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婚約パーティと仲違い3

「何処でパーティをするんですか?」

「一階に有るパーティ用のホールだよ。あそこは王族と侯爵(こうしゃく)、其れに伯爵しか使えないんだ。というか、パーティなんて王族とかの人達しか頻繁に行わないしね?」


 乱れた前髪を掻き上げながら、そう笑って言うリュウロに、由希は手を引かれながらドレスの裾を気にしつつ歩きながら聞く。


「あの、リュウロさんはその~……」

「ん? どうしたの?」

「えっと…結婚、してるんですか?」


 聞きづらかったのか、躊躇いがちに言った由希に、リュウロは呆気に取られた後くすくす笑う。


「俺はしてないよ。そんなに聞きにくい事だったの?」

「な、何ていうか…その、気軽に聞いて良い事なのかなぁーって」


 人間の世界と此方の世界で、何処まで違いが有るのか分からない由希は、結婚の事も聞こうかどうか迷った。


「全然大丈夫だよ? そういうのは人間の所とさして違いは無いし、そこまで遠慮しないで?」


 振り返り微笑むリュウロに、由希はコクリと頷き慣れない高いヒールのパンプスを見下ろした。

 赤絨毯の上を歩くピンクのパンプスは、カクカクと今にも倒れそうな程不安定で、背筋を伸ばして歩く事も出来ずに居た。

 だがそんな由希の様子も、今日のリュウロは気付く気配が無い。コツコツと黒の革靴を鳴らし、スーツの裾を靡かせ軽快に歩いて先を急いで居る。


 何度目かの角を曲がり、目の前には白の、由希の身長の何倍も有る扉が存在して居た。

 白に金のドアのぶがよく栄え、扉の表面には薔薇や小鳥等が細かく彫られており、其れを目の当たりにした由希は、ぽけーっと口を開け扉を見上げた。


「由希ちゃん、行くよ?」

「あ! は、はいっ」


 ガン見して居た由希の右手を取り、リュウロは金のドアのぶに手を掛け、重たい音と共に扉を開け放った。


 扉を開けて広がる世界は――まるで別世界で在った。

 光輝くシャンデリア。きらびやかな衣服を纏った女性と男性。話に花を咲かせる人々。豪華な食事が並ぶ何個ものテーブル。 そしてその人物達の一番奥、階段の様に段差になった所には、真っ赤な赤と黄金に光る立派な椅子に座る五十代程の男性。

 黒髪をオールバックにし、赤い瞳を細め周りを見渡しており、右手には赤い飲み物が入ったグラスを回して居た。


「マイハズ様がどうかしたの?」


 じっと遠くの男性を見つめて居た由希に、リュウロは由希が見つめる先を見た後、不思議そうに首を傾げる。


「マイハズ様って…」

「ああ、此のヴァンパイア世界の王だよ」

「王、様……」


 此の世界に来てから何度となく訪れる、イマイチ現実味を帯び無い言葉に、由希はリュウロの言葉を繰り返し言う。


「マイハズ様は凄い方だよ! もう二千年も王としてあの椅子に座り続けてる。其れに伯爵家出身のマイハズ様は、伯爵家達の希望なんだ」


 きらきらと瞳を輝かせ、尊敬の眼差しをマイハズ陛下へと向けるリュウロに、由希も同じ様にマイハズ陛下を見つめる。

 二千年も生きれる筈がが無いと、此の世界に来る前の由希ならば思っただろう。有り得ない事だらけの此の世界に慣れつつ有る由希はさして驚かなかった。

 だが不老のヴァンパイアの筈なのに、どうしてあのマイハズ陛下は年をとって行くのだろうか? 由希にはそんな疑問が浮かんだ。


「其れは、自分で年をとるようにしてるからだよ」


 にゅっと、由希とリュウロの間から顔を覗かせたリズシアに、由希は肩を上げて驚くが、リュウロはリズシアの気配に気付いて居たのか驚く様子も無く、自然に振り返る。


「兄さん。急に兄さんが出て来たから由希ちゃんが驚いてるよ?」

「えっ、そう? ごめんねー」

「あ、あはは…」


 謝る気ゼロが分かりやすいリズシアの謝り方に、由希は少しリズシアから距離を取りつつ、渇いた笑みを溢した。

 其処でふと由希は、何で口に出して居ないのに、自分の考えてる事がリズシアに分かられたのかと疑問を持つ。


「其れは顔に書いてるからだよ?」


 又も考えて居た事がリズシアにバレた由希は、思わずバッとリズシアの顔をガン見する。


 な、なんで…!


