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五話 カミングアウト


 今日はオリヴァー達と一緒に勉強会。朝から晩まで一日中、というわけではないが、魔法の練習時間はそこまで取れないだろう。

 学校が無いこの国に住む以上、自力で何とかしないと勉強どころか、読み書きも出来ない。母さんが元貴族だから、俺達は運が良い。



 この国のお偉いさんは学校は作らずとも勉強に関する制限は特に明記していないらしいから、いくらでも言い訳が出来るってことだ。


 計算、読み書き等は俺もオリヴァー達もほぼ完璧に出来る。俺の場合はこの世界の文字も含めて全ての言語が日本語に翻訳されるし、計算も大学まで行くくらいには出来る。つまり、暇。

 いつの間にか二人に教える側に回っていた。


 同じくらいの年齢の人に教わる方が二人も頭に入っていきやすいだろう、と母さんの手は早々に離れている。父さんの時計作りを手伝っている時は俺達と一緒に居る時よりも楽しそうなのが少し寂しいが。



「フェリーチェは教えるのが上手だね」

「うん、すごく分かりやすい」


 そりゃあ、馬鹿でも元大学生だし。それに、俺は中学の職場体験で小学校に行ったんだ。騒がしくて注意力散漫な小学生の相手が出来たんだ。二人みたいな優等生相手に教えられないとおかしい。


「ありがとう、理解力があるから俺も教えやすい」


 俺が行った小学校は学級崩壊一歩手前レベルで治安が悪かったから、それに比べたらもう天と地の差。

 無限牢獄について明かしていないので、この家にはまだ紙が無い。

 だから練習問題だ何だってのはほぼ出来ないが、しなくても問題無いくらいには要領が良い。もう小学生程度の計算と、文字がある社会での日常生活では支障が無いくらいの読み書きは出来るようになっている。


 俺ももうすぐ特級に上がるし、そろそろ明かしても良いだろうと思う。国外脱出計画を。


 母さん達にそれとなく伝える事も考えた。寧ろ、そうしようと思っていた。だが、その前に友達にも伝えておきたかった。今日が絶好の機会だったのだ。



「なあ、二人ってさぁ」

「うん?」

「守護者って知ってるか?」


「ああ。産まれた時から多属性で、魔力ランクも高い存在ってことは知っているな」

『大体、合ってる……か?』

『ちょっとざっくりしてるけどその認識で良いわ』

「その守護者。俺なんだ」


「えぇ!?」

「やっぱりか」

 オリヴァーは察していたからか何の動揺も見せなかったが、マリーは俺のことを魔法が上手く扱える人って認識だったようで酷く驚いていた。まあ、水しか見せた事無かったもんな。



「本題はここから。俺、この国を出ることにした。理由は簡単、この国の政治体制が気に食わないから。勿論今じゃない。準備が整ったら」


 いきなりぶっちゃけすぎか? いや、俺に回りくどい説明なんて出来ようもない。これくらいが丁度良いか。




「…………。守護者の、フェリーチェの実力はどの程度かわからない。でも、これだけは言える。止めておいた方が良い」

「うん。同じ考え。上の人達は強い魔法が使えるから、勝てないと思う」


『ヴィーネ。俺ってさ、今上の奴等に挑んだら負けるか?』

『うーーーん……。勝てると思うわ。貴方が、練習してた殺人魔法を使いこなせたら確実ね。人間は守護者を傷付けられないから、勝てなくても負けはしないわね』

 ってことは、俺があの魔法を完成させさえすれば、人間相手なら敵無しってことか。俺が発動を躊躇しなければ。



「確かに国も五年、戦に耐えられるくらいの軍は有しているはずだ。それでも、対人戦に特化した魔法は今、開発している。いざとなったら俺も、人を殺す覚悟でいるさ」


「そんなの絶対無理よ」

「うん。守護者で強いとはいえ、流石に国には勝てないよ。まず、数で負けるわけだから。それに、優しいフェリーチェがそう簡単に人を殺せるとは思えない」



 まあ、そうですよねぇ。そうなりますよねぇ。正直人を殺せるかは俺が一番疑っている。だって俺、元々の性格が小心者だし。


 これがもし理久ならば、何の躊躇いも無く殺すと思う。俺以外の全てを受け入れないから。



「そう言うと思っていた。でも俺は何を言われてもここを出ていく。手を貸してくれるなら嬉しいけど、俺がやろうとしていることは、上への反逆とも取れる行為だし強制はしない」


