君の居る世界と居ない世界2
その後どうしても信じられなかった由希は、凌空と同じクラスでりえと同じ様に小学校から仲の良かった友達の元に行った。だが、返って来た言葉は、
「凌空? そんな奴いたっけ?」
りえと同じで在った。
凌空と親友だったその友達も知らないなんて。と、由希はどうしても信じる事が出来ず、その後も凌空と仲の良かった友達に片っ端から聞き捲った。だが、誰も由希の求める言葉を言ってはくれず、友達が駄目なら先生はと聞いて見るのだが結果は同じだ。学校には由希以外、凌空の事を覚えて居る人は誰も居なかった。
「じゃーねぇ由希っ」
「うん、バイバイ」
大きなバッグを手に部活に向かうりえに手を振り、誰も居なくなった教室を由希も後にした。結局、今日一日凌空の事ばかりが由希の頭の中を占め勉強も手に付かないずっと沈みっぱなしの由希に、りえは終始心配そうにして居た。其れは放課後になっても変わらなく、ギリギリまで由希が心配だと部活に行くのを渋って居た程だ。
だが由希は大丈夫だとりえの背中を押し、漸くりえは部活に行った。
一人で歩く何時もの道は、同じ道な筈なのだが、景色が一つ一つ由希には全く違って見えた。何時もは近く感じる家までの距離も、一人で歩くと遠く感じて早く着いて欲しいとさえ思う程だ。
漸く家に着いて玄関に入ろうとした時、隣の家に由希は視線を向けた。
もしかしたら…おばさんは凌空の事を覚えて居るんじゃないか。
自分の子供を忘れる筈が無いと期待を持った由希は、焦る様に凌空の家のチャイムを鳴らす。ピンポーンッと鳴り暫くして、パタパタと玄関に近付く足音が聞こえ、次にガチャリと玄関の扉が開いた。
「あら? どうしたの由希ちゃん」
何時もの様に笑みを浮かべる凌空の母親に、由希は安心してほっと息を吐いた。
「あ、あのおばさん。今日、凌空が学校に来なかったんですけど…何処か具合でも悪かったの?」
「え、凌空?」
由希の言葉に凌空の母親はきょとんし、その後んーっと考える様な仕草をする。凌空の母親なら大丈夫だと安心し切って居た由希の目には、凌空がなんで休んで居たのかの理由を考えて居る様に映った。
しかし。
「凌空って何処の子?」
「え…」
「もしかして、おばさんが知ってる子かしら?」
「な、に言って…」
「どこの子だったかしらね~」と考え込む凌空の母親に、由希の期待は脆くも崩れ去った。
「お、ばさんの…子供じゃないですか!」
「え? もう由希ちゃん何言ってるの? あたし達に子供なんて居ないわよ~」
「え、ちが…!」
「あ、もしかして由希ちゃん、あたし達に男の子の子供が出来るって予知してくれたの?」
くすくす笑う凌空の母親に、由希は溢れ出て来そうになる涙を堪え、その場から逃げる様にして自分の家へと飛び込んで行った。
おばさんなら凌空を覚えていると思ったのに…。凌空のお母さんのおばさんならって、そう思ってたのに…!
堪えていた涙は、自分の部屋に入ったと同時に流れ落ちて来る。ボロボロと溢れ出て来る涙を堪える事等出来ず、悔しさなのか、凌空の母親に対する怒りなのか。何とも言えない物が涙と共に溢れ出て来るのをそのままに、由希は棚から何冊もの本を引っ張り出して床に広げた。
「此処にも、此処にも…全部に凌空が居るのに!」
床に広げて居たアルバムには、小さい頃から此処最近の写真の殆どが載って居る。そのどれにもちゃんと凌空の姿が映って居た。二人で永人に怒られ泣いて居る写真。一緒にアイスを食べながらカメラに向かってピースをする二人。
喜怒哀楽。
春夏秋冬。
全てが載って居る写真達の上に、由希の涙がポタポタ流れ落ちた。
此の前、桜の木の下で撮った写真に写る凌空は、腕に抱き着きピースをする由希の隣で笑みを浮かべて居る。
「ちゃんと、此処に居るのに! なのに…どうして!!」
凌空はちゃんと此処に存在しているのに、どうして誰も覚えてないの。どうして私以外みんな凌空を忘れちゃったの!?
唇を噛み締め、どうしてどうしてと繰り返す由希は、アルバムを抱き締めた。