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二十六話 試作品試乗


 ブランが新たな仲間として街に加わった。連れて戻って来た時は誘拐と間違われたが、本人が神獣である証明をしてくれたので付きかけた謎の汚名は払拭。ブランはヴィーネと同様に信仰の対象となった。謎に俺への信仰心を持っている人は未だに居るけども。



 人間の一生じゃ絶対会えないと言われていた神獣が今、自分達の街に居る。

 しかも人型のブランは美幼女。自由に動き回るのでいつ自分の所に来るか分からない。可愛い子には良い所を見せたい、とどこも士気が上がっている。

 何なら、もう餌付けしている奴も。貴重な果物を惜しげも無く。ブランが美味しそうに食べるから本人達も満足するのだろう。



 それに、神獣が絡んでくると思うと仕事も丁寧になる。ブランは品質向上に一役かってくれている。

 偶にこっちをじぃっと見つめてくるのが気になるが。






「あ、フェリーチェ様。少し良いですか?」

「おお、どうした?」


 屋敷に帰宅する途中、竜飛車の開発に携わっているデザイン技師のロイ・ガーネットが声を掛けて来た。



 俺自身もデザインを描いていたのだが、それは現場で何度も修正されて、風の抵抗を減らす工夫をしたとの事で。


「サイズはエクレシアの馬車よりも大きいですが、素材に樹木型魔物を使用しているので軽くて丈夫になっています」

 設計図と実物を見せてもらいながら説明を聞く。



「試しに竜族で一番小さな個体に持ってもらいましたが、何の問題も有りませんでした。おれも乗せてもらいましたが、安定感も素晴らしいです。これなら壊れ物でも人間でも問題無く運べるかと。乗りますか?」

「良いのか?」

「はい。おれに懐いてしまった個体が居るのでその子に」



 まずは普通の状態で。家具職人達が頑張ってくれたから、ソファーは座り心地がとても良い。

 窓はガラス技術があるポンが主導して目隠し仕様になっている。が、網戸と窓ガラスのような二重構造になっていて、窓を開けると少しだけ模様の入ったクリアな窓ガラスが、窓を閉めると採光用だけの磨りガラスに切り替わる。


 本当、凄いわ。景色を楽しみたい時と、外から見られたく無い時とで変えられる。試作第一号の時点ではクリアガラスの窓に分厚いカーテンだったので外からの光を取り入れたいが目隠しはしたい、という時には不便だ。


 それがこの技術を使えば可能になる。農業用のガラス温室も作ってたし、小人族は高い技術力を持った種族とは聞いていたが、ここまでとは。



 今ロイが飲んでいるいちごジュースも小人族の農業者、ライムが主導で育てた物を使っている。エクレシアは真冬だったが、ここは結構暖かいのでイチゴが育ちやすいらしい。


 俺は農業については無知だから、ライムには特に口出ししていない。好き放題やって構わない。ただ、流石に家とか潰されたら困るから常識の範囲内で、ではあるけど。

 一粒食べた時の衝撃は凄かった。日本に売っててもおかしくないクオリティーだった。こんな、大した技術も無いような世界で。気候もまだ完全には読めないし。



 初めて降りた時は地中海性気候っぽいって思ってたけど、今は温暖湿潤気候に近いってなってる。

 降り立った時が偶々カラッとしていただけかもしれない、と。終生の住処は亜寒帯だったけど、出身地含めて日本の大部分が温帯だからこの島が本州に似ていると助かる。



 一応、毎日の気温と降水量は計って雨温図作るつもりではいる。完成して、結果が分かるのは一年後くらい。道のりは長い……。



「フェリーチェ様、乗り心地はどうですか?」

「あ、ああ。とても快適だ」

 考え事に入っていた自分を現実に戻し、ロイからの質問に応えた。


「じゃあ、浮かせますね」


 ロイがそう言った直後、飛行機が離陸した時のような浮遊感を覚えた。ただ、飛行機よりも椅子に押し付けられるような感覚は無い。どちらかと言うと、エレベーターの方が近いかもしれない。

 ただ、エレベーターと違って不快感は無い。




「おお……!」

 磨りガラスの窓を開けてクリアガラスの窓に切り替えると、俺が今まで作ってきた街が見える。



 下に居る子供達がこちらに気付いて手を振ってくれたので、振り返す。窓は開かないので見えているかどうかは分からない。


 窓、開けたくても開けられないという状態にするの、本当ありがたい。軽い気持ちで窓を開けたら最後、落っこちる。俺はアニメで見たぞ。


 空の上に居る飛行機の窓をぶち破った犯人が落っこちてった所を。無理矢理壊さない限りは絶対開けられないようにしなければ、と思っていたからポンには感謝だな。


 一時間程かけて街をぐるりと一周回り、ロイの拠点に戻ってきた。本気を出せば竜達は街を回るのに十分も要さないらしいが、今回は観光が目的だったので緩く飛んでもらっていた。

