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三十三話 貨幣デザイン


 いつも通りの日常が帰って来た。オリヴァーは週休二日制に戻り、俺も国内の事に意識の大半を割けるようになった。

 俺が受けた依頼をこなしている間に、小人族達が紙の安定生産に成功していたため、今までやってこなかった紙幣について少し考えているところだ。



 皆には一度お金を廃止する事と、いつか紙幣を作って現在所持している硬貨と同じ額分両替をする事には納得してもらっている。

 でも、そのタイミングまでは伝えていない。俺的には国外との全面的な交流が開始する前後で諸々の流通を開始したいところ。



 そこで俺が懸念しているのは偽札の台頭。紙幣は硬貨に比べて圧倒的に偽物が作られやすいと思っている。

 この世界は日本よりも技術力に遅れが有るから透かしや特殊インク、コピー機での複製対策は厳しい。珍しい顔料や高価な顔料は存在するが、金を積めば誰にでも手に入れられる物だ。はてさて。どうしたものか。



「――という訳なんだけど、何か良い案有るか?」


 一人で考えても全く分からなかった俺は、幹部を集めて意見収集をする事にした。普段は俺もアイディアを持って来るが、今回は本当に何も思い浮かばなかったので。



「口や文書での制限があまり意味の無い事なら、製造する人をヴィーネ様に認知して頂く事で解決すると思います」


 そう発言したのはサン。造幣に限らず、自分達の技術秘匿を希望する人は、近くの教会でヴィーネ神に秘匿許可を得るらしい。そこにヴィーネ神自身の意思は無く、許可を得に行くという事自体に意味が有るとの事。


 何でも、ここで技術秘匿許可を得ると転職が出来なくなるらしく、そのリスクを顧みない行動が評価されるのだとか。

 こうする事で許可を得た人以外がその技術を行使する事は勿論、姿形の似た物を作る事も出来なくなるのだとか。



「それ良いな。ありがとう、サン。俺じゃ絶対思い浮かばなかった」

「お役に立てたようで嬉しいです」


「特徴的なデザイン且つ、真似し難い物を取り入れるのも必要ですね。国同士の貿易で使われる共通通貨、国毎に設定されている通貨では国王や偉人が描かれる事が多いですが、敢えてフェリーチェ様では無く、ブラン様を組み込むとか」


