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扉を開けたのはキミだった1

「其れでは此れより、ジュベルス・クレーク侯爵のご子息リク・クレーク様と、ドリウス・ドーキ伯爵の十三番目のご令嬢であるサリス・ドーキ様の儀式を始めさせて頂きます」


 マイクを手に蝶ネクタイをした、何処かのお笑い芸人の様な男性の言葉に、周りからは歓びの声が上がる。玉座のある壁の真っ正面のステージの様になった数十センチの台、その上に凌空とサリス、そして司会者の男性が立って居た。

 由希は其れをずっと遠くの方から眺めて居る。

 マイハズの座る玉座から少し離れた所で、壁に寄り掛かりぼんやりと目の前で繰り広げられる出来事を見つめて居た。 由希の周りには誰も居なく、皆ステージの所に固まって居る為、後ろには由希とマイハズ、其れにマイハズの傍に立って居る数人の従者しか居なかった。


「あれ、こんな所に居たの?」

「はい」

「へー、もっと前に行って見れば良いのに。リクの晴れ姿」


 ワイングラス片手に訪れたリズシアは、ぼーっとステージを見つめてリズシアを一切見ない由希も、対して気にしては居ない様だ。


「ねぇ知ってる? 桜木由希」

「…何をですか」

「これって婚約パーティなんて言ってるけど、本当はもう今から始まる儀式をした瞬間から、結婚しなきゃないんだよ?」

「え…?」


 こてんと首を傾げた由希に、リズシアはグラスに入ったワインを天井のシャンデリアの光で透かす。


「血の儀式って言って、自分の血を一滴ずつ入れたワインを交換して呑む。只其れだけっ、簡単でしょ?」

「血を…呑む」

「そっ。だけど一度儀式をしちゃうと、やっぱり辞めますなんて言えない」

「……」

「血の契約は、絶対の物。」

「血の契約は、ぜったいの、もの…」

「契約からは――逃げられない」

「にげ、られ…ない……」


 リズシアの言葉を繰り返し呟く由希の目には、リズシアが言った事が、今まさに行われて居た。

 指を切り、其処から滴り落ちる血をワイングラスに一滴入れ、サリスはじっと凌空が終わるのを待って居る。


「桜木由希、本当に良いの?」

「……」

「今ならまだ、間に合うんじゃない?」

「……」

「まー、俺は別に関係ないけどさ」


 何も言わない由希がつまらないのか、リズシアはコツコツと革靴を鳴らし、由希から離れてステージの方に向かって行く。


「血を呑む」


 じゃぁ凌空があの人のワインを呑んだら、もう凌空はあの人の物になるの?


「血の契約は絶対」


 一生あの人の傍に居るの? 私の隣じゃなくて? ドクドクと脈打つ心臓が煩い。あの時見せたあの人の顔が忘れられない。

 本当に凌空は、あの人と結婚して幸せになれるの? 保証なんて出来る筈が無い。


 凌空は自分の親指を牙で咬み血を出し、その血をワインに落とした。其れを交換する二人。其れを見た瞬間、今まで由希が耐えて居た想いが、溢れ出して来た。


「いや、だ。ヤダ……」


 凌空が誰かと結婚するなんて、やっぱり嫌だ。


(だったら…)


 ああ、声がする。


(簡単な事じゃない)


 簡単な、こと……?


(邪魔な者は……)


――消せばいい。


 ガチャッと、確かに其れは静かに開いた。

 其処から現れたのは――


「ああ…其れもそうだ」


 その瞬間、凌空のワインを呑もうとして居たサリスは……何か(・・)によって壁に叩き付けられて居た。



 何十にも掛けられた扉の向こうにある物は何だろうか?


 光?


 闇?


 分からない。


 だが確かに其れは、



――笑いながら姿を現したのだ。

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