蝶と蛇と驚異1
「夢じゃ…なかった」
眩しい太陽の光で由希は目が覚め、重たい体を起こし部屋の中を見渡して落胆する。
テレビの前に置かれたままのゲーム機、テーブルの上に残された飲み掛けのジュースのコップ、それに食べ掛けのバームクーヘン。綺麗に片付けられる筈だった物達を見れば、夜中のことが夢では無かったと思い知らされる。
ベッドから起き上がり机に向かい、机の下からプレゼントの入った紙袋を持ち、またベッドに戻り腰掛ける。
渡す筈だった凌空への誕生日プレゼントを見つめ、由希は溜め息を吐いた。
カーテンが閉められていない窓から見える凌空の部屋を見て、持っているプレゼントを交互に見る。
朝ご飯を食べTシャツとデニムスカートに着替え、プレゼントの入った紙袋を手に隣の家のチャイムを鳴らす。朝ご飯を食べた後、着替える為部屋に戻った時、凌空の部屋に視線を向けるが、状況は部屋を出て行った時から何も変わって居なかった。
窓からはやはり無理だと思い、玄関から行こうと思った現在、凌空の母親に家に入れて貰い、まだ起きて来て居ないと言う凌空の部屋の前に立っている。
だが中々ドアを開ける事が出来ず、ドアのぶに手を伸ばしまた引っ込め、声を掛け様と口を開いてまた閉じる。その繰り返し。
寝てたらどうしよう…。其れにさっきの事も有るし、でも此処はやっぱり何時も通り思いっきりドアを開けて叩き起こそう。
決意も新たに気合いを入れ、勢い良くドアを開け放った。
「凌空おはよー! もう朝だよっ、起き……」
元気よく部屋に飛び込む良くに入った由希は、目に飛び込んで来た部屋の様子に声を無くした。 カーテンが閉められたままの凌空の部屋に、まだ寝ているのかと思う。
幼い頃から、互いの窓から行き来して居た由希達。由希も窓から凌空の部屋へと行こうと考えたが、窓の鍵が閉められて居る可能性が有ると思い止めた。
朝ご飯を食べ、玄関から入れば確実だと思い、早速由希はコップと皿を手に部屋を出て階段を降りる。
何時も綺麗に片付けられていた部屋が、まるで荒らされたかの様に物が床に散らばり落ちて居る。
「り、く…?」
部屋の中を見渡した後、ベッドの上で片足だけを立てその足に片手と頭を預け、壁に凭れ掛かって居る凌空を見付け、そっと近付いて声を掛ける。
カーテンが閉まって薄暗い室内によって、由希はベッドに居る凌空の姿にすぐ気付く事が出来なかった。ベッドに手を付き、片足だけ乗せた状態で凌空の様子を伺うと、凌空が由希私の存在に気付いたのか、ゆっくり腕に乗せていた顔を上げ前に居る由希を見る。
「…由希? なんで、此処に居るんだよ」
「え、あ…。も、もう朝なのに凌空が全然起きてないから起こしに来たの!」
上げた凌空の顔は、疲れ切った様に生気が無い。声にも張りが無く、寝て居ないのが見てとれる。
そんな凌空の様子に、由希は慌てて顔に笑みを浮かべ言ったが、凌空は「そうか」と其れだけ言い目を伏せてしまう。
「あっ、そうだ! カーテン開けよ? 今日ねー、雲が一つも無くて真っ青な空なんだっ」
気分を変え様と窓に向かい、カーテンを掴み一気に両側に開けた。その瞬間、太陽の光が室内を明るく照らし、どんよりした雰囲気もスッキリした様な気が由希自身はしたが、どうやら凌空は違った様だ。
「ぐ! ゆ、きっ…カーテン、しめ、ろ…!」
光から顔を背け、腕で顔を隠して言う凌空に、
「え…でも天気が――」
「いいから早く閉めろ!!」