 ロイもデザイン的な観点での意見をくれる。国王も偉人も所詮は人間。だが、ブランは神獣。ヴィーネ神自らが作り上げた尊い存在。

 宗教が一種類しか無いこの世界では、心理的にも簡単には複製し難い。



『私とデウスの使用許可は出すわよ』


 少し考えていると、久しぶりにヴィーネから通信が届いた。俺の作業中は遠慮して声を掛けて来なかったので、大体二ヶ月半ぶりくらい。



『良いのか? 紙幣になると顔変わるかも知れないぞ。御神体作るのあんなに拘ってたのに』

『あれは私の分身みたいな物だから拘ったのよ。通貨なんて大量生産物じゃないの。ちょっとくらいイモっぽくても気にしないわ。それに――』


『あぁ、そういう事か。それなら俺のとこ座って良いぞ』

 ヴィーネはロイに直談判がしたいらしい。普段は顕現しないが、今回は特別ということで、俺の席を譲る事にした。



「フェリーチェ、様?」

「ロイに来客だそうだ。話したい事が有るらしい」

「は、はい。どちら様でしょう……」


 ロイの疑問に応えるように、ヴィーネがデウスを伴って顕現した。九尾のデウスはスゥ……と人型になり、超高身長の白髪美男子に変化した。

 白いレースローブに淡い金髪パーマのヴィーネと並んでいても並んでいなくても、美しさの暴力で目が潰れそうだ。


 御神体作りや神獣の作成で何度か会った事もあり、顕現の許可を出した俺は動じなかったが、その場にいる誰もが動揺を表に出した。



「貴方がロイ君ね。私はヴィーネ、この子は神獣のデウスよ。よろしくね」

「あ、はい……。ロイと申します」

「早速ここに来た本題に入ろうと思うのだけれど――」


 ヴィーネがここに来た目的は一つ。紙幣のデザインをロイがして、そこに自分を組み込むこと。

 この世界が出来てから長い時を生きてきたヴィーネだが、未だに通貨のモデルになった事は無い。結構目立つのが好きだから、何とか実現させようと頑張って交渉している。



「どうかしら……?」

「……デ、デザインだけでしたら何とか……」


 二人の美に見つめられ、ロイは折れた。今の所、小銭を作る予定は無くて、お札は百・五百・千・五千・一万の五種類を用意する。

 十も入れるべきか迷ったが、流石に嵩張りそうなのでサージスにお金という文化が戻った時、百円未満の商品が並ぶ事は無いだろう。



 その場に居たブランの意見も合わせて百がオリヴァー、五百が俺、千がブラン、五千がデウス、一万がヴィーネという事になった。


 少なくとも、被害が早く大きくなり易い千円札以上は複製し難くなった。顔面の圧で。

 一応、ブランは白蛇状態でデザインするらしいが、それも神々しいに拍車を掛けると思う。ブランも街の人達の前では蛇の姿にならないから、絵でしか拝めない推しの貴重な本来の姿。大量にコレクターが現れない事を切に願う。



 もし現れたら切符のシステムでも作るか。限定版を売り出せば、お札よりも希少価値が高くなるからコレクターを分散させられるはずだ。それでも無理ならもうお手上げ。俺にコレクターの気持ちは分からんってことで。


「フェリーチェ様、今回の紙幣、おれが一からデザインしても良いのですか?」

 美の化身によって半強制的に承諾させられたと思いきや、ロイはやる気だった。一度舞い込んだ仕事は逃さないタイプだからだろうな。



「ロイが五種類のデザインを完璧に仕上げられるなら、良いぞ」

「やります。美しいお二人にインスピレーションが湧いてしまって」

「あら、嬉しいじゃないの」


 ロイの純粋な賞賛にドヤ顔をするヴィーネと、無表情のまま何も言わずにこくこくと頷くデウス。

 これは多分、自分の主が褒められている事に喜んでいる顔だ。口数自体は少ないが、デウスはこの世界の誰よりもヴィーネを大切に想っている。初邂逅から少ししか経っていないが、それは俺にも伝わってくる。


 そして、デウスが一瞬ブランを見て美し過ぎる挑戦的な笑みを浮かべた事は見なかったことにしよう。色々とややこしくなるからな。


「それじゃあ、デザイン画が完成したら一度見せてくれるか?」

 まあ、ロイのデザインは好きだから余程の事が無い限りはNG出さないだろうけど。


「分かりました。では、二週間以内に初回ラフを上げますね」

「そんな早く出来るのか?」

「はい。そこからの手直しは時間が必要ですが、初回ラフは直ぐに描けるので」

「そうか。ならロイに任せる」



 割とサックリ終わった会議の後は昼食。アレン達の作った激ウマ飯が食べられる。

 今日のメニューは豚汁に唐揚げ、千切りキャベツ、白米。唐揚げ定食だ。俺のお気に入りメニューの一つ。前世では鶏肉だったが、魔物肉もアレンの手に掛かれば定食屋も顔負けなクオリティーに仕上がる。



「美味しいですねぇ……」

「だな……」


 食事は無礼講なので会話は自由。味の感想を言い合ったり、俺やオリヴァーがよくする様に、重要度の低い仕事の話をする場になっている。

 ここで言う重要度の低い仕事は地図と睨めっこして道と建物の位置関係について話し合うことを指す。今時点で重要度の高い仕事は魔鉱山関係と竜飛車関係。超機密事項だから、当然だけどこういった場でのピックアップは推奨されない。



 昼食後、特に議題が無ければ現状報告を受けて幹部会は終わりだ。この現状報告が中々に面倒臭い。

 元々地頭が良い訳じゃ無いから問題があった時の対処が拙くなる。いつも問題無しであれ、と祈っている甲斐あって、今の所は俺が出向かずとも個々で対処可能なトラブルしか出て来ていない。本っ当にこれがずっと続いて欲しいものだ。



「それじゃあ、今日は集まってくれてありがとう。これで閉会だ。皆、長時間お疲れ様」


「「ありがとうございました」」


 貨幣に関しては一歩前進。残す所はラスボス魔鉱山だな。オリヴァーが探してくれているけれど、まだ見つかっていないのが現状だ。早めに対策を打ちたい。大きな仕事が終わったってのに、まだまだ忙しいな。

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