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二十三話 漁師小屋の設計


「漁師街か。じゃあ、俺と暇そうな奴何人か連れて行く」

「ありがとう、助かるよ。おっちゃん」

「なんのなんの。フェルには世話んなってるからな」



 土木作業員の作業長は、俺がおっちゃんと呼んで親しくしていたお向かいさん。おっちゃんも俺をフェルと呼んでいた。俺が建国した今も尚、呼んでくれる。



「そんで、どこに作るんだ?」

「それを決めに、今から漁師んとこ突撃訪問するんだよ」

「ノープランか。こりゃあ、楽しい仕事になりそうだな」


 おっちゃんは一から自分が主導できるとなると、意欲が上がるらしい。俺とは真反対なタイプ。俺は適材適所って感じで手が空いてそうな所にどんどん振り分けちゃうから。



 漁師は基本的に片付けの後は船や網の整備を中心に各々の作業をしている。


「今良いか? 漁師街について、話を詰めに来た」

「おう、早かったな。勿論構わないぜ」

「ありがとう、それじゃあ皆を集めてくれ。休憩場で待ってる」

「はいよ」


 休憩場は、漁師達が持ってきた弁当を食べる為に作られた食堂みたいな所だ。二十人くらいなら余裕で入れるし、椅子と机もそれなりの予備がある。



 程なくして、街の漁師全員が揃った。規模が小さい街だから、当然漁師も十数人しか居ない。

 だが、これから増える事を見越して家を追加で建てやすいような街作りをするつもりだ。



 開拓ってなると真っ先に思い浮かぶのは碁盤の目状に張られた道。歴史の授業でやった北海道や京都が連想できる。

 俺としては複雑に道を作るよりも管理が楽。許可範囲の中には若干斜面になっている所もあるが、地魔法できちんと土台を作れたら基礎も問題ない。



「ところで、どんな家を作るつもりなんだ?」

 まずはそこから。家のサイズによって道幅が変わる。最悪、一方通行。面倒な事になる。



「必須なのはキッチン、寝室、リビング、水回り……。これくらいか?」

「キッチンは休憩場にあるし、嫁さんが弁当届けに来てくれるから必要無いな。風呂もフェルが作ってくれた公衆浴場が近いし、そこに行けば問題無い。あった方が嬉しいのは寝室とリビング、便所だな」


「三部屋か。服を干す庭のスペースを含めても大した広さにはならないと思う。トイレは部屋分けるけど、こういうパーテーションを使えばリビングと寝室、一部屋で完結するからな」



「おお……!」



 因みに、トイレはどこの施設も水洗。仕組みは紙面上でしか知らないし、日本のトイレ自体を無限牢獄で出せてもその先は完全では無く、都度水を汲まないといけないのだが、臭いに関する問題は大きく改善された。


 ただ、俺自身が下水処理の知識が皆無なので流した先は仮設トイレと大差が無い。汚物処理に使えるとかいうスライムを手当たり次第にぶち込んで何とか事なきを得たが、もしアイツが居なかったらどうなってたことか……。



 内装イメージを絵に起こしながら話し合いを進める。これが一番楽。道に関してはおっちゃんの意見を全部取り入れるつもりだから意見を聞きつつ外装をデザインする。防風林と温度調節の意味で各家に申し訳程度の木も植える事に。



 使う木は椿。常緑樹で俺が唯一知っている種類で、日本中割とどこででも見る事ができた。


 種か苗が有れば魔法でゴリ押し成長が出来る。魔物の木は使わない。生きたままラ・モールの森を出ると樹木型の魔物はドロドロに溶けるから。加工したら何よりも丈夫な素材になるのに、魔物ってほんと不思議。


「何だこれ、木?」

「そう。防風林」

「ぼーふーりん」


 そこで、俺は前世の記憶を掻き集めて説明した。椿に心当たりがある人も居たから、今日の話し合いはこの時点で大豊作だ。


 次は内部の広さについて。家具はベッドとデスクセットのみ。日本のシングルベッドは大体幅一メートル、長さが二メートルだからそれを参考に。

 で、すぐ隣にカーテン式のパーテーション。折りたたみ式のデスクとチェア。学校の机くらいの小さい物。これで使わない時は嵩張らない。普通の民家もそうだけど、出窓にするから小物を置くのにも便利なはずだ。



 こうして省スペース化を図った結果、幅四メートル、奥行き三メートル、高さ三メートル半という超小型の小屋が出来上がった。

 服とかはデスク達を畳めば部屋にも吊るせるし、物干し用のスペースも外にデザインした。省スペースで有りながらもそれを最大限使える配置になったと思う。


 ある程度の事が決まると、おっちゃんが作業員達と区画分けについて話し合い始める。

 今この街には春〜夏、秋〜冬、二期毎に担当者が違う漁師が居る。メンバー全員分の小屋を建てる必要は無いので取り敢えず十軒くらい。実際に建設候補地に行ってデザインもしたのだが、日本の観光名所とかでも普通に有りそうな光景になった。



 目を細めて見たら、周りの風景の異世界感が薄れて日本に見えなくも無いな。リアルで建ってから見るとそんな事無いんだろうけど、イラスト上だと。



 漁師と土木作業員二組と話を付け、次に行くのは大工と家具職人達の作業場。彼等にもそれぞれ依頼する。家具職人達にはサイズと用途を、大工達には設計図と建設希望地の状況確認を。