「だ~か~ら~、顔に書いてる有るんだってばっ」


 そしてまた言い当てられた事で、由希は慌てて両手で顔を隠した。

 そんな由希の行動に、流石のリズシアも予想外だったのか、豪快に笑い始める。何時の間にか、あのリュウロまでくすくす笑うものだから、由希は指の間から二人をちらちら見た。


「あのさ、本当に顔に字が書いてる訳じゃないからね?」

「ええ! そうなんですか?!」


 リズシアの笑いが混じった言葉に、由希は驚き顔から両手を退けて目を見開く。


「そうに決まってるでしょ。此の世界でも考えてる事が顔に文字で浮かび上がる、なーんて事有り得ないから」

「で、ですよね! 冗談ですよ! 流石の私も其処まで馬鹿じゃ――」


 其処まで言い掛け、リズシアとリュウロのなんとも言えない視線に、たらりと額から汗が流れる。


「ごめんなさい。そう思ってました…」


 その視線に堪え切れ無く、ガックリ肩を落とし白状した由希に、またリズシアは大笑いして、リュウロには何故か頭を撫でられた。


「あーそうだ。話は戻すけど、別に俺達は年をとらない訳じゃないんだよ?」

「え、でも不老って…」

「そりゃぁヴァンパイアは不老だけど、自分の意思で年をとることが出来る。」

「自分の意思で…?」

「そう。リュウロだって自分の意思で年をとってるしね?」

「年をとってるって…二十五歳位のつもりなんだけどなぁ」


 リズシアの言葉に、気まずそうに頬を掻くリュウロ。確かにリュウロの此の落ち着いた雰囲気のせいか、リズシアよりも年上に見える。

 その為、リュウロの口から「兄さん」とリズシアを呼ぶ言葉が出ると、ちょっと違和感が有るのだ。


「周りだってそうだよ、本当は皆キミと同じ十七歳。だけど人によっては、もっと大人になりたい奴も居るし、そのままの姿で過ごす奴も居る」

「ふえ~…」


 なんだかヴァンパイアの世界は、やっぱり私の常識とはかなり掛け離れて居る。


「まー俺は、好き好んであんな年をとった姿にはなりたくないけどねっ」


 「だって美しくないし!」っと、周りに聞こえる様に言った後、くすくす笑うリズシアにリュウロも由希も気が気じゃない。

 どう考えても、今向けられて居る周りからの視線は、先程までの和やかな物では無く、痛い位突き刺さる怒りの様な物。

 由希達の周りに居る人物は、好き好んで(・・・・・)年をとって居る者達だ。

 美しく無いとまで言われたその人物達は、さぞ面白く無いだろう。


「ちょ、兄さん! 声が大きいよっ」

「えー? 普通でしょ、普通ー」


 ちらちらと周りを気にしつつ小声で言うリュウロの配慮にも、リズシアは気付いて居るのか、気付いて居るのに気付いて居ない振りをして居るのか、ケラケラ笑い周りの視線にも動じない。


「其れに所詮男爵から伯爵に上がったアイツ等が、俺に文句なんて言える筈無いでしょ。其れこそ自分の首を絞めかね無いんだから、ねぇ?」


 まるで態と聞こえる様に言い放ったリズシアに、途端にさっきまで痛い程向けられて居た視線が消えた。皆気まずそうな、罰の悪そうな表情を浮かべ、視線を逸らして居る。

 その様子に、リズシアはまた可笑しそうに笑う。


「ほんと、言い返せないなんて面白くない奴等。そんなに男爵位に戻りたく無いんだか。まっ、俺には関係ないけど」

「兄さん、そんな言い方よくないよ」

「はいはい。全く、リュウロは良い子ちゃんだなぁ~」


 眉を寄せ注意するリュウロに、肩を竦めちゃかす様に言ったリズシアに、リュウロは深い溜め息を吐く。

 そんなリュウロに労いの言葉でも掛け様とした由希だったが、会場全体が突如歓声と拍手に包まれた為、そちらに意識が向いた。

 ホールの一番奥、マイハズ陛下が座る玉座側の扉が開き、其処からタキシードを着た凌空にエスコートされ隣を歩くサリスの姿が現れた。

 長い黒髪を緩い巻き髪にし、瞳と同じ位真っ赤なドレスを身に纏って居る。

 颯爽と拍手の起こるホールを歩く二人は堂々としており、マイハズ陛下の前まで行き揃って一礼した。 二人の姿にマイハズ陛下は満足げに口元を吊り上げ、手にして居たワインの入ったグラスを天に掲げた。

 その瞬間、ホールに居る全ての人物達からは歓声が上がった。

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