異世界での生活
私は物理。
『魔法少女は世界を守るが、魔法少女は誰が守ってくれるのか?』
のガチオタ勢の一人だ。
物理というハンドルネームは、私の元職業に由来する。
私は大学で物理学の講師をしていた。
大学で教授を論破したら、大学を追放され、引きこもりのニートになってしまった。
今私は異世界にいる。
異世界転移というのが、物理学的に可能なのかどうなのかはわからない。
ただ少なくとも、今ここにいるという事実だけは、否定できなかった。
私は今一人ではない。
仲間がいる。
しかも『魔法少女は世界を守るが、魔法少女は誰が守ってくれるのか?』
のガチオタ勢の仲間が、
これほど嬉しい事はない。
ただ上手くやっていけるかどうかは不安だ。
でも今度は嫌われたくない。
現状、皆の働きで、前線に送られることは避けられた。
後方支援の勇者という、少し変わった事をすることにはなったが、この世界には魔法使いもいるという。
悲願だったかどうかわからないが、結果的に魔法少女を守る事にもなるのかもしれない。
色々あり過ぎて、脳がヒートダウンしそうだ。
しかし、問題はまだ山積している。
当面の問題は食事とトイレだ。
食事は、王女とマービン、軍師と仲間で食べることが決まった。
私たちは広間に通され、食事が運ばれる。
まず出てきたのが、固くて酸味がある黒いパンだった。
王族用なので一般民よりはマシだそうである。
そして香草で煮込んだ山羊肉のシチュー
香草と大量の塩・酢で臭み消しがされてある。
少し酸っぱい、でも温かい食事だった。
この時代では衛生的に『煮る』が最強調理法みたいだ。
あとは塩味のカブを煮込んだもの。
そしてキャベツの酢漬けに、濃厚な味のカビっぽい熟成チーズ
干しイチジク。
飲み物は薄いエール。
水を求めたが、水は安全性が低いのでエールを勧められた。
エールが飲めない場合は、煮沸済みハーブ水。
クセが強く薬草っぽい味がした。
仲間は皆、ハーブ水を飲んだ。
王女や、マービン、軍師は、
自慢げに食事を披露していたが、皆苦笑いをしていた。
そりゃそうだ。
王女と食べる食事より、ファストフードのほうが何倍も美味いのだから、やりきれない。
ただただ、
香草と酢の匂いが、広間に強く立ちこめていた。
私たちは王女に礼を言い、
部屋に戻る。
私たちの部屋は相部屋で、
一つの部屋にベッドを5つ並べただけの部屋だった。
「女性もいる事だし、相部屋はないだろう」
と文句を言おうと思ったが、使用人や衛兵たちは、
ほぼ全員大広間で藁を敷き眠る事を知り、
文句は、言えなくなった。
私たちは、ベッドに横たわり、話を始めた。
「さっき、トイレ行ったんですけど……、死にました。
話していいですか?」
私は言った。
一同うなづく。
「まず個室がなく、
仕切りもなく、板に穴が空いていて、そこから用を足す。
もちろん水洗ではなく、見えてます」
私は言った。
(ムリです)
一同同時に言った。
「それは汲み取り式的な感じですか?」
チェスは尋ねた。
「汲み取り式が、まだハイテクに見えるレベルです」
私は答えた。
「それ真っ先に改善しないと行けない奴ですね」
ミリオタは言った。
「そうは言っても、文化の問題だから一筋縄ではいかないですよ」
ハッカーは答えた。
「バイオガスを取る為にという名目はどうでしょうか」
私は尋ねた。
「悪くはないと思いますが、この時代だと設備を作るのが難しいですね。ヘタすると爆発しますから」
化学は答えた。
「プラントを作るのに、この時代の技術レベルでは不可能そうですね」
私は苦笑いをした。
「この世界にいるかどうかはわかりませんが、BSF幼虫は糞を食べます」
化学は言った。
「蠅でしょ。豚なら食料になるのでは?」
チェスは尋ねた。
「私は糞を食べた豚を食べたくないな」
ハッカーは苦笑いをした。
「BSFの有意性を教えてもらえますか?肥溜めとも比較してもらえると、ウレシイです」
物理は言った。
「まず
①たしかに、豚に人間の排泄物を食べさせる文化はありますし、否定はしません。されど衛生的に不安が残ります。
②同様の理由で肥溜めも否定はしません。されど衛生的に不安が残ります。
どちらも運用が難しいのです。
その点BSF幼虫は、
糞尿・残飯を猛烈な速度で分解。
悪臭が出にくい。
ハエ類の中でも病原菌媒介が少ない。
幼虫は高タンパク・高脂肪。
という利点があります」
化学は答えた。
「ちょっと待って、ハエの幼虫を食べるの?」
チェスは驚いた顔をしている。
「養殖用の魚に食べさせるという方法があります」
化学は答えた。
「まぁ魚って虫とか普通に食うから、案外抵抗がないかもね」
ハッカーはうなづいている。
「それなら、いけそう」
チェスは、少し安心したように言った。
「ごめん。ちょっと待って抜けがあった」
化学は言った。
「なに抜けって?」
ハッカーは不思議そうな顔をしている。
「BSFって冬は活動停止する」
化学は肩を落とす。
「では、豚とBSFのハイブリッド型にしたらどうですか」
私は言った。
「それなら問題はないですね。100%資源としなくてもいいですし」
化学は元気を取り戻した。
「あのさ。その糞で育てた豚って、魔獣と戦う時の囮にしてもいいんじゃない」
ハッカーは少し悪そうな顔をしている。
「それ有りだと思う」
ミリオタは答えた。
(一同、目を伏せたままうなづいた)
それから私たちは、BSFを集めるための方法と、豚に糞を食べさせるシステムを、考え始めた。
BSFは卵を産みたくなる環境を作るという方向に決まった。
BSFは非常に素直な虫で、
臭い
温度
湿度
産卵場所
が揃うと、勝手に集まると化学は言った。
そこで木箱を餌場にすることにした。
穴を掘るというやり方もあったが、それでは雨が降った時に、水浸しになる。
そこで城の風下の方角の日向に、木箱を集中させ置くことにした。
木箱には、人糞尿と生ゴミ、内臓・腐肉を入れる。
そしてBSFは、直接糞に卵を産まないので、
産卵スリットを作るのがコツだそうだ。
餌の上や、横にスキマを作って竹や板を設置する。
すると、BSFは卵を産み、
その卵から孵化した幼虫が、糞尿を食べてくれるそうだ。
また乾燥しても水浸しでも良くないので、藁・落ち葉・土を混ぜるのがコツだと言っていた。
あとBSF幼虫は成熟すると、
暗くて乾いた高い場所へ自分で移動する性質がある。
そこで箱の縁に傾斜板を作ると、
幼虫が登って自然に桶へ落ちるというシステムが作れ、
人が触らずに回収可能となる。
あとは幼虫を回収し、殺菌の為に
一度軽く煮て魚の餌にする。
これがこのシステムの概要だった。
あとは、これをどう納得させるかだった。