其れが由希は不思議で、言おうとした瞬間、凌空の荒げた声に急いで開けたカーテンをもう一度閉める。カーテンを閉めた事で、室内に入って居た光が遮断され、光で温かかった室内が途端に薄暗く、そして寒くなってしまった。
だが凌空は、残念がる由希とは逆に、光の入ら無くなった室内にほっと胸を撫で下ろしていた。
「凌空…どうしたの? 頭でも痛い?」
頭を抑え壁に力なく寄り掛かる凌空に、窓から離れベッドに腰掛け由希は伺うが、
「なんでもねーよ」
凌空は大丈夫だと笑うだけだった。
「でも!」
「大丈夫だって言ってんだろ? 心配すんな」
大丈夫な訳無い。
声を荒げて言う由希の頭を、凌空は撫でて安心させ様とする。それでも、由希に向ける笑みには疲れが浮かんで居た。
無理をして居たのに気付いた由希だが、凌空は何も言わず隠してしまう為、由希は素直に頷くしかなかった。
「そういえば、今日はどうしたんだよ?」
「え?」
邪魔そうに長めの前髪を掻き上げ首を傾げる凌空に、由希は俯いていた顔を上げる。
「え、じゃなくて。何か用が有ったんじゃねーの?」
呆れた様に片眉を上げ、きょとんとして居る由希に問う。
「あ……あ! そうだ! 凌空に渡す物があったのっ」
「渡す物?」
なんだそれ、と頬を掻く仕草をする凌空に、由希はベッドの横に置いて居た紙袋をベッドから身を乗り出し取り、含み笑いを浮かべて凌空の目の前に紙袋を突き出す。
「じゃん!」
「じゃんって…なんだよこれ、」
渡した紙袋を手に、じっと其れを眺める凌空に由希は「いいから開けてみてよ!」と、紙袋を開ける様に託す。
由希がわくわくしながら、凌空が紙袋を開けるのを待って居ると、凌空は半信半疑な面持ちで紙袋の中に手を入れ箱を取り出した。
赤い箱に、黒いリボンで綺麗にラッピングされたその箱を手に、凌空は手を止め目の前に居る由希を見つめ、
「これは?」
掌より少し大きい位の細長い箱を片手に、凌空は首を傾げた。その姿に由希はぎょっとして、輝かせていた目が元に戻る。
「これは? って、それだけ?!」
「はあ? どうしたんだよ急に…」
急に声を荒げた由希に対し、凌空はなんだと箱を見下ろす。由希は口を尖らせ「開けてみて」と箱を指差す。
凌空は由希をちらりと見た後、言われた通りリボンをほどき箱を開けた。中には綺麗に入れられた、二つのネックレスが入っている。
「ネックレス?」
赤い石が埋め込まれたネックレスを箱から取り出し、手の上に乗せ興味深そうに眺める凌空に、由希はまた目を輝かせる。
「それね、凌空の好きな蛇と蝶なんだよ?」
「えっ、まじ?」
「まじまじっ」
驚きネックレスをガン見する凌空に、由希は満足気に笑う。蝶に巻き付く様に絡んで居る蛇。
蛇の目には、赤い石が埋め込まれて居るシルバーネックレス。
小さいながらも、蝶の羽根は丁寧に模様が彫られており、今にも蝶が動き出し何処かへ飛んで行ってしまうんじゃないかという錯覚を起こす程。
蝶に巻き付く蛇の体は滑らかで、綺麗な丸みを帯びて居る。蝶に近付く者を遠ざけて居る様に、開かれた口は一本一本の歯まで丁寧に造られて居た。
「お前…これ、」
「へへっ、気に入った?」
「いや、気にいるっつーか…」
困惑した様にネックレスと由希を交互に見る凌空。そんな凌空に、由希は笑みが止まらない。
「これどうやって買ったんだよ、お前にそんな金…」
「ああ~、大丈夫だよ! 凌空が思ってるほど高くなかったしっ」
大丈夫だとピースする由希に、凌空は納得出来ないのか「でも!」っと尚も聞き出そうとする。絶対に聞き出そうとして居る凌空に、由希は仕方ないと観念した。
「それね、ヒサちゃんに造って貰ったの」