 とはいえ、俺は諦めたわけではない。こんな所に友達を残してはいきたくないからな。ここから信用を勝ち取れば良い話。



「フェリーチェ……」

「話だけでも聞いてくれて、嬉しかった。それじゃあ、また明日の勉強会で」


「う、うん」

「ええ……」

 困惑する二人には気付かない振りをして、俺は無限牢獄に入った。もう、隠す必要は無いのだと言わんばかりに堂々と。


――――――――――――――――――――


 フェリーチェが去ったリビングルームには、瞬きをすることも忘れたオリヴァーとマリーだけが残された。

 フェリーチェの言葉を何とか自分なりに咀嚼し、理解できる言語に昇華させようと試みるが、無駄に終わる。それもそのはず。回りくどい言い方を嫌うフェリーチェはそのままの思いを伝えたのだから。これ以上分解のしようがない。



 同年代どころか、平民の中でも上位に入るくらいの学は手に入れた。しかし、今まで従ってきた国を捨てる、というフェリーチェの判断は理解し難かった。


 表面上しか知らない守護者という存在。しかも、それは又聞きの更に又聞き。改変されたものであった。自分の友人がそれであると聞かされても実感など出来ようもない。



「ね、ねえ。わたし達、どうするのが正解?」

「わからない。フェリーチェはまだ五歳だし、妄言と取ることも出来る。でも、嘘を言っているようには見えなかった」


 フェリーチェが「人を殺す」と断言した時に一瞬だけ見せた本気の色。

 オリヴァーはああ言ったが、自分の友人が傷付けられるのを黙って見ている程フェリーチェが甘ちゃんだとも思っていない。自分達に向けられる言動は優しくても、他者に対してはどこか冷徹。



 それが短い期間、フェリーチェと関わってきたオリヴァーの偽らざる感想だった。


 マリーも同様に。自分の生活に悪影響が出てきている時点で国に対する不満は少なからず抱えていた。フェリーチェのように直接言葉にしないだけで。

 だが、同時に自分では国軍に勝てぬ事も分かっていた。守護者だと言ったフェリーチェの自信は一体どこから来るのだろうか、と思うほどに。守護者は普通よりも強い力を持っている、ということしか知らなかったマリーがそういった感想を抱くのは当然だった。



「じゃあ従うの? 開発中って言ってもそんなに強い魔法じゃないと思うし、失敗すると思うわ」


「それはわからない。あの無限牢獄って技。別の空間を呼び出すか、作り出す能力だと思う。僕達が貰った水筒の容量が半端じゃ無かったのはこの能力を使ったからじゃないかな。そんな凄い能力を何の気無しに維持できるくらいには実力がある。そのうち一国を滅ぼせるようになってもおかしくないかもしれない。でも、暫くは様子を見るしか無いと思う」



 無限牢獄を見ただけで、自分に与えられた水筒の秘密に辿り着くオリヴァー。自分の家に帰った後、容量を見て腰を抜かした事を思い出し、こういう仕組みだったのかと一人納得する。


 だからといって先程の言葉を全て信じられる程オリヴァーは楽観的な性格では無かった。どちらかと言うと、慎重な方であると自覚していた。

 だが、同時にフェリーチェは自分達に希望を与えてくれるかもしれない、という淡い期待も少しばかり抱いている。



「全てを信じる事は難しいけど……。この生活に不満を感じていることは事実だから、僕にできる事を求められたら協力してあげたい」


 結局、二人の話し合いは終わらず、取り敢えずは傍観ということに落ち着いた。フェリーチェが自分達を頼る事は今まで一度も無かったのだから、今回も一人でやってしまうのだろう、と。


