急激な成長
アインが十二歳になった夏。
アインの身体は成長していた。身長は156センチ。他の子ども達と比べてかなり高い。
そして、魔法の勉強の基本は、ほとんど終わり応用へと差し掛かっている。
アインは今、自分の部屋となった母親の部屋で魔道書を読んでいた。
するとドアの向こうから父親の声がする。
「おーい、アイン居るか?」
アインはうんと返事をしながら、魔道書を置き、ドアを開けた。
「お前もいい歳になったし、身長もだいぶ伸びた。だから今日から剣の鍛錬を再開するぞ!」
その言葉をどれだけ待ったかと、アインが拳を握り締め、目を輝かせた。
「ほら! もっと腰を落とせ! 木刀を振る時は腕だけで振ろうとするな! 身体全体を使って振るんだ!
違う!さっきも言っただろ! 身体全体使えよ!」
アインの父親は鬼教官に変貌した。さっきの優しい良き父親とは打って変わってどこかの鬼教官になっている。
しかし言っている事はデタラメなどではなく確かに的を射ていて、最初にやっていた自称の鍛錬よりも何倍も良かった。
それからというもののひたすら木刀を打ち続けた。
振り方の基本を徹底的に叩き込まれる。アインは木刀の重さに振り回される事なく振る事が出来ている。その動きはさもどこかの剣客の様であった。しかし、それでも本物の剣士達には、及ばないだろう。
そして鍛錬を再開して三ヶ月後の事。
「だいぶ形になってきたな。一回俺と本気で打ち合ってみるか?」
父親が提案してくる。
アインは断る理由などどこを探しても見当たるわけがないので、分かったよお父さんと一言だけ返した。
睨み合う二人。
お互い静かに構えている。
父親に至っては目を瞑っている。
これは完全に罠であるがアインはわざとその誘いに乗り、脱兎のごとく距離を縮める。
「ハァァ!」
気合の声とともに一閃。
しかし手応えがない。手応えがないのは当たり前だった。アインの木刀が、父親の放った一太刀で吹き飛ばされていたのだ。アインには何が起きたのか全くわからないでいた。自分が打ち込んだ最高の一閃を、父親に目にも留まらぬ速さで、弾き返されたのだから。アインは呆然としている。
「今までアインに教えていたのは全て基本だ。これからは実戦で覚えてもらうぞ」
実戦に勝る鍛錬なんてないということだろう。
「分かったから、もう一回」
アインはそう言って木刀を構え直し、地を踏みしめ駆け出す。
上半身を捻り、一閃。
しかしそれも余裕の表情で避ける。何度も何度も挑むが一本も当てることが出来ない。
それを続けて一時間。
生きも絶え絶えのアイン。
「もう、おしまいだ。今日は鍛錬終了!」
しかしアインは言うことを無視して父親に突っ込む。
その時だった。
アインの父親は妙な違和感を覚える。そして、その違和感はすぐに分かった。アインの木刀の速度が微妙に上がっているのだ。
身体の動きもだんだんと良くなっている。
これでもかとアインは連撃を入れる。
「ふっ……流石は俺の息子か」
アインが電光石火の如き速さで突きを出す。
それに父親は一瞬驚愕しすぐに突きを弾き、木刀を飛ばす。
こいつは化けるぞと父親は、にんまりと笑みを零していた。
時はあっという間に過ぎ十五歳になったアイン。
今では父親とまともに打ち合えるくらいになったが父親が本気を出すと一分くらいしかもたない。
「だいぶ伸びたな。そこらへんのゴロツキなら瞬殺出来るんじゃないか?」
物騒な事を言い出す父親。
まあ、四六時中、鬼教官と打ち合えば自然にそうなるだろう。
「なあ父さん。一回だけ魔法も使っていい?」
懇願する様に両手を合わせるアイン。
父親は頭を掻き、人差し指を立てて一回だけだぞと合図する。
「だけど、魔法が使うことが出来る隙が有ればの話だ」
父親が一気に距離を詰め、レイピアで繰り出すような突きを放つ。しかしそれをアインはギリギリのところで木刀の側面で流す。
「これだけで安心しては困るな」
突きの型が残ったままそう言って身体を捻じり、木刀を持っていない手でアインの頬に裏拳を決める。
一メートル後ずさるが、なんとか体勢
を保った。
間髪入れずに父親はアインの懐に入り込み脇腹を木刀で薙ぎ払う。
「ぐっ」
苦悶の表情を浮かべるアイン。
(急に本気になるなんで酷くないか。けどほんの少しの隙が有れば……)
父親が次の挙動に入るためにタメに入った。
今だ!と言わんばかり口角を吊り上げる。
人差し指と中指をくっつけ、刀の様にし、空中に文字を魔力で描く。
「我は風を纏う者なり!」
すると文字が勝手に追加され文字の長さが長くなりそれらの文字がアインを中心に螺旋を描く。
そして、文字は霧散した。
灰色の風がアインを覆っている。
本来ならこの時点で父親にやられていただろうがやられていなかった。
父親は、攻撃を加えるのをやめている。
あまりの魔法展開の速さと美しさに驚愕していたのだ。
「驚いた?お父さん。僕はお母さんの子だからさ。高速展開と詠唱の縮小も出来るようになったんだよ」
アインが静かに構え、両足に力を入れる。
父親が構え直すころには目の前にいた。油断していたこともあるがそれ以上に速かったのだ。
灰色の風が道を作り、その道をアインが駆ける。
その中で風の後押しを受け、駆ける速さを一気に加速してからの振り下ろし。
もし誰かがこの場にいたとしたら、その全員が決まったと思っただろう。
しかし、決まらなかった。
アインの木刀は、父親の木刀に交差する形で受け止められていた。
「お前もやるようになったな。父さん嬉しくて泣きそうだぞ」
どの風貌でその言葉を言うのだとアインは思っていた。
父親はさっきと比べて、闘気が全く違う。
全身から滲み出る闘気。普通の兵士がその闘気を受けたなら、即座に戦意を喪失してしまうだろう。
目つきも親の目から狩る側の目になっている。
「じゃ、次の一撃で最後な……どんな魔法を使ってもいいぞ。もし俺の攻撃を防ぐことが出来たらお前の剣を造るようにアルクに言っておいてやる」
アルクという人物は父親の友人、そして自称世界一の鍛治士のこと。
「お父さん。それ……本当だね……?だったらこっちもこれに賭けようかな」
アインはまた指で文字を書き出す。
その文字の量は先ほどの比ではない。書き終わると木刀でその文字を一刀両断する。
すると切られた文字たちは木刀に巻きつき、染み込んだと思ったら、木刀が黄金に輝き出した。
「アイン、その魔法は?」
アインは年齢に似合わない不敵な笑みで口を開く。
「この魔法はね。聖剣化魔法。例えば普通の木刀を聖剣と同じくらいの威力にする魔法」
アインのただの木刀からは、出るはずのない量の魔力が放出されていた。
二話目はどうでしたか?楽しんでいただけたでしょうか?
アインくん強いっすねww
しかし、アインくんのお父様もかなりの実力者なんですよ。昔のお仕事もびっくりする物ですね。まあ、まだ教えないですけどね……
それでは今日はここら辺で。
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