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君の居る世界と居ない世界1

「じゃあな…由希」

「待って! 行かないで凌空!!」


 どんどん暗闇に向かって歩いて行く凌空を追い掛ける由希だが、どんなに由希が走っても歩いて居る筈の凌空に追い付けない。凌空との距離に差が引いて行く中、其れでも由希は必死に凌空に手を伸ばす。


「行かないで! まって、おねが――!」


 後少しで凌空に伸ばした手が届いた瞬間、さっきまで前に居た筈の凌空の背はもう無く、由希の目の前には只の天井が広がって居た。


「由希ー! いつまで寝てるの?! 学校に遅れるわよーっ」


 一階から聞こえる母親の声に、由希は自分が寝て居た事を理解する。ぼーっとする頭でベッドから起き上がり、側の壁に掛けて在る制服に着替える。もぞもぞと制服に着替えた後、カバンを手にリビングに向かう途中、洗面所に寄り身支度を整える。そして、ガタガタと母親が準備する音が響くリビングに入って行った。


「やっと来た! もう、早くご飯食べちゃいなさい!」

「今日朝ご飯いらない。行ってきます」

「ええ!? もう、ほらお弁当忘れてるわよ!」


 玄関に向かって居た由希を横に、小走りで追い掛ける母親は、ポンッと由希の手の上にお弁当を乗せる。様子のオカシイ由希に何か言いたそうな母親を気にせず、由希は靴を履いて家から出た。


 なんだか今日はオカシイ。頭がぼーっとして、全然冴えない。もしかしたらまだ寝ぼけてるのかも…。


 ふらふらと学校に向かう道を歩きながら、由希はそんな事を考えて居た。だが学校に着いても頭が冴える事は無く、ぼーっとする頭のまま教室に入りストンッと自分の席に座る。


「あ、由希おはー。って、なんか有ったの?」

「んー、りえおはよう。なんかって別に…」


 あれ…。なんか、あったよね?


 目の前に座り不思議そうな顔をして居るりえを見つめ、由希は未だ冴えない頭で思考を巡らす。思い出そうとしても、由希の思考はことごとく白い靄の様な物によって隠されてしまい分からない。トントンこめかみの部分を叩き、思い出そうとする由希に、りえは徐にぽつりと呟く。


「そういえばさ、そのネックレスどうしたの? 由希って蛇とか蝶なんて好きだっけ?」

「え…?」


 きょとんとする由希にりえは、「今付けてるネックレス!」と指を差す。そんな由希は、自分の首から下げ居るネックレスへと視線を向けた。飛んで居る蝶に絡み付く様身を寄せる蛇。綺麗なシルバーで蝶の羽根一枚一枚模様が彫られており、だが由希は蛇の目に埋め込まれて居るピンクのガラスに目を奪われた。


 『由希、このもう一個は?』

 『あ、其れ? ヒサちゃんが凌空とお揃いにって、私の分も作ってくれたの! ほら、私の方はピンクでしょ?』


 どんどんクリアーになって行く頭の中。


 此のネックレスは、私と凌空のお揃い。私が凌空の誕生日にプレゼントしたネックレス。


 そして…


 『由希』


 凌空。

 私の大切で、たった一人の幼なじみ。


「りく…。ねぇりえ! 凌空は!?」

「え、りく?」

「そう! 今日朝一緒に来なかったのっ、ちゃんと学校に来たのかな!?」


 先程まで靄の掛かって居た頭はすっきりと冴える。すっきりとした事で、今日は凌空と会って居ないという事も思い出され、目の前に居るりえに由希は聞くのだがりえは首を傾げて居る。


「ねぇ由希」

「何りえ、朝凌空に会ったの?」

「んーん、そうじゃなくてさー…」


 何処か言いづらそうに口籠るりえに、由希はあの時の様に嫌な予感がして居た。


「凌空って……誰?」


 眉を寄せ更に「もしかしてカレシ?」と首を傾げてニヤリと笑みを浮かべる。そんなりえの姿が、由希には信じられなかった。


「え、ちょ…何、言ってるの? 凌空だよ? 私の幼なじみの」

「え? 由希こそ何言ってるの、アンタに幼なじみが居る訳無いでしょ。其れに居たとしても、小学校から一緒のあたしが知らない訳無いんだから!」


 冗談は止めてよっと、そう言い笑うりえに、由希は其れ以上何も言えなかった。りえが嘘を言って居る様にも、冗談を言って居る様にも、由希には見えなかったからだ。

 真剣に、本当に、りえは知らないのだ。

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