「ヒサ兄に?」
「うん。ヒサちゃんってシルバーアクセサリーのショップやってるでしょ? だからこのデザインで造って~って頼んだの」
「だからか」と納得した凌空は、ネックレスを上にあげ眺める。ヒサちゃんとは由希のお母さんのお兄ちゃんで、名前は永人。
永人はオリジナルのシルバーアクセサリーのショップを持っており、工房も有りお客の要望に答え造ってくれる。
幼い頃から由希と共に遊んで貰って居た凌空も、永人が大好きだ。
「でも本当はね、その蛇の目に埋め込まれてる赤い石、ルビーにしたかったんだけど、お金なんて全然足り無くって。代わりにヒサちゃんが赤いガラスを入れてくれたの。これで我慢しろって!」
頬を膨らませぶつぶつ呟く由希に、
「ルビーなんて無理に決まってんじゃん、そんな安い物じゃねーんだから…」
っと凌空は肩を竦める。
だが、「ありがとな」っと言って由希の頭を撫でた。凌空に頭を撫でられるのが好きな由希は、頬を緩める。
緩めるが嬉しさを噛み締めて居ると、凌空は横に置いたままの箱を手に取り、中からもう一つのネックレスを取り出す。
「由希、このもう一個は?」
「え、それ? ヒサちゃんが凌空とお揃いに私の分も造ってくれたの! ほら、私の方はピンクでしょ?」
凌空の持つネックレスの、ピンクの石が埋め込まれた所を指差す。そこでふと、まだ凌空がネックレスを着けてないのに由希は気付いた。
「ねぇ凌空、ネックレス着けてみてよ!」
「ん? おう!」
由希のネックレスを側に置き、自分のネックレスを着け様と首の後ろに手をやるが、留め具が何度やってもアジャスターに引っ掛からず悪戦苦闘している。
そんな凌空を見かねて、由希は凌空の首に、前から抱き着く様な形で首の後ろに手をやり留めた。
「はいOK!」
「お、おう。サンキューな」
ネックレスを着けた凌空の姿に、由希は満足して指でOKサインを作る。凌空の黒いTシャツの上で揺れ動く度に、赤い石と共に輝くシルバー。
「お前にも着けてやるよ」
「ほんと?! じゃあおねがーい」
凌空の言葉に「私も自分で着けるのって苦手なんだよね!」っと言いながら凌空に背を向けた。 凌空は後ろから由希の首に手を回し、ネックレスを前に持って来る。
そして、さっきの由希と同じ様に、留め具をアジャスターに引っ掛けていた。だが、凌空が由希の髪を払おうとしてから、何時まで経ってもなんのアクションも無い。
「凌空、どうしたの?」
「い、いや…なんでもない。出来たぞ」
「でも、また具合悪くなったんじゃ…」
様子の可笑しい凌空に、由希は振り替える。だが凌空は何故か俯いており、それで更に由希は心配になって凌空の顔を覗き込み、
「え…」
目を疑った。
どうして、なんで。
「り、く…目が――」
赤い。
そう言う前に、凌空は目を見開き顔を反らした。あの時の様に、瞳を赤く染める凌空に由希は言葉を無くす。
何処かで其れだけは違うと思ってた。私の見間違いだったんだって。だけど……
「な、なんのことだよ」
「え、なんのことって…凌空の目が…」
由希の方を見た凌空に、今度は由希が目を見開いた。さっきは確かに赤く染まって居た筈の瞳が、今は赤く染まっては居らず、何時もの黒い色をして居る。 其れには由希も驚き、凌空の顔に近付いてガン見してしまう。
「なんで? だってさっき…」
「由希の見間違えだろ? それに顔ちけぇよ」
凌空の呆れた声にも、由希は「でも!」っと尚も納得出来ずに居る。そんな由希を宥める凌空に、渋々凌空の顔から距離を取った。
