二十四話 竜飛車実現に向けて
俺達がラ・モールの森を抜けて直ぐの所に仮の居を構えて二ヶ月弱経過したのだが、ここも随分と賑やかになってきた。
定期的に「トカゲです」とヒリュウが竜族を捕獲してきて、そのオマケのように「魔族が居ましたので」とサラッと連れてくるのだ。
魔族は総じて仲間意識が非常に強い。国を作ると言えば何の抵抗もされずに着いてくるらしい。仲間が増えるならば、と。俺達の街に住んでいた魔族の一部も手伝いの為にこっちに来た。
が、半日程度で「また明日ね」と言って戻る。人間の街を気に入ってくれたみたいで何より。魔族は魔族同士で、ではなく一度仲間意識を持った相手の居る場所に帰りたがる。
この調子だと、うちから隣国に移り住む魔族は少なく済むかもしれない。
元々、国がある程度落ち着いたら戻る意思を示していたが、今は毎日往復する一般的な仕事場として魔王領を考えてくれている。
追加で魔族が入る分には良い。たった一ヶ月ちょっとだったけど、人間と、連れてきた二百人の魔族との間には家族みたいな絆が生まれていたように感じていたから。
魔族が居なくなるのは寂しいと思っていた。俺含めた幹部に付けた直属護衛達は国を出る事は無いが、普通の騎士達は直属じゃない。もう、訓練場は少し騒がしいくらいが丁度良くなっている。
魔王領はまだ遊牧民みたいなテントが張られているだけだが、定住するにあたり少しずつ木造建築が建てられ始めている。何なら、学校と治療院はもう既に完成しているくらい。
先生役は俺の街で教師をしていた女性。エトワール家に仕えていた騎士の妹らしいのだが、エルフの男性と恋に落ちた様で。二人はそのままこっちに移住してしまった。まあ、幸有れって感じで。
「フェリーチェ、竜飛車の基地に出来そうな土地作ったよ」
進捗の様子見がてら、観光していると、すっかり会話に慣れたオブシディアンが俺を呼びに来た。竜飛車の大体のサイズを竜族の平均サイズから出して、土地の確保だけ頼んでいたのだ。
竜族の平均的なサイズは、三から五メートル。オスは五メートル、メスは三メートルが平均。
ヴェルザードは四メートル半と少し小さいが、ヒリュウが連れて来た個体は大体どれも五メートルくらいだった。
こうなると、馬車や牛車のように車体を後ろに付ける、という当初の予定ではトータルの長さがデカくなり過ぎる。
例えるなら、それなりに混んでる電車の中でスポーツ系のリュック背負ったまま乗ってくる中高生。それくらい奥行きある。
ということで、人を乗せる事を目的にした車体は軽自動車と同じくらいになる。メスに関しては軽よりも短くなるので、長さはボンネット部分がカットされるくらいになると思う。
用意してもらった土地は駐車場として問題無いくらい平らで広い。貨物用は予定通り、後ろにくっ付けるタイプだから大きくなるのだが、それでも二台は余裕で入るくらい奥行きがある。
「うん、これだけ有れば十分だ。ありがとう、オブシディアン」
「これくらい……」
そう言いながらも語尾は尻すぼみになり、口元は緩み、頬は少し赤らむ。褒められて照れるのを隠す子供みたいだな。あのバレバレなやつ。通学路の横に幼稚園があったからよく見てた。
俺の周りめっ可愛い奴ばっか居るんだよなぁ。前世も隣に居たし、今世は俺の精神年齢も相まって皆が皆、可愛らしく見える。
日本に年下好きの変態が多い理由が今ならよくわかる。年下ってのは、五歳差とかそんなのじゃ無い。十五とか二十以上下の奴が好きな人間のこと。ロリコンとかショタコンとも言われるけど。
オブシディアンは三十手前だけど、俺付きの最年少、サンは十二歳。俺もその域にギリギリ入っている気がする。中身は大学一年生だから、まだ十九だから。もう、そう信じたい。信じるしか無い。自分の名誉の為に。
