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三十七話 トラップ文書


 クローシアの城はその一部が雲で隠れてしまう程に大きく、高い場所に建っていた。日本にも雲海とのツーショットで有名な城が有るが、そこに比べると厳かさは無い。

 ヨーロッパ式のは遊園地の城を彷彿とさせるからだろうか。実際目にしてみると、そこまでの緊張は湧かなかった。



 これが安土城とかだったら「信長ぁ……」となって死を覚悟していたかもしれないが。鳴かなかっただけで鳥を殺そうとする人間。

 ほんと、来たのがなんちゃってヨーロッパ風の異世界で良かった。



 長い階段を上がり、長い廊下を渡り、漸く辿り着いた応接間。謁見の間というのも有るようだが、今回はスウィート公爵家からの紹介だから応接間になるらしい。違いはよく分からないが、謁見の間よりは過ごし易そうだ。



「ルーク、アルストロだ。入るぞ」

「ああ」


 気安い口調で何の躊躇も無く応接間の扉を開けるアルストロ。従兄弟ってこういうものなのか? 前世の俺は従兄弟も兄弟も居なかったからよく分からないんだけど。





「……お前の言ってた子、ちっこくないか?」

「まだ十一だそうだ。うちの娘よりも年下だ」


 従兄弟同士で繰り広げられる会話は小声だが、俺にはしっかり聞こえている。前世の俺は百八十くらいあったが、今世はまだ小五。百五十程度しか無い。威厳が無いと言われる原因の一つでもあるので少し気にしているのだが……。


 という俺の視線に気付いたのか、ルークと呼ばれた金髪の青年(?)はコホンと咳払いをした。



「アルストロから用件は聞いている。望みは一国として認めて欲しい、という事で合っているな」

「はい」

「手紙にあった魔鉱山の存在は信じて良いのだろうな」

 先程の会話とはうって変わって、若干威圧気味に問われる。


「加工前の原石なら持参しております」

 俺が差し出したのは限界まで魔素を抜き取って、普通の物と変わらない品質まで落とした魔鉱石。本来の実力は看破されない限りは隠しておきたいから。



「ほう……。これが魔鉱石か」

「普通の物とは少し違う様だが……何が違うのか分からない」

「加工前ですから」

「この紙に国王が同意の印を押せば、クローシアはサージス国を一つの独立国として認めよう」



 苦労して用意したプレゼンセットは全部必要無くなったが、最短ルートを取れてラッキーだと思うことにしよう。


 ルーク王に渡された紙は契約書の様な物。

 クローシア側にもサージス側にも利のある条件では有る。

 極秘技術の秘匿権も認めてくれている。魔鉱石の輸出額は一年に一度の交渉機会を設けるという条件付きで俺達側に一任してくれている。が、不安でも有る。俺は魔鉱石の原石が一グラムいくらかが分からない。


 サンもルナも分からない。昔の、ジパング時代みたいに取りっぱぐれる可能性も有るのだ。その可能性が高い以上、安易に印を押すのは得策では無い。サンも俺と同じ意見の様で、渋い顔をしている。



