ヌコタンは世界を守るが、ヌコタンは誰が守ってくれるのか?
私は化学。
『魔法少女は世界を守るが、魔法少女は誰が守ってくれるのか?』
のガチオタ勢の一人。
化学という名前は、私の得意な科目に由来する。
私は高校生で、科学部の部長をしていたが、ボヤ騒ぎを出したのが理由で停学になり、
そのまま、引きこもりのニートになってしまった。
今、私は異世界にいる。
これを化学的に説明しようと考えたが、ムリだった。
私にはまだそんなに知識がない。
暇だったので小説の投稿サイトをよく見ていた。
異世界転生や異世界転移モノもよく見ていたけど、
まさか自分が転移するとは思ってもいなかった。
転移してから、こんな事なら、もっとちゃんと細部を読み込んでいたら、
解決の糸口になったかもと思ったが、小説に比べて、現実は厳しかった。
まさか、ネズミやトイレのニオイに悩まされたりするとは、思ってもいなかった。
そして、私たちはネズミの問題を猫で解決しようとしたが、今、別の問題に直面している。
使用人が猫を捕まえて、袋に閉じ込めているのだ。
猫を王城に招き入れることに賛成した王女も、何も言わない。
いったい何が起こったのだろうか?
果たして、ヌコタンを守ることができるのだろうか?
袋の中で、猫が小さく鳴いた。
私は、それを止める言葉を、何一つ持っていなかった。
私は侍女に近づき、
「ねぇ。なんで猫を袋に閉じ込めているの?」
と尋ねた。
「猫が災いをもたらすのです」
侍女は目を伏せた。
「どんな災いをもたらしたの」
私は尋ねた。
侍女は、他の使用人の腕を見せ、
「これです。猫が来てからこうなりました」
と答えた。
そこには赤く腫れ上がった傷があった。
昨日まではなかったはずの傷だった。
ダニか……。
私は直感した。
これがこの世界で猫が忌み嫌われる理由か。
どうしよう。
ダニについて知識がない人に、どう教えればいい?
「ねぇ。あれ、ダニだと思うけど、どう伝えればいいかな?」
私は尋ねた。
「ダニって見えるの?」
チェスは言った。
「ちょっと待って。この黒いのがダニ」
私は袋に猫を入れようとしている使用人をつかまえて説明した。
「皆、その紅い跡を作ったのは猫じゃない。
猫の体に住みついてる小さい虫よ」
ハッカーは叫んだ。
使用人たちが、ぞろぞろやってきて、ダニを見る。
「あっ、これよく見ます。ゴミじゃないんですか」
侍女は不思議そうな顔をしている。
ハッカーは、ニコっとして、私の背中を叩く。
これでヌコタンを守れるかもしれない。
「猫が悪いなら、猫を縛っても跡は消えない。
でも、この虫を減らせば、紅い跡は消える。
猫は私たちを守ってくれます。
でも、猫は自分の身を、この黒い小さい虫、ダニから守ることができません。
じゃあ、猫は誰が守るんですか」
私は尋ねた。
「私たちが守るしかないわね。でもどうするの?そんな小さい虫。見つけるのは大変よ」
王女は言った。
「探さなくていいです。
虫が嫌いな匂いを置けば、勝手に逃げます。
猫を守るのは、剣でも檻でもなく、
匂いと掃除です」
と私は言った。
それから、私たちは、王城でダニの嫌がるハーブを探し、それで猫をさすった。
するとダニはどこかへ去っていった。
それから、使用人たちの猫への攻撃はなくなった。
ヌコタンを救うことができたことに、私たちは安堵した。
……
ヌコタン・BSF・豚さん・ハーブの投入で、一気に王城の衛生環境は整った。
後で聞いた話によると、使用人たちは、夜にネズミに足をかじられる心配がなくなり、ぐっすり眠れるようになったらしい。
何人かの使用人たちは、ヌコ様と猫をあがめていたし、
猫が神化する瞬間を見た気がして、なんだか面白かった。
ヌコタンの件があって、重たい気持ちも少しスッキリした。
夕暮れ時に、物理とミリオタが合流して、食事になった。
食事は相変わらず、似たようなものだった。
なにか別のものを食べたい、そう思った。
「あぁ、ポテチサンドが食べたい」
チェスは呟いた。
「ポテチサンド?なにそれ」
ハッカーは尋ねた。
「テーブルロールに切り目を入れて、ポテトチップを挟むんですよ。
柔らかいパンの食感と、パリッとしたポテトチップの食感が、絶妙で、またテーブルロールのほんのりとした甘みの中に、塩分がふわっと入ってくる。最高ですよ」
チェスは言った。
「たしかに美味しそう」
ハッカーはうなづいた。
「柔らかいパン。甘みのあるパン?
君たちは王族か貴族なのか?」
王女は言った。
「平民ですよ」
物理は答えた。
「しかし、柔らかいパン、甘みのあるパンなど、王族か貴族しか食べられないぞ」
王女は言った。
「私たちの世界では、柔らかいパンや、甘みのあるパンが安いのです。逆に、固いパンのほうが高いですよ」
物理は答えた。
「なんと、それは面白い。それと、ポテトチップスとはなんじゃ?」
王女は尋ねた。
「ポテトチップスは、非常に薄く切ったじゃがいもを、油でカリッと揚げる食べ物です」
チェスは答えた。
「料理長を呼べ」
王女は侍女に言った。
あわてて、料理長がやってくる。
「王女様、食事に不手際でもありましたか」
料理長は小刻みに震えている。
絶対に怖いよ。
そう思った。
「料理長。お前はポテトチップスとやらを知っておるか?」
王女は尋ねた。
「王女様、申し訳ございません。
私は国中の料理本は読みましたが、ポテトチップスなる料理は存じ上げません」
料理長は小刻みに震えている。
「チェスとやら、料理長に教えてやってくれぬか」
王女は言った。
「ポテトチップは、非常に薄く切ったじゃがいもを、油でカリッと揚げる食べ物です」
チェスは答えた。
「じゃがいもとは何ですか?」
料理長は不思議そうな顔をしている。
一同、沈黙している。
じゃがいもを知らないのか?
「もしかしたら、じゃがいものない世界なのかもしれませんね」
私は答えた。
「そういえば、じゃがいもとか、さつまいもの普及で飢餓が大幅に減ったんじゃなかったっけ」
ハッカーは言った。
「それ聞いたことあります。すみません。料理長さん、根菜ってなにがありますか?」
チェスは尋ねた。
「カブ、ニンジン、ビーツです」
料理長は答えた。
「じゃあ。カブ、ニンジンを、非常に薄く切って、油でカリッと揚げるとどうですか」
チェスは答えた。
「恐れながら、それではカリッとは揚がらないと思います。ですが、表面を布でふき取り、しばらく乾燥させれば、可能かと思います」
料理長は答えた。
「どうじゃ。それで出来そうか?」
王女は尋ねた。
「試行錯誤は必要かと思いますが、やってみます。お時間と、ポテトチップスをご存じな方に、お味見をしていただければと思います」
料理長は答えた。
「味見を頼んで良いか」
王女は言った。
一同、うなづいた。
私は、今日一日を思い返していた。
救えたものと、救えなかったもの。
それでも、今日は悪くなかったと思えた。




