り込むがもうゼファーは、完全に昔の感覚を思い出した様子。剣を逆手に持つとニンマリと笑った。神速の剛剣の二つ名の通りの速さでアルマの剣を左手で流し、剣は首の裏に回していつでも跳ね飛ばすことがように置いた。
「え、えぇと。参りました! 」
素直にアルマはスタイリッシュな土下座で謝る。それを見てゼファーはにっこりと笑い家の中へ消えた。
そして、アルマは助かったのかと冷や汗を拭った時、目にも止まらぬ速さでゼファーが駆け抜けてアルマの顔にまたケーキをぶつけた。
「結局これ……ですか……っ‼︎」
「近くに湖あるからそこで洗ってこい。戻ってた頃には支度も終わってる」
それを聞いてアルマは湖へと歩きだした。
一方ゼファーはそれを見届けると、家の中へと戻る。
「久しぶりだなこいつを羽織るのも」
押し入れから出した埃を被ったゼファーの誇りの象徴。箱から出すとくたびれてはいるものの、まだ新品さを残している真紅のロングコートが出てきた。
それについた汚れを払い、広げた。
ゼファーは心の底から懐かしいと思った。まだ十代後半に任命された総隊長。しかしなぜか不安はなかったとゼファーは自負している。なぜなら、親友達がいたから、後に妻となる女性もいた。
皆と戦場を馳せ、勝利を収めたあの懐かしい日。
「メディア。俺は君を守れなかった。でも今度こそは誰かを守ってみせるからさ……力を貸しておくれよ……」
するとゼファーの心が暖かいもので満たされた。彼は一筋涙を流すと顔を上げる。その顔は、アインの父としての顔ではなく、アスカル王国騎士団総隊長としてのゼファー=フリューゲルの顔だった。
そして、総隊長の証である真紅のコートを持ち外に出ると、アルマが待っていた。いじられキャラとしての雰囲気じゃなく、頼れる副隊長の雰囲気。
「すまない待ったか? 」
そう聞くとアルマは首を横に振る。
それを見て、ゼファーはロングコートを後ろに回しながら華麗に着た。
背中に映るは、赤いドラゴンが悠然と佇む姿。目に宿るは決意の炎。
ここにアスカル王国騎士団総隊長
【神速の剛剣】ゼファー=フリューゲルは復活した。