その後、疲れたから一眠りすると言う凌空に、由希は家に帰ると告げ、部屋を後にした。自分の部屋に戻って、由希はベッドに倒れ込む。
凌空の前では納得して見せたけど、やっぱり納得出来ない。どうしても、見間違いだったとは思えない。
「なんだったのかな…」
天井を見上げながら、ぽつりと呟いた由希はその後呻きながら、ベッドの上で何度も寝返りを打っていた。
そんな時――
「パンツ見えちゃうよー?」
「……っ!」
音もなく現れたその人物は、ベッドに俯せになって居た由希の足元に立ち、覗き込む様に身を屈めていた。突然の登場に驚いて、体を起こしベッドに座り直す由希の行動に、その人物は可笑しそうに笑っていた。
「何もそんなに慌てなくて良いのに」
「な、なんで此処に! い、いいいつから?!」
「ん? 今」と、当たり前の様に告げたその人物に、由希は口を開け閉めして後退る。
あの時の様に黒いマントを着て、長い髪を弄りながら微笑して居る。
黒い髪は太陽の光で艶やかに輝き、由希を見つめる瞳はあの時よりも明るい赤だった。
「いやー実はさ、あの時俺自己紹介もしないで帰っちゃったでしょ? 帰ってから気付いてさぁ、だから自己紹介しに来たんだよねっ」
参った参ったと、髪を掻き上げる仕草をしたその人物の顔は、全然困ってるようには見えない。
「改めまして、ヴァンパイアのリズシア・クレーク。どうぞお見知りおきを」
「は、はあ…?」
優雅にお辞儀をする、リズシアという人物に、由希は困惑しつつも釣られて頭を下げてしまった。
でも、此れでこの人の用も終わったし、もう帰るでしょ。
なんて思って居た由希だったが、何時まで経っても帰る気配を見せないリズシアに首を傾げる。
「あ、あの~」
「ん? 何?」
「帰らないん、ですか…?」
顎に手をやりながら、カレンダーを見て居たリズシアは、由希の言葉に笑顔で振り返り、一言――「うん、帰らない」と言ってのけた。
此れには由希も目が点。
え、帰るんじゃなくて帰らないの? 自己紹介しに来たんじゃないの? まだ自己紹介でも残ってたりするの?
言葉を失った由希に対し、リズシアは気にする様子も無く、机の上に腰を下ろし一体何処から取り出したのか、赤い液体の入ったグラスを持ち口元に持って行く。
その姿をじっと見ていた由希に気付いたのか、リズシアは、
「此れね、血なんだよ?」
ペロリと唇を舐め、赤い舌を見せたリズシアに、由希は驚きながら壁に背が付く程後退る。
その驚き方が予想以上だったのか、ぷっと吹き出した後腹を抱えて大笑い。
「血な訳ないじゃん! ぷっ、くくっ。ワインだよ、ただのワインっ」
「そ、そうなんですか…」
「そっ、でもまあー…血の方が良いんだけど」
ぼそりと呟かれた言葉は、由希には聞こえなかった。
「赤ワインは、血と似た様な感じだからねっ」
「へ、へ~…」
余り知りたく無い情報だと由希は内心思ったが、それは敢えて言わなかった。そしてリズシアが何度も言って居る、自分はヴァンパイアだという事にも、由希は余り信じて居ないのが現状だ。
乙女ゲームが好きな由希は、勿論そういう類いのゲームをした事も有る。
ゲームをして居る時は、本当にこういう人が居たら良いのにとは、由希も思う。
この世界に行ってみたいなと思う事も、由希にはしょっちゅうだ。
だが、其れと此れとは話が別なのだ。
どんなにファンタジー系が好きだと言っても、突然ヴァンパイアだと言われ目の前に現れても、はいそうですかと簡単に信じられる人は居ないのでは無いだろうか。
