三十九話 襲撃
「結局、何しに来たんですか?」
街に有るお茶屋でひと息ついた俺は、体力オバケと化していたルーク王にそう聞いた。訪問したいとは言われたが、その理由までは分からない。
「ああ。他国に勧める時、その国の事を全く知らなければ話し難い。今回の目的はそれだけだな」
「なら魔鉱山にも案内しましょうか? 見つかって直ぐなのでまだ街も有りませんが、入り口付近は崩落防止に補強を掛けておきましたので」
入り口付近は魔物の発生源、魔素湖からも遠いので魔鉱石の質も低い。見学で見に来ただけならこの辺だけで十分だと思う。
「じゃあ、そうしよう」
小休憩を終え、魔鉱山までやって来た。魔族の護衛も一緒だ。姿隠しが出来る子だけでなく、普段は狩人をしている弓使いのエルフ、シノも今回は人に扮して護衛のメンバーに加わっている。
俺の護衛もサンと姿を隠したヒリュウが付いている。魔物からの襲撃対策は万全と言っても良い。
「ここが魔鉱山の入り口です。灯りは有りますが、危険なので足元には注意してください」
俺は初めて来た時コケそうになったから。ヒリュウが支えてくれていなかったら確実に転んでいた。
入り口付近に既に小さいゲーミング鉱石が有るが、もう少し奥に行くと大きな洞窟状の場所に出て、そこには一日じゃとても掘り尽くせない程の魔鉱石が散らばっている。
かなり明るいが、これでもまだ最奥の光り方には劣る。魔鉱石にも色が有り、魔力のカラーとリンクしている。上の方に有るのは青っぽい色だから、水属性の魔鉱石。下には橙色の地属性魔鉱石。壁面には緑色の風属性魔鉱石も有る。
その全てが従来品よりも遥かに明るく光を放っている。初めて来た魔族の子達も、客人の二人も、瞬きを忘れて見入っている。
――と思った瞬間、恐怖を覚える程の殺気を感じ、体は勝手に後ろに避けていた。それとほぼ同時に、サンと隠れていたヒリュウが臨戦態勢に入り、襲撃者――ルーク王の背後から出て来た者を一撃で葬る。
「い、今のは……?」
「魔族でした。全裸でしたので恐らく、他の人間に飼われている個体でしょう。フェリーチェ様の下に居る同胞は皆、着衣を許されていますので」
全裸……飼われ……。ああ、初めて会った時にオブシディアンが言ってたあれか。
「サン、辿れるか?」
「お任せください。必ず出所を突き止めましょう」
サンはヴェルザードを伴い、魔鉱山を出た。
魔族は転移が出来ないから、ヒリュウの様に擬態でここまで来た筈だ。それならその個体が持っていた魔素の残滓が有るはず。それをサンの相棒であるヴェルザードが辿れば飼い主――今回の襲撃者の正体が誰だか分かる。
「スウィート公爵、ルーク王。この様な事になってしまい申し訳ありませんが、案内を一時中断させていただきます」
「ああ。大人しく屋敷の方に戻る事にしよう」
「ルークの望みも大分叶えられただろうから、当然だな」
アルストロはルーク王と軽口を言い合いながら魔鉱山を出た。護衛に付いていたシノが俺に代わって屋敷まで連れて行ってくれるそうだ。
そろそろ三時のおやつの時間。戻ると、待っているのは美味しいおやつ達。お茶屋で軽く食べたばかりだが、美味しいのだから文句無いだろう。
今回狙われたのは多分、俺。争いではトップの首を取り、白旗を上げさせた国が正義。俺を始末してしまえばうちを占拠出来る。
他国と俺が交流をしている時点で、そう考える人間が出て来てもおかしくはない。寧ろ自然な事かもしれない。となると、俺の側に客人を置くのは危険。
そう考えて離れたのは正解だった。魔族を一撃で倒した筈のヒリュウの表情はあまり良くない。
「ヒリュウ、何か気付いた事が有るのか?」
「……あの個体は、俺よりも長い時を生きていた上位の鳥人族でした。強くなっていなければ、勝敗はわかりませんでした。あれ程の実力者が従う相手です。用心すべきですが……」
「が……?」
「俺はあの者の気配を悟る事が直前まで出来なかった……。護衛にあるまじき失態です。調査もヴェルザードが行う事になりましたし、俺はまたフェリーチェ様のお役に立てませんでした。申し訳ございません」
ああ、何だ。直前まで、と言っても俺が殺気に気付く前にはヒリュウが実体化する気配自体はしていた。
俺より先に敵の存在を感知出来たのだから、こちらとしては十分だ。落ち込んでいる本人に俺が修行を勧めるのも良くない。見放されたと判断される可能性が有るから。そこで俺が勧めるのは一つ。仕事だ。
「確かに、姿を隠していたら臨戦に時間が掛かる。それは今回分かった事だ。だから、今からヒリュウは姿を隠さずに俺の護衛に当たって欲しい。隠れないからヒリュウには自衛も必要だけど、出来るか」
「はい。必ずお守りします。今回の様な事がもう二度と起きない様に」
今回もちゃんと護られてたけどな。ヒリュウは思い詰めすぎな気がする。言い換えれば油断しない性格とも言えるが、考え過ぎると逆にパフォーマンスが落ちる事もある。
本人としては嫌だろうが、俺はもう少し肩の力抜いてくれても良いと思う。
ヒリュウ曰く、この洞窟内にもう先程の魔族と同レベルの個体は居ないらしい。俺は魔族の気配が上手く察知出来ないからそれに関しては何とも言えないけど。
他にも居たら、さっきのは魔素湖で湧いて魔鉱山に入り込んだ野生個体で、自分のシマを荒らす不届き者を始末しようとしたという線もなくは無かった。
でも、単独且つ襲撃者から一番離れた位置に居た俺をピンポイントで狙った事から、野生個体という線はほぼ消えた。今は誰かに飼い慣らされている線が濃厚。誰だろうか。俺がここに居ると知っているのは客人の二人とサージスの人達だけ。――となると……。
「考えたくはないけど、フェリーチェが公爵家に招待されて以降から、送り込まれていた可能性が有るね。三百年以上生きたヒリュウ君でさえ気配を察知出来ないくらいの手練れをね」
屋敷に戻った俺は、オリヴァーからそう言われた。オリヴァーの言う通り、そういうのは考えたくはないが、今の所その線が一番濃厚。
あの一瞬以外、殺気を出さなければ誰にも見つからない筈。ハイエルフのシノは八百年以上生きているが種族が違うと気配はほぼ分からないらしいし、相手はこちらの戦力もある程度は把握している事が考えられる。
これがクローシアから放たれた者だと、今後の交流に亀裂が入るから、ルーク王としてはあまり良くない展開。エクレシアはここの存在は知らない筈だ。その他の国も。
「ということで、ルーク王に聞きたい事が一つ」
「ああ。協力を惜しむつもりは無い」
「クローシアでは魔族の使役は個人集団問わず、禁止ですか? それとも条件付きで可能ですか?」
「うちは全面的に禁止はしているし、罰則自体も定められてはいる。が、密輸という手を使えば入手が可能だ。監視の目が有るわけじゃないからな……」
クローシアは文面上は禁止、事実上は黙認って感じか。魔族はこの大陸にしか居ない。だとしたら、密猟対象個体は大陸から出て、援軍が見込めないタイミングを狙われているはず。
早めに対策を打つべきだな。今回の被害者は魔族だから、早めにオブシディアンの方にも相談に行かないといけないな。ほんと、この忙しい時に面倒な事をしてくれた。
報復しても文句は言われまい。




