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二十七話 サージス国、誕生


 最近、不可思議な現象が起きている気がする。


 スクールジャージ……。何故流行るのだ、あれが。多分ロイの着てるジャージ見て着始めた人が多いとは思うんだけど。

 街中は何ちゃっての袴かジャージを着ている人しか居ない。特定の職業には制服があるから制服と作業着以外の人達は皆あのダサジャーを着ている。



 令和のジャージは知らんが、平成のジャージはダサい。俺が身を持って知っている。それなのに大流行り。


 服職人のミラは「作るのが楽」と言っていたが、職人の手作業でそれは如何なものかと思ったりもする。ジャージは多分、量産型だと思うから。


 他国と交易する様になれば、ジャージ以外も流行る筈だけど。今の所、他国とやり取りをしているのは俺だけ。



 まだ通貨が無いこの国では、資材も街内の物々交換で成り立っている。ただ、どうしても他国でしか無い材料が必要という事も出てくる。


 そこで俺が思い出したのは、訪問販売。俺が製品を売り付けて利益を出し、得たお金で必要な物を購入し、必要な人に渡す。これで今の所いけている。ジャージがファッションじゃ無くなるのはもう少し先の事にはなりそうだ。




「ねぇ、フェリーチェ」

「うん? どうしたオリヴァー」

「あのさ、うちって国名有るの?」



 朝食のサンドイッチを頬張りながら、オリヴァーが不意にそう問う。

 俺は訪問販売の時『最果ての地からやって来た商人だ』と日本じゃとても口に出来なかった役職を名乗っている。

 当然、国名などという贅沢な物が有る訳も無い。魔族の国も同様に、国名は無い。俺自身、まだ国としてこの街を認識出来ていないっていうのもある。規模が小さ過ぎて。



 分かりやすいか分かりにくいかは定かじゃないが、使用面積で言うと、日本一の遊園地と同じくらいしか無い。施設としては大きくても、国としては小さい。


 ただ、いつかは付けないといけないことは分かっている。それが前倒しにされただけ。


 ということで、国名を決める。本当は幹部集めて決めようかとも思ったのだが、国名は俺にとって正直どうでも良い物なので、オリヴァーと二人で。


「エクレシアは王族の苗字から取ってるみたいだよ。他の国は分かんないけど」

「王族の苗字か。サージスってことか? 俺国王らしい事大してしてないんだけど……。オリヴァーの方が頑張ってると思う」


「支持を得てるのはフェリーチェでしょ。国名はじゃあサージスね。後は中央の名前。取り敢えずは今開発してる所までで良いよ」

 首都まで名前決めるのかぁ……。何が良いんだろうか。



「サンとヒリュウは何か有るか?」

 一向に思い浮かばないので後ろで控えている二人に投げる。


「フェルというのはどうでしょう。フェリーチェ様をそう呼ぶ方が多い印象ですし、覚えてもらいやすいかと」

 と、ヒリュウ。


「確かに。昔馴染みの方はフェリーチェ様を愛称で呼ばれていますね。私もその案に賛成します」

 サンも乗っかり、オリヴァーが「じゃあ国名はサージス、中央街の名前はフェルで行くね」と最終決定の印を押してしまった。

 本来なら最終決定権は俺に有るのだが、今回は自分の名前を捩じ込まれた俺が印を押してくれないと踏んだのだろう。目で追えなかった。気付いたら残像だ。



「ルナ、広報に届けて」

「はい、オリヴァー様」


 これ恥ずかしくない? 他国の人間も見るんだけど? いや、最初の目標に建国と並んで「俺つえーーー」的な日本じゃ恥ずかしい事言うって掲げてた俺が言うのもどうかと思うけどさ。でも恥ずかしいよ?


 あれ、山田さんが山田商事って会社立ち上げるのとは違うからね? 俺の苗字国背負うからね? 大丈夫なの?




