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三十五話 プレゼン準備


 魔鉱山が発見された事は直ぐに通達された。サージスに流通している新聞を通して。

 新聞と言っても、朝夕に出されるあの定期配達では無く、号外の方が近いかも知れない。紙の量もまだ潤沢とは言えないし、街の各所に設置された掲示板を通しての報せになる。



 サージスの広報担当達は仕事熱心なのでその内、観光案内なんかも作りたいと言うと思う。その時は是非お願いしたいところ。


 個人的に、父さんの作る時計の正確さは群を抜いていると思っているからアピールして欲しい。

 正直、サージスと竜ヶ丘だけで消費するのは勿体無い。日本の時計には敵わないが、この世界では最も正確と言っても過言では無い。貰った懐中時計はクローシアとの時差にも十分対応出来たし、公爵家に設置されていた時計よりも質が良いと断言出来る。



 ポンの弟分を名乗る時計職人の少年? も舌を巻くレベル。天下の小人族に認められたら胸張れるしやる気も段違いになる、ということで父さんの持つ経験と小人族の持つ技術で俺の懐中時計はとんでもない進化を遂げて帰って来た。


 今まで手で調整していた針は、太陽の位置を感知して自動的に正確な時間を指してくれる様になった。これで渡航の度にネジ回してチマチマ弄る手間が無くなった。あの二人に魔鉱石を渡したら更に化けて来る筈だ。今から期待だな。



 まあ、そんな先の事は置いておいて。良過ぎる内容の新聞が出された事で国民はお祭り騒ぎの盛り上がりを見せている。

 俺を恨んでいても仕方が無い人達が俺に賛辞を並べる事からも、相当な盛り上がり方をしていると分かる。



 そりゃあそうか。前の国には無かった、他国が牛耳る魔鉱石事情をうちも握れる事になる訳だから。

 しかも他国よりも上質と来た。当然と言えば当然の事。国内で通貨が流通していない今も、俺に入る収益は皆に還元しているから今回も期待されているのだと肌で感じられる。



 入念に準備しなければ。鉱山労働をする人達の福利厚生は必須だし、大きな事故も防ぐ工夫が必要だな。

 労働時間外に崩落するのは人的被害が無いのでまだマシだが、勤労中はアウトだ。俺に死者蘇生の能力は無いからどうしようも出来ない。労働者を派遣する前に天井と壁の補強が必要になるな。またオリヴァー達と話し合わなきゃ。



 俺が望んで始めた事だけど、やっぱり慣れない事すると疲れるな……。今はまだ睡眠時間も確保出来てるけど、他国と交流する様になったら二徹三徹が普通になるんだろうか。

 あまり心配は掛けたく無いんだけど、要領が悪いとその未来は現実になるよなぁ。テスト勉強ですら効率良く出来なかった俺が果たして国政で上手くいくのか。





 ここは俺が気合いで頑張らないといけないな。多少寿命は削れるだろうけど。一度死んでるんだし平均寿命から数年早死にするくらい、なんて事ない。


「補強か……。確かに採掘までに時間は掛かるけど、安全の為には必要だね。誰に発注するかの目星は付けてる?」

「ああ。少し考えたんだけど、俺がやるのが一番良いと思う。施行中の事故も無いとは言えないし、俺なら結界で護身が出来る。魔石のおおよその位置特定の為に、ヒリュウは連れて行くつもり」


「フェリーチェ……威厳は欠片も無いけど、君はこの国の王様だよ? 良いの? そんな事して」



 呆れた様に言うオリヴァー。威厳の無さには突っ込まないで欲しかった……。ちょっとは気にしてるんだから。


「でも、この国で一番防御力が強いのは俺だ。自爆しない限り、誰よりも安全。それに、魔法バンバン使うつもりだから普通に施工するよりも早く終わるし」



 連れて行く予定のヒリュウに奇襲を掛けられたら俺の運命は絶望的だが、ヒリュウはそんな事しないからそこは安心して良い。

 一度格上と認識した相手には逆らわず、仲間意識の強さで永遠に付き従うという魔族の性質を色濃く持っているからこそ断言出来る。サン以外の俺が無理矢理連れて来た人間なら復讐を警戒するが。