「どうした? そこに印を押せば国として認めると言ったが」

 やけに印押しを催促してくるのも俺が疑いきらないうちに、という可能性が高くなってきた。悪徳商人感が……。


「申し訳ありません。俺がこの書類に印を押す事は出来ません」

 これなら他を当たった方がまだ良い気がする。

「ほう。なぜ?」


「俺も人の命を背負っていますので、先の見えない条件に同意する事は出来ないのです」

 これを彼が本気で書いていた場合、また搾取の人生が始まるのは目に見えている。



「…………それに印を押さぬと言うなら、国として認める事は出来ない。そう言ってもか?」

「ええ。例えどこからも認められなくても、印をする訳にはいきません」


 ルーク王の碧い瞳を真っ直ぐ見た。身長の問題で見上げる構図になってしまったのは少し格好付かないが。


「ルーク……。客人で遊ぶ癖は早めに直すことを勧めるぞ」

「……へ?」

 アルストロがルーク王の肩を軽く叩くが、当の本人はそれに気を悪くするでも無く、豪快に笑った。



「くははははっ……! この試練を通過した奴は久しぶりに見たぞ」


 俺もサンもルーク王に遊ばれてたって事で良いのか。試験と称した暇つぶしはやめて欲しい物だ。こっちは結構焦るんだから。詐欺の手口と同じよ、こんなの。



「フェリーチェと言ったな。余、ルーク・クローシアはサージスを国として認め、友好的な関係を望む事とする。これが本物の公文書だ」


 そこには先程の条件は書いておらず、国としてうちを認める事とルーク王の名前、クローシア国とだけが書いてあった。

 透かしで重要な事が書いて無い事を確認し、俺の名前、そして治めている地域の欄にサージスと書く。


 そしてルーク王に渡そうとした所で、書類は消えた。勝手に舞い降りて来たヴィーネとデウスの手によって。



「私はヴィーネ。ルーク王ね。今回はフェリーチェが自力で回避したから許すけど、次騙そうとしたら守護者と私の慈悲は無い物と思いなさい。私は冗談が通じない女神なんだから」


 怒りを抑えながらクローシアの二人に凄む。ヴィーネは美女だし、人型になっていないデウスは威圧感を放っている。俺からは四人の表情は見えないが、世の中には知らない方が良い事も存在する。変に詮索するのはやめよう。




 言いたい事を言って気が済んだのか、ヴィーネとデウスは神界に帰っていった。全く……。お騒がせな人達だ。


 で、この後俺はどうすれば良いのだろうか。視界を遮る存在が居なくなった事で、ルーク王とアルストロが驚きで放心している所がよく見える様になってしまった。出来れば解凍までして欲しかった。


「今のは真か?」

 地獄の沈黙の後、ルークはアルストロにそう聞いた。


「ヴィーネ神を騙る愚か者等、人間には居るはずが無い」

「――となると、本物か」


 まるで生産性は無いが、本人達には必要な事という事で、俺とサンは二人に話しかけられるまで空気に徹した。



 まずされたのは、妙な文書で俺達を困惑させた謝罪。そして、礼だった。俺があそこにサインしていたらヴィーネはどうなっていたか分から無い。経緯はそういうことらしい。


 俺としては、得体の知れ無い人間をアッサリ受け入れて信じる人の方が信用出来無いので、これで良かったと思うが。

 ただ、ヴィーネは未来が大きく変わる事はしちゃ駄目だと言っていたので俺が嵌められた所で、クローシアに二度と守護者を産ませない、くらいで留めるとは思う。滅ぼす事はしない筈……だよな……? そこは神を信じるしか無い。



「改めて。ルーク・クローシアはフェリーチェ・サージスが治めるサージス国を対等な国として認め、友好関係を築くとここに誓おう。いや、それだけじゃない。大陸の所有権がフェリーチェ・サージスのものであることも認める。今後、他国との橋渡し役になる事も約束しよう」


「俺としては国と認めてくれるだけで嬉しいのですが……」

「いや、神の怒りに触れるのは流石に余も怖いのだ。それに対する見返りは求めん」



 脅し効果って事? 俺、もう脅して付き合わせるのはやめたかったんだけど……。でも、今回は俺が直接じゃ無いし、見返りが必要無いなら甘えさせて貰うのも手だな。


「じゃ、じゃあ……。よろしくお願いします。ルーク王」

「任せておけ。……と、その前に」

「はい。何でしょう」


「王家とスウィート公爵家で貴国を訪問しても良いか?」

「……まだあまり発展はしていませんが、それでも良ければ。心から歓迎しましょう」


 安全面をガッチガチに固めておかなければ。うちは出自が国王含め平民ばっかだから、多分クローシア幹部の顔を知っている人は居ないけど。そして、恨みも下心も無いのに誰が狙うんだって話でも有るけど。