「何か、不服そうだね。でも残念。もう変わらないよ。今日の夕方には新聞になって街に配布されるから。まだ紙が安定しないから掲示板っていう手しか使えないのが残念だけど」

 もう駄目だぁ……手遅れダァ……。オリヴァー、俺で遊ぶのがそんなに楽しいか。……楽しいなら良いよもう。


「まあ……恥ずかしいけど、我慢する」

「それが良いよ。平和で」


 正式に国として認めてもらう為にまだやる事はあるが、取り敢えず問題の一つは片付けた。三十分も掛からずに。サージス国、首都フェル。爆誕の瞬間だ。


 あ、魔族の国にも聞きに行こう。


「国名……どうする? ルナール」

 大分発展して来た魔族の国の中で一際大きな屋敷、オブシディアンと話を振られたルナールは揃って頭を抱え始めた。

 名前を付ける経験は有っても国名を作る経験は無い二人だ。俺とオリヴァーがトータルで掛けた時間が過ぎても一言も喋らなかった。開始から四十分が過ぎた頃、漸く俺に助けを求めてきたくらい、本当に何も言わなかった。



「ここ、最初に来た時どう思った?」

「……竜みたいな形の大きい丘が有るなぁ、くらいだな」

「ルナール、じゃあ国名はリューガオカにしよう」


 リューガオカ? ああ、竜ヶ丘か。竜が丘みたいになってるから。そのまんま過ぎて。苗字で楽した俺達が言うのもアレなんだけど……。


「竜ヶ丘だね、分かった。うちの国名はサージスになったから宜しく。国名を決めたってことはオリヴァーにも伝えておく」

「うん、ありがとう。それと、お昼ご飯あるけど、食べる?」


「え、食べる。良いの?」

「うん、エルフ達が教えに来てくれてるんだ」

 出て来たのは白米と焼き魚、水の三種類。日本食の片鱗が見える。ここに味噌汁が有れば完璧。



「ど、どうぞ?」

 俺が中々口を付けないことで不安にさせてしまったのだろう。遠慮がちなオブシディアンに促された。

「いただきます」

 まずは白米っと。



「……! うま」

 日本の物には何歩か及ばずとも、徐々に甘みが出てくる所や少しもちもちした所はまんま米。

 焼き魚は魔素湖で釣ったらしい魔魚。何の味に近いかは分からないが、取り敢えず美味い。



「美味しい?」

「ああ、美味しいよ」


 ずっと、こういうのが食べたかった。生まれ変わって最初の食事はドロリとした何かだった。味なんて分からない。

 建国するまで肉や魚は贅沢品で、口にすることは勿論、目にする事も無かった。建国してからも米はまだ食べた事が無かった。




 あれ、米ってこんなに美味しかったっけ。凄い、感動する……。時が巻き戻せるなら前世でパン貪っていた自分に茶碗いっぱいの米を押し付けたい。

 日本の米を食え、食い溜めでおけ、と。その前に、登山サークルなんかに入らせないようにするか。俺の死因なんだから。



「美味い、美味い……」

 気付けば皿からは全てが消えていた。米の一粒、魚の一欠片も残さずに全て。



「ごちそうさまでした」

 名残惜しい気持ちを押し殺して食事終了の挨拶。

「美味しかった?」


「ああ、最高だった。またいつか、食べに来ても良いか?」

「どうぞ。歓迎するよ」

「ありがとう、それじゃ」


 オリヴァーに報告すると、それも合わせて新聞にすると言われた。二百人くらい魔族が居るし、その子達のためだろう。

 最近の街……サージス国民は識字率が爆上がりしているので子供新聞くらいの分量と文字のサイズであれば、ほぼ全員が文書を読める。字が読める人が多いと俺も行動しやすいから早めにマリーと母さんを学校の先生に据えたのは正解だったな。



 エクレシアで教育が受けられなかったのは国がメリットよりもデメリットを危険視したからだろう。

 中途半端に学がある人間は洗脳し難い。そして、頭を使って反発を試み始める。単純な武力では制圧が出来るが、言葉――物語等になってしまうと不特定多数に届くから、具体的な制限が難しい。


 本は大衆の手に届かなくても、歌みたいに声を媒体にしていたらどうだろうか。一度解けた洗脳には二度も掛からない筈だ。だから、文章媒体による影響力を縮小させてでも学の無い国民を量産した。





 冷静に考えてみても不愉快だな。つくづく、逃げ出して来て良かったと思う。

 ここはここで不便なのだろうが、俺から日本人の倫理観が消えない限りは最低限度の生活は保証してあげたいと思っている。


 それが消えたらもうお終い。俺が消える。ただの老害に成り下がるのは嫌だから。

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