「うーーん……。それはそうなんだけどね……。まあ、分かったよ。そこまで言うなら。言っておくけど、事故でアッサリ死んだら許さないからね」


 今までで一番恐ろしい表情で凄むオリヴァーに一瞬で鳥肌が立った。これはあの世――いや、地獄の底まで追いかけて来るやつだ、と本能が告げている。そういう行動力は理久だけで十分お腹いっぱいなんだけどな……。



「分かってる。気を付けるから」

「俺が命に変えても、フェリーチェ様をお護りします」

「フェリーチェ、護衛も死なせないでよ」

「ああ」


 要するに、護られないといけない状況に陥るな、という事だ。



「早速、明日以降の時間で施工しに行く。オリヴァーは幹部を集めて労働希望者の選定をしておいてくれると助かる」

「任せて。グループ分けまでしておくよ」

「ありがとう」

「うん」


 オリヴァーへの相談を終えた俺は一度部屋に戻り、地図を開く。幹部の一人であるロイが竜飛車に乗って作ってくれた、この大陸全体の地図だ。街の名称や特殊施設の場所まで細かく示されていて、最新版のこれには魔鉱山の位置も書き加えられている。


 地図上で見ても、かなり大きな鉱脈であることは間違い無い。地下に繋がる通路は複数用意しておいた方が良い。そこからのインフラ面も考慮した位置となると……。



「殆どの住宅は海側に有るので安全面を考慮して、入り口は出来るだけ森から離した方が良さそうですね」

 と、サン。


 そう、ラ・モールの森から魔物が襲来する可能性もゼロでは無い以上、交通の便と並行して考えないといけない。



「あの場所に行った時、森側の方に強い魔素量を含んだ魔鉱石の反応を感じました。魔物が引き寄せられる可能性は有りますし、魔素量の多い魔物も居ると考えられます」


 と、ヒリュウ。魔鉱石の位置や魔素の含有量が分かる魔族の言う事だ。従う以外に選択肢は無い。従わないと後が怖い。


「それならこの辺りに入り口と街を作るのが得策そうだな」

「私はその案に賛成です」

「俺も、この辺りなら安全だと判断出来ます。埋蔵量はあまり多くありませんが、現地に行けば俺がどこにどの位有るかは分かりますから」


「ああ。頼らせてもらうよ。サンも一応警戒しながら着いて来てくれるか?」

「勿論です」

「お任せください」


 頼られて嬉しそうなヒリュウと、表情を引き締めたサンをひと撫でし、別件の作業に取り掛かる。スウィート公爵家関連についてだ。



 成人パーティーの開催はそろそろだから、目星を付けてまたクローシアに行かないといけない。今のうちからプレゼンの準備をしなければ。魔鉱山も交渉材料にはなりそうだしな。

 本来の実力は勿論隠す。発見された、とだけでも十分な効力が期待できるから。希少価値が高く、生活に必要な存在。それが国と認めるだけで簡単に手に入る。そう思わせれば俺の勝ちだ。あの公爵家が王家に連なる家と知っているから考えられる手。



「あ、交渉の時はサンかヒリュウのどっちかに着いて来てもらう事にしようと思うんだけど、二人はどうしたい?」

「俺は人間に化ける事が出来ないので、今回はサンに」


「それであれば私にお供させてください」

「分かった。じゃあヒリュウは国の方を頼むよ」

「お任せください、フェリーチェ様」



 当日のお供も決まり、その日は暗くなってからもプレゼンの用意を続けた。


 こうしているとスライドを駆使して卒業研究の発表をした高校時代を思い出す。写真を使ったりアニメーションを使ったり。パソコンと向き合う時間が億劫になりはしたけど、アナログで書くようになってデジタルのありがたみを実感した。



 本当に面倒臭い。カメラが無いから全部絵だし、今は無限牢獄以外じゃ消しゴムと鉛筆も無いから絵は一発描き。間違えたら最初からやり直し。効率は悪いし間違えた時のストレスは積もるしで高校時代より大変な思いを味わっている。



 アレンの作ってくれた気晴らしスイーツが、今は数少ない癒しの一つだ。

 ペットも居ない。居るのは家畜として飼われている動物と、牧羊犬くらい。この世界の人間は一体どうやって癒しを手に入れているんだろうか。臣下や部下の頭でも撫でているのだろうか。



 そんな俺の心が読めたのか、ヒリュウもサンも今まで以上に自由に頭を撫でさせてくれる様になった。

 これはアニマルセラピー……いや、臣下セラピーだな。

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