流石の由希も、リズシアの言葉はイマイチ信じられない。
「あれ? 何そのネックレス。あの時はそんなの付けて無かったよね?」
ゴクリと喉を動かしワインを飲んだ後、コップを揺らし、中のワインを回転させつつ、左手で由希の着けて居るネックレスを指差す。
「こ、此れは……凌空の誕生日にあげたネックレスとお揃いので…」
「ふーん。蛇と蝶、ねぇ~?」
コップを揺らす右手はそのままに、組んだ足の上で頬杖を付き、興味深そうにネックレスを眺めるリズシアに、ネックレスを見つめはにかんで居た由希は気付かない。
「あ、そうそう。荒川凌空はどう? 元気?」
「あ、あの。あれからあんまり時間経ってませんけど…」
まるで暫く会って居ない様な口振りのリズシアに、苦笑いしか浮かばない。
「えっ、そうだっけ? ああー、そういえばそうかもね~」
笑いながら返された。
「げ、元気だと思いますけど…」
「へ~、元気、ねぇ。…心配かけたく無い訳か」
含み笑いを浮かべ、ぼそりと何かを呟くリズシア。
「其れよりも、どうして態々私に? 凌空に直接聞けばいいんじゃ…」
く気持ち的にも落ち着いた由希は、ベッドの上で正座をして、机の上に座るリズシアを見上げつつ見つめる。
当のリズシアは、リラックスした様子でワインを口に含んだ後、「えー、男に会うより女に会った方が気分いいじゃん。あ、でもキミはちょっと俺のタイプじゃないかも」と、手でボン・キュ・ボンの女の体型を空中に作った。
其れには由希の口も引きつり、恥ずかしさで顔が赤くなる。
「これ位じゃないと俺は興奮しないよう?」
「し、しししなくて結構です!!」
何て事を言うんだと真っ赤な顔で叫んだ由希は、その後ちらりと自分の体を見下ろしガクッと項垂れた。
「と、冗談はさておきっ」
「冗談だったんですか…」
「ん? 冗談半分本気半分かなぁ」
目の笑って居ない笑みを浮かべるリズシアに、由希は呆れるしかない。
「色々言う事は有るんだけどさー、面倒臭いから今は此れだけ。荒川凌空の未来は……キミに掛かってるんだよね~」
「え、凌空の未来…?」
「そう。キミの選択次第では…死んじゃうかもよー?」
サアーッと、窓から冷たい風が入って来る様な錯覚が起きる。
「俺言ったよね? ヴァンパイアは血が必要だって。でも、残念ながら荒川凌空はまだヴァンパイアじゃない」
「……」
「人間がヴァンパイアになる為には、血を飲まなきゃいけない。それも、自分の身近に居る大事に思ってる人の血をね?」
冗談を言うのも、いい加減にして欲しい。だけどリズシアさんの言葉には、言い様のない説得力が有った。
最初は、ヴァンパイアマニアなんじゃないかと、由希は密かに思っていた。だが、リズシアの不思議な雰囲気も、突然音も無く部屋に居る理由も……由希には説明がつかない。
「其れが、荒川凌空にとってはキミって訳。今は必死に押さえて居るみたいだけど、其れも何時まで持つのかね?」
くすりと笑って由希を見つめるリズシアの瞳には、困惑した顔の由希が映り込んで居た。
「言っとくけど、人間は絶対にヴァンパイアフィリアには勝てない。どんなに理性で耐え様と、本能に勝てる人間なんて無に等しいんだからね?」
「っ、でも…!」
凌空はそんな訳無いと、由希が口を開き掛けた瞬間、目の前には妖しく微笑んだリズシアの顔が迫って居た。
「そんなに信用出来ないなら……本人の所に行って来たら?」
「え…」
「きっと――面白い物が見れるかもよ?」
耳元で囁くリズシアの言葉に、由希は目を見開き息付く暇も無く、部屋から飛び出した。