入学一年後
うう、どんどん主人公がダメになってくよー
「アインが私の同居人とは思わなかった」
「俺もだ」
ふーんとフィアはアインを見る。
そして一言。
「なんで忌神の力を使わないの?」
フィアはまっすぐアインを見つめる。
しかしアインは答えず目を背け荷物を広げる。
無言を貫き通す。
逆に質問を投げつける。
「だいたい何故俺が忌神の加護を受けてるってことを知ってる」
顔を見ずに手を動かしながらたんたんと作業を進めている。
「人の顔を見て言ったほうがいいと思う。けどまあ答えるわ。私はヴァイスフェアレーターってのは知ってるでしょ?」
あくまでフィアの顔を見ずに頷くアイン。
「……はぁ。ヴァイスフェアレーターはね。みんな灰色の魔力のみを視力化して見れるのよ。それで初めて会ったあの日からあなたが忌神の加護を受けていることが分かったの」
そうかと納得の声を上げる。
そして二つ目の疑問を投げかけた。
「じゃ何であの力が使えるんだ」
「戦闘中に言ったはずなんだけど聞いてなかったみたいね。まあいいわ。
私たち一族のご先祖様はね忌神に唯一協力した人間なのよ。たった一人でね。
そして忌神はご先祖様に力を分け与えた。
その力は時を経るにつれて私たち一族固有の力に変質した。
でもヴァイスフェアレーターのみんなが使えるわけじゃないから。
まあそういうわけで今の一族の世代では私が一番この力が使える。
理解した?」
とフィアは言った。
「ああ理解した。
あとごめん……その……あんな噂……」
「別にいいわよ気にしないし。
アイン言っておくけどあなたの力は私の力と比べて桁外れの代物だからね。
あなたは忌神の加護をその身一身に受けてるのだから」
ああ、と次はフィアの顔を見て答えたアイン。
ああなんて俺は嫌な奴なんだ……あんな噂をフィアが流されているのに俺は……。
「私寝るから起こさないでね」
フィアは布団の中に潜り込み目を閉じた。
我らがアインは自己嫌悪に押しつぶされそうになりながらもなんとか魔法と忌神の力を使わないで済むよう剣術の鍛錬を開始しようと部屋を後にした。
俺は誰よりも強くなる。
そう誰かを守るためにただ強く。
そして、入学からちょうど一年が経った。
アインはエリートクラスの中でもかなりの実力を誇る生徒になっていた。
フィアは相変わらず噂のせいで孤立しがちではあったがアインとメーアは変わらず接してくれていたので噂なんて気にしていなかった。
メーアもオロオロしているのはあまり変わらないが身体は成長していた。
出るところは出てきており引っ込むべきところはちゃんと引っ込んでいる。
今は中間試験も終わり彼らは談笑していた。
その中にはミーナやアークライト姉妹の姿もあった。
この一年で一番変わったのはアインだった。
入学当初は少しとっつきにくいだけで話しかけることができていたのに今ではどこまでも研いだ真剣のような威圧感がダダ漏れで話しかけるなどできそうもない。
「ね、ねぇアインくん。そろそろそんな雰囲気出すのやめたら?」
「ごめん無理だ」
そう切り捨てるとアインだけ会話の輪から外れて鍛錬場へと直行した。
俺は強くありたい。みんなを守るために。
だから自分なんてどうでもいい。
冷たくなったとしても芯は変わらない。
誰もいない鍛錬場で一人アインは剣を振り続ける。
「我流抜刀術弍ノ型『黒雷』」
黒き剣が空を切り裂く。
切り裂いた回数は二回、素人目には一回しか切っていないように見えるが本当は二回切っている。
あまりにも速いだけ。
しかし、武芸者なら捉えることが可能だが剣戟の重さは異常である。
大概は紫電と黒雷で沈む。
だが中には強者もいるわけで他の技も磨いている。
抜刀術て実用できるのは紫電と黒雷と刹那の三つ。
アインはこの日、自室に帰らず剣を振り続けた。
そして次の日の早朝にアインが自室に帰るとフィアが朝ごはんを食べていた。
食堂の食べ物はお持ち帰りOKなので食堂から持ってきたのだろう。
「今帰ったのね。そんなに鍛錬をしすぎると身体が壊れるわよ」
とフィアは飲み物を啜りながら言った。
余計なお世話だとアインは言い放ちシャワーで汗を流して着替え、座学の勉強を始める。
「あなた随分と変わったわよね。知り合った頃は好少年だったのに、そんなにあなたは強さを求めるの?」
「ああ、俺は守ると決めたからな。この剣術のみで俺はみんなを守る」
アインは机に向かって微塵もフィアを見ずに言う。
フィアはその姿を見て、私があの時伝えたかったのは そういうことじゃないんだけどなと嘆息した。
次回予告メーア編
「ついに回ってきたね!
そういえば作者さんが物語を少し動かすって言ってたよ。
というわけで次回は話が動くかもねー」