 体感、乗用車と同じくらいのスピード。大体時速四十キロくらい? かな。




「どうでしたか? 何か問題があれば教えて頂けると嬉しいのですが……」

「本当に快適だったよ。強いて言うなら、旅客用の座席下とかに荷物を置ける様に、とかだな。一般的なトランクケースが一つ、ピッタリ入るくらいが良い。ストッパーも有れば尚」


「分かりました。荷物置きに関しては強度上の問題は無いのでデザインに加えておきますね」

「ありがとう、ロイ。何か褒美で欲しい物が有ったら出来る限り用意するから言ってくれ」

 俺の野望を一つ、叶えてくれる人だから。やる気は維持してて欲しい。

「本当ですか? では、一つ欲しい物が有るのですが……」

「ああ、言ってくれ」




「ずっと欲しかったんです、これ。フェリーチェ様、ありがとうございます」


 そう言ってロイが腕越しに抱き締めるのは淡いピンク色のスクールジャージ。裸族だった魔族に渡していたダサめのスクールジャージがずっと羨ましかったらしい。




 ロイは今前世の俺と同い年の十九歳なのだが、早速着たダサジャージがとても似合う。ベビーピンクの髪をハーフアップにしていて、綺麗に保たれている手にはいちご飲料。

 クラスに一人は居る陽キャ感が凄い。俺の学校にはそんな人居なかったけども。


「この程度で良いのか? こんなダサいジャージじゃ無くても……」

「おれ、これが良いです。偶にフェリーチェ様が着ているのも見た事があったので、お揃いに出来る魔族の方達が羨ましくて」


「そ、そうか……気に入ったなら良いんだ」

 いつだ……いつ見たんだ……。俺、スクールジャージは屋敷だけのダル着にしていた筈だ。

 見ていた人はオリヴァーとかマリー、両親。後はサンとヒリュウくらい。外に出る時はミラお手製の何ちゃっての袴を愛用していた筈なのに……。

 何故、どうやって俺のプライベートを知ったのだ。人当たりが良さそうな笑みを浮かべてるけどロイ……結構ヤバいタイプじゃね?



 などという感情は悟られぬ様、笑顔で対応した。頬が引き攣ってた気がしないでもないが。


――――――――――――――――――――


「ふんふーん……」

 デザイン技師の工房の一室。ここには鼻歌とペンを走らせる音だけが響いている。



 上機嫌でデザイン画を描いているのはロイ・ガーネット。先程フェリーチェに強請って貰った淡いピンク色のスクールジャージを着ている。「着ているのを見た事がある」という失言は、ロイ本人も言った瞬間に気付いていたが、上手く取り繕えた。



 ロイは風属性一級。まだ級という概念がこの世界に無いが、世の風属性操作者の中で群を抜いて強い魔力を持っている。

 無風でさえなければ離れた場所の状況を映像化することが可能なのだ。つまり、フェリーチェがどこで何をしていても筒抜けという事だ。

 その事を知らないフェリーチェは今後窓の外や背後等、存在しないストーカーを警戒するようになるのだが、そんなのは知った事では無い。



 ロイは元々、自分本位な性格であった。それ故に友人の一人もおらず、家族からも恥として見做されていた。

 それについて気にした事は今まで一度も無かったし、寧ろ楽だと喜んでいた。そんなロイが「まあ従っても良いかな」と思えたのがフェリーチェ。


 オリヴァーに勧誘され、バックにフェリーチェが居る事を知った。度量を試してみようと、移動中の船内で我儘を言ったりもした。今までの人間であればここで根を上げている所だったが、フェリーチェは自分を見放す事は無かった。



 今ではロイも、フェリーチェに付き従う人間の一人となっている。何なら、少し拗らせ気味なくらいに。


 ロイは親しい人が居なかった事もあり、気に入った人と仲良くなるにはどうしたら良いか分からなかった。そんな時に見かけたのが魔族が着ていたスクールジャージ。あれはお揃い=仲良いの証と踏んだ結果のお強請りだったのだ。





「フェリーチェ様、頑張ってて偉いなぁ…………」


 現在十九歳のロイは、フェリーチェと九歳離れている。敬愛してはいるが、親戚の子供に抱く様な気持ちが強い。そんな子が頑張っている姿は、自分のやる気を引き出す。


「後少し。おれも頑張ろ」


 自分本位な性格が消えたとは思っていないが、少しは成長出来たかなと自負するロイだった。

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