「アルストロ。出発は明日で良いな」

「急だが……。急がせれば昼には何とかなる」


 こっちも急だな。うちには迎賓館なんて気の利いた物は存在しない。俺の屋敷に泊めることになる。皆に……特にオリヴァーには超特急で伝えないと大変な事になる。


「フェリーチェ様」

 サクッと転移するか迷っていると、サンに小声で耳打ちされた。



「ヴェルザードを行かせました。必ずオリヴァー様に伝える、との事です」

「ほんとありがとう、サン」

 俺とオリヴァーの救世主だよ君は。


「いえ。いざという時の為に、連れて来て正解でした」

「フェリーチェ、明日の午後五時にそちらに向かう事にする」

「移動は転移で良いですか?」


「転移……? それは存在するのか? 本当に?」

「ええ。一度に五人までしか運べませんが、何回かに分けて運べば一瞬で行けます」



 守護者という存在は知っていても、実際目にした事が無いと固有の魔法は知らない、と。

「船が良ければそれでも大丈夫ですが、かなりの距離が有るので何日掛かるか……」

 技術の発展が進んでないこの世界だと一週間どころじゃ済まない。


「体験してみたいし、転移が良いな」

「分かりました。午後五時に転移で……何名でしょうか?」

 スウィート公爵家は当主一家は多分三人だけど、王家は分からない


「王家は余と妻、使用人を二人ずつ」

「スウィート公爵家は身内三人と使用人は一人ずつで十分だろうな」



 つまり……十二人か。三回なら少ない方だ。魔力的にも問題無い。最初期の集団転移が多過ぎただけだ。本来は無茶してまで連打する魔法じゃないから。


「では、五人以下になる様に組み分けをお願いします。お迎えはこちらで良いですか?」

「ああ。スウィート公爵家と共に城門前で待つ事にしよう」


 実にありがたい提案を喜んで呑み、一度転移で国に戻った。クローシアが夜だったが、こちらは真昼。明るくても少し冷たい風が吹いているから、上着を持って来る様に伝えた方が良かったな、と少し後悔。



「フェリーチェ!」

「あ、オリヴァー。ヴェルザードから伝言は届いたか?」

「うん。届いたよ。でも、こんなに早く来るなんて思わないって」


「向こうの王様が行動的と言うかフッ軽と言うか、とにかく即決型の人だったんだよ。俺も一瞬暇なのかと思ったし」

「とりあえず、シュガーライドが主体となってるから歓迎の食事は用意出来るよ。お風呂も大分前に完成した僕達用の温泉があるし。でも、向こうとこっちじゃ時間違うでしょ? 上手く対応出来るか不安なんだ」



 確かこっちの方が進んでて、差が大体十四時間くらいだから……こっちに着くのは朝の七時頃か。あの人達の睡眠事情は少し心配だが、何するかは自由だから昼寝でもしてくれれば。というか、こちらが何かやらかさないか心配なので出来ればずっと寝てて欲しい。



「多分、朝の七時頃に着く」

「朝七時?」


「ああ。料理担当の子達は普段の仕事が六時開始だけど、いつもの人数にプラスして十二人来るらしいから大変さは比じゃないと思う。今作っておいて俺の無限収納に入れれば問題無いけど」


 でも、お金という概念がまだ出来上がって無いから給料制って仕組み自体が無い。本人達は気にしてい無いが、今の俺は無賃で仕事を上乗せする鬼。

 あの子達は何したら喜んでくれるんだろうか。俺が立つとキッチン全土が消滅するから駄目だし、うーーん……。



「とりあえずシュガーライドに人数教えて、そこからどうするか判断すれば良いんじゃない? 屋敷の清掃担当には僕がもう伝えてるから」

「ああ、そうだな。ありがとう、オリヴァー」


 口に出していない俺の心の中が何故分かったは置いておいて、俺はキッチンに居るだろうアレンの元に向かった。


「アレン、居る?」

「はい、フェリーチェ様」

「明日の朝七時頃、お客さん五人が使用人を七人連れて屋敷に来るんだけど、朝ご飯とかどうする? 俺の無限収納に入れれば明日慌てないで済むと思うんだけど……」

「フェリーチェ様のお客様? ってどこの誰ですか?」


「クローシア国王とその従兄弟の公爵。国として認めてくれる様に他国に掛け合ってくれるって言ってくれてるんだけど、その前にうち来たいって」

「今からですとコース料理は難しいですが、いつもよりも少し種類を増やす事は可能です。いつも僕はフェリーチェ様達の分しか作りませんが、滞在中はヘルプに入れば問題無いかと。通常、使用人は主と食卓を共にする事が無いので、本気で作るのはプラス五人分で良さそうですし」



 流石料理長アレン。十二人と聞いても全く動じないどころか、自信満々だ。


「今回僕頑張るので、終わったら新作デザートの試食に付き合ってもらえると嬉しいです」

「勿論、寧ろそんな事で良いのか?」


「はい。レパートリーが増えれば作っていて楽しいですから」

「そう? アレンがそれで良いならいくらでも付き合うよ」

「ありがとうございます」



 とりあえず翌日に向けて幹部会急いで開いたり、客室を用意したりと、俺達はほぼ寝ずにおもてなしの準備を整えた。

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