――――――――――――――――――――


 二人を置いて、俺は無限牢獄に入った。最後に出る時に燃やした肉は、骨も残さず消え失せていた。灰すら残っていない。

 相変わらず、そんじょそこらの炎とは火力が違う。「何を言われても〜」などと大口叩いた以上、あの魔法は何としてでも完成させなければいけない。



 肉の水分を全て抜き取る・蒸発させるのは中々に難しく、こうして決意を固めただけでは上手くいかない。

 火力は太陽をイメージしてもう少し上げれば良いだけだが、水分を奪うことに関しては想像が出来ない。だって、見本が無いのだから。人類の過去を調べると、きっと争いに関する記述は多く出てくる。でも、兵器として人間の水分を一瞬で奪うという物は存在しないと思う。



 人類が開発した核兵器ならば特定範囲の人間を影だけにすることは可能だ。歴史の授業でやった。だが、肉体を残した状態で体の水分を奪い取ったり、沸騰させたりする事は出来ないだろう。



 俺は人を殺すことに躊躇いはあるが、一瞬で終わらせる気はさらさら無い。自分達に害を為す人間に、もう二度と逆らえぬよう徹底的な恐怖を与えることを正義とするから。



 そういうのもあって、一撃で終わらせるわけにはいかないのだ。一割程度は確実に生き残るように火力調節をしつつ、相手の陣営が戦闘不能となるくらいのダメージを負わす。



 苦手だなぁ。一部生き残るってことは、人の悲鳴聞く事になるんだろ? まあ、自分の身を守る為なら頭のネジ全部外してやるけどさ。今の所、思い付いた中で一番良いのは、体に含まれる水分が一定数値を下回った場合に限り、内部から一瞬で蒸発させられるようにすること。


 水分を奪うのは集団、焼くのは集団ではなく、レジストに失敗した個人のみ。我ながら恐ろしい事を思い付くものだと思う。俺も知らぬ間に理久の過激な思考が移ったようだ。



 その条件だともう一つ肉がいるな。完全に干からびないように水分を抜き取り、レジストに失敗した方を焼くなら。


 今度想像するのは、脱水症状。これなら俺も意識無くなるくらいの酷いやつになったことがあるから、今までの干からびさせ作戦よりもやり易そう。



 水属性で肉の水分を少し奪ってみる。見た目はあまり変わらないが、確認してみるとしっかり奪われていた。

 死亡には至らないくらいなので、俺が過去に経験した脱水症状に似た状態になる。じゃあ、これをトリガーに発動させたい。体内の水分が五パーセント以上奪われた時に、内部から焼き尽くす。



 このトリガーは多分、遠隔操作タイプの爆弾を想像すれば良い。

 アニメだか映画だかで見た。線路の間に仕掛けられた爆弾の話。時速が七十キロを下回ると太陽光が遮られる時間が長くなって作動するってやつ。それ参考に出来そう。



 ってことは……。

 悪意を持って侵入したことを感知した瞬間に、侵入者全員に火属性の術を掛ける。その上で水属性で攻撃。もしレジストに失敗すれば、焼き尽くされる。これだな。



 よし、やってみよう。

 先に魔法を仕掛けるというのは案外簡単に出来るもので、コツを掴んだら百発百中は固い。仕掛ける時に条件まで組み込むと、さっき俺が出した例みたいなことが再現可能になるということだ。



「これで成功するはず……」


 脱水の魔法をさっきの肉に掛けると、突然内部から炎が上がり、爆発するようにして肉が消え去った。こういうことか。水分が含まれているから普通には燃えないようになってるわけだ。

 いつも肉の処理までは見ていなかったから知らなかったが、こんな風に消えるんだな。これなら抵抗に失敗した人間だけを上手く始末できる。



 これをもっと完全なものにして、潜水艦も完成させたら、もう一度二人に交渉しに向かおう。今の所は全く信用も期待もされていないだろうが、これさえ見せてしまえば、その評価を多少なりとも上方修正してくれるかもしれない。



 ただ、その前にまずは魔法の維持時間を伸ばさないと。級が上がって大分伸びた方だけど、まだ足りない。最低でも一日中篭れるくらいにはしておきたい。

 ま、これはもう気合いだな。俺の中に眠る脳筋を叩き起こすまでだ。

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