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君の居る世界と居ない世界3

 凌空が居なくなってから一ヶ月。周りには心配を掛けたく無いからと由希は平気な顔で接して居るが、やはりまだ凌空の居なくなった事実は受け止められない。

 学校に居ても、家に居ても、何時も凌空を思い出す。

 一緒に歩いて居た通学路にも、一つ一つ凌空との思い出が染み付いて居るのだ。帰る途中寄ったコンビニ、夏は何時も凌空と一緒にアイスを買って食べた。

 大きな桜の木が有る空き地。

 小さい頃遊んだ公園。

 何処もかしこも凌空を思い出す場所ばかりで、由希は凌空との思い出を思い出す度に泣きそうになるのを堪えた。そして今日もまた、由希は学校帰りに公園のベンチに座り、夕日に染まりつつある空を見上げる。周りはどんどん変わって行くのに、凌空を覚えて居るのは由希だけ。

 一人取り残された様な、そんな気持ちに由希はなって居た。


 周りがどんなに凌空を忘れてしまって居ても、私は凌空を忘れられる訳無い。だって此処には、凌空との思い出が溢れ返って居るんだから。例え凌空との思い出が周りに無くても、私は凌空の事を忘れたいと思う筈が無い。


「凌空、どうしてるかなぁ…」


 空を見上げながらポツリと呟き、胸元にあるネックレスをぎゅっと握り締めた。今どうしてるのかなぁとか、元気にしてるのかなぁとか。考え出したらきりが無い。そして此処の公園に居ると何時も思う。

 あの日リズシアという人物に会わなかったら、今も当たり前の様に隣には凌空が居たかもしれない。あの時凌空に血を飲まそうとしなければ、凌空にあんな悲しそうな顔をさせなかったかもしれないと。

 そう思う度、由希の胸には後悔の念が押し寄せる。

 だが其れよりも――


「会いたい。凌空に、会いたいよ…!」


 どんなに申し訳なく思っても、やはり最後は凌空に会いたくて堪らなくなるのだ。

 会って元気な姿が見たい。馬鹿みたいな話をして笑い会いたい。

 隣に…凌空の隣に居たい――。

 そう、由希は思ってしまう。

 夕日が目に染みて、涙がポロポロ流れ堕ちる。本当は夕日の光なんて関係ない。だが今は、涙が出るのは夕日のせいにしたかったのだ。遊具で遊ぶ子供の笑い声や姿など目に着かない程、涙が頬を伝って嗚咽が出る。


 居なくなって、

 傍に居なくなって、初めて気付いた。

 私が……凌空を好きだって事が。

 幼なじみとしてでは無く、一人の異性として好きだったと。

 隣に凌空が居なくなってから気付くなんて…。


「ほんっ、と…馬鹿だ――」

「誰が?」


 独り言の筈だった由希の呟きは、誰かによって返事を返された。突然の事に驚いてしまった由希は、顔を覆って居た手を離して顔を上げる。


「な、んで……」


 其処には居る筈の無い人物が、笑みを浮かべて由希の前に立って居た。


 なんで。

 どうして…。


「ねー、誰が馬鹿なの?」


 余りの事に声が出ない由希に対し、その人物は長い髪を風に靡かせながら楽しそうな声色で聞いて来る。


「ど、して……」


 何で此処に居るの。だってもう此処に居る意味なんて無い筈なのに。どうして…貴方が私の前に居るの?


「どうしてって、俺はキミに会いに来ちゃ駄目なのー? 酷いなぁ~」


 信じられないと見上げたままの由希に、その人物――リズシアは相変わらずのおちゃらけたしゃべり方で話す。


「会いたく無いの? 大事な大事な――幼なじみ君に…」


 一変、真剣な顔になったリズシアに由希も真顔になる。


 会いたく無いの?

 会いたく無いの?


 リズシアの言葉が何度も由希の頭の中で再生される。何回目かの再生の後、由希は立ち上がりリズシアに掴み掛かった。


「会えるんですか?! 凌空に……凌空に!!」

「苦しい苦しい、首締まって俺死んじゃうよ~」


 マントの襟の部分を掴みガクガクと揺さぶる由希に、リズシアはケラケラ笑いながらも言葉とは裏腹に、全く苦しんで居る素振りを見せず由希のされるがままだ。


「嘘じゃないですよね?! 本当ですよね?!」

「俺をなんだと思ってるわけー? 嘘なんて吐く様な男に見える?」

「見えます!!」


 リズシアを揺さぶりながら叫んだ由希に「すっごく心外なんだけどー」っとリズシアは不満げな表情を浮かべており、その後マントの襟を掴んで居た由希の両手を掴んで来た。驚いた由希は、揺さぶりを止めてリズシアに掴まれて居る手とリズシアの顔を交互に見る。

 そんな由希にリズシアはニヤリと口元を歪めた。その瞬間――掴んで居た由希の手をバンザイする様に上にあげ、パッと掴んで居た由希の手を離す。由希が驚く間も無く、ましてやバンザイをされた手を下ろす暇も無い位早く、由希の腰と肩の下に手を当て抱き上げた。


「え、あ、ちょ!」

「んじゃ、しゅっぱーつ!」


 所謂お姫様抱っこをされた由希は、自分の身に何が起きたのか理解出来る筈も無く。え、え、と周りを見渡して誰かに助けを求め様と見る事しか出来ない。だがつい先程まで居た筈の子供達の姿も無く、何時もなら歩いて居る筈の近所のお爺さん達の姿もなかった。

 公園には由希とリズシアしか居ないという、どう考えてもオカシイ光景が広がって居るだけ。不気味な程誰も居らず、吹いて居る筈の風も、鳥の鳴き声も聞こえ無く。其処は無の空間。

 混乱して居る由希を余所に、其処を楽しそうな顔で歩き出したリズシア。そんなリズシアを見上げた後、リズシアが向かう方向に目を向け――体が硬直した。茜色に染まった公園の真ん中に、ポッカリと穴が開いて居たのだ。穴の様な、空間の様な、不気味な其処にリズシアは何の躊躇も無く入って行く。

 目の前に広がって行く闇に恐怖を感じた由希は、思わずぎゅっと目を硬く瞑り、何が起きても良い様に体に力を入れた。だが、何時まで経っても何の衝撃も変化も無く、只リズシアの歩く靴の音だけが耳の奥に響いて居る。


「なーに目なんて瞑ってんの? 開けて見てみたら? 吃驚するよ」


 今までに無い位優しい声色のリズシアに、由希は言われた通り恐る恐る目を開けた。目を開けた瞬間眩しい光が飛び込んで来て、由希はチカチカする目を何度か瞬いた後、無意識に目の前に広がる景色に歓喜の声が漏れて居た。

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