「これを元に組み立てと切り出しをするから、本当に良くやってくれた」
俺がそこまで言うと、謙遜する事無く素直にナデナデを要求して来た。百八十の高身長なので、屈んでくれただけだけど。
俺が前世から持っていた魔族=格好良いは、魔族=可愛いに変化しつつある。
勿論、格好良いところも有るのだが、何をするにしても「フェリーチェ様のため」と言う所が大型犬みたいで。皆分かりやすく表現してくれるのだが、その中でも犬系獣人が一番分かりやすい。まんまだから。尻尾ブンブン。
目は口ほどに物を言うと言う言葉があるけど、彼等の場合、尾は口ほどに……になる。忠犬ハチ公と並べても全く恥ずかしく無い忠犬っぷり。
普段はキツい表情をするヒリュウも、俺に褒められたり撫でられる時は嬉しそうにする。
もっと撫でて欲しい時に目を閉じないところ、爬虫類感ある。竜族をトカゲと称する本人の前では絶対、口が裂けても言わないけど。
「オリヴァー、土地の確保はしてもらった。かなり広いから、やろうと思えば一回で二基は作れるはずだな」
一度自分の街に戻り、執務室のオリヴァーに報告。
「一気に二基出来るって凄い広いね。ここじゃ絶対出来ないなぁ」
「新しく施設作るってなるとスペースが必要だからな。今からうちに作るってなるとめちゃくちゃ大変だしさ」
とは言いつつ、一番の理由は技術の秘匿。魔族の国は俺達と以外交流する気が無いと言った。
俺がいる間は徹底的なスパイ排除はする。
だが、俺の死後にこの国がどうなっているかは分からない。でも魔王は不死。この街にいざって事が起こる前に竜飛車を匿ってあげたいのだ。
向こうまでの道には魔物が際限無く湧きまくる、広大な森が立ちはだかっている。飛行手段も無いのにそこを越えてまで技術を盗もうとする人間は居ないだろう。もし居たとしても、魔物の餌食になるだけだ。
俺が初めてオブシディアンと出会った時、何度も襲われた。俺が守護者だから無事だっただけで。普通、単身で乗り込んだらプチッと潰されて終わり。人生からログアウトだ。
「竜飛車について騎士達に相談しておいたよ。操縦って言うのかな? 竜族を操るのは騎士達になるから、新たに竜騎士って役職が必要かなって思ってたところ。ヒリュウさんから教えてもらったんだけど、人間と竜族って結構相性が有るんだよね? 希望者を引き合わせるところから始めないとなって」
「ああ、相性は俺もどうしようかって思ってたんだよな。竜族に無理をさせてまでする事じゃ無いからなるべくあっち側の感情を尊重してやりたいんだよ」
いくら竜族達が実力主義によってヒリュウに忠実だったとしても、本人に過度なストレスを負わせる訳にはいかない。
「相性が確認出来たら訓練騎士にして操縦の練習はさせたいね。一頭につき三人くらい当てれば休みも取りやすいんじゃないかな」
「だな。貨物用はともかく、旅客用は揺れについても考えないといけないし、やる事はまだまだ有るな」
「苦情が来ると面倒だもんねぇ……。僕もフェリーチェも休めなくなっちゃう」
他国から人を乗せる事を考えて煩わしそうに顔を顰めるオリヴァー。だよな、政治に通ずる人間がこの街には居ない。
伯爵子息のサンとルナも、出来ると胸を張って言えるのは身辺調査や武器の扱いだけ。それ以外はほぼ勉強出来ていない。サンは両親の怠慢により家庭教師がおらず、基礎科目のみを独学で。ルナはそもそも疎まれていたから。
今は週休二日のオリヴァーも、週休一日の俺も、慣れない対応に日々四苦八苦しそうだ。
「取り敢えず、騎士達の寮に掲示板作って求人票でも掲示しておくか」
「なら早めに募集要項作らないと。車体が出来上がる前に慣れておいた方が良いからね」
ついでに街の中にも掲示板を作ろう、という事になり、半日使って地図と睨めっこすることになった。