 それだけであっという間に日が暮れた。このままではヒリュウ達が心配してしまうので地図タップ転移でキャンプ地に帰還する。今日の夕食も、竜肉だった。流石、体が大きいと食べる所沢山ある。



 オブシディアンとルナールは測量で街の中心地を決めて、ヒリュウはラ・モールの森に生息する竜族に会いに行き、今は殆どがその軍門に下ったらしい。凄いな、ヒリュウ。



「トカゲにしては、懸命な判断をしましたね」と、竜族に語り掛けていたのは最早恐怖だった。連れて来られた竜達もプルプルしている。


 魔物と魔族は実力主義。人間であれば反乱を起こすのだろうが、この二つの種族は大人しく付き従うようになる。反乱の心配は無用だ。




「ヒリュウ、竜を使役した飛行手段についてだけど」

「はい」


「もう少し落ち着いてから車体の生産に乗り出そうと思う。そうだな……他国との交流を視野に入れられるようになってからかな。それまでの間は竜族と騎士がどれくらい相性が良いのか知りたい。俺が土地を開いて訓練場になりそうな場所を新設しておくから、ヒリュウは個々の性格を調べておいてくれるか?」


「お任せを。それと、魔族に進化させますか? 名前さえあればこの者共は進化します。俺に逆らえないようにしてしまえば――」

「大丈夫。騎士達も自分で名前を付けた方が愛着湧くだろうしさ。個体の特定のためにナンバリングだけしてくれるか?」


「分かりました。では、そのように」



 ナンバリング。日本でも家畜にされていたはず。牛とか豚とかにタグみたいなの付けて。

 竜達のナンバリングは首輪が良いだろう。首輪着けて、「お前の首は俺の手に有る」とかヒリュウ平気で言いそうだし。俺が言ったら厨二病のイタい奴にしかならないけどヒリュウのつよつよ顔面なら誰もが納得する。般若の面も合わせると効果は的面だ。



 取り敢えず『犬の首輪特大バージョン 無限牢獄産』を幾つか渡しておいた。構造自体は大して難しく無いからその内自作もすると思う。


「サン、本来なら明日は俺がフェリーチェ様の護衛を務めますが……重要な任務が出来ましたので暫くはお任せします。悔しいですが……!」


 ふふんと勝ち誇ったように胸を張るサンと、ぐぬぬと拳を握り締めるヒリュウ。どちらも俺を巡ってマウントの機会を窺っている。

 俺からしたら「何だそれ」と笑える話だが、この二人にとっては相当大事なことのよう。マウント合戦は今後暫くは続きそうだ。






「フェリーチェ様! 大変な事が起きました!」

 昨日とは違い、今度はサンの声に起こされた。


「んん……? なんだ……?」

「ヴェ、ヴェルザードが消えます!」


「きえます……? 消えたじゃなくて?」

 少しずつ覚醒してきた頭を回転させてテントを出る。そこには、半透明になったサンの持ち竜、竜人族に進化したヴェルザードが居た。



「どういう事?」

「ヴェルザードは水属性の魔物でした。それが、魔族となったことで使える魔法の幅が広がったらしく……。空気中の水分に化ける事が可能になった、ようです」


 サンへの耳打ちで俺に今の状況を伝えるヴェルザード。もしかして、人見知りか? 大人しめの性格なんだな。



「それで、ヴェルザードが触れている間は対象の物質全てを水に擬態させることが出来る、らしいです。つまり……」

「つまり?」


「フェリーチェ様がおっしゃっていた、隠密というものが、出来るようになりました!」



 凄く嬉しそうにそう報告してくる。後ろで待機しているヴェルザードも、漫画に起こしたらぱあっとカラフルな花を飛ばしていると思う。


「魔族の中で地、水、風。この三つの属性に偏っている個体は気配を消したり周囲の物質に擬態する事が可能です。俺はそのどれでもありませんが、練習したので出来ます。しかし、若い間は無理でしょう」



 ヴェルザードと同族のヒリュウが俺に朝食を渡しつつ、解説してくれる。


「ボクは、出来ない」

「同じく出来ないです」


「はい。ルナールは光系統、魔王様は再生・治癒系統に偏っています。まだ発生してから二十年と少ししか経っていませんし、出来ないというのは納得出来ます。逆に、出来たら驚きます。俺は三百年以上生きて、漸く擬態をマスターしましたから」


 そんなに大変なのか……。

「あの三属性に偏ってさえ居れば、ヴェルザードのように十年ちょっとしか経験の無い若造でも自然に出来るのです」



 ヒリュウは少し肩をすくめた。「羨ましいものです」と。確かに羨ましい。息をするように姿を隠せるなんて。

 神の加護があっても俺は地図必須の転移が精一杯だってのにさ。俺も教えてもらおうかな。いざという時の為に。



「隠密としてのお仕事が出来ましたらいつでもお呼びください!」

 サンはキラキラした目でそう告げてくる。隠密らしい仕事が今まで出来ていなかったから、やりたくてウズウズしていたのかもしれない。


「ありがとう。昨日、オリヴァーと話した事は覚えているか?」

「竜族を使役しての飛行……ですよね」


「まだ仮だけど、竜飛車って名付けたいと思ってる。その竜飛車が、軍事利用のために盗まれる可能性が有る事も話しただろ?」

「はい。スパイの警戒も、と」



「いつか、サンには交流国の監視をしてもらいたいんだよね。スパイが居ないか、悪巧みする輩は居ないか。そういうのを担当してもらいたい」


 俺がそう言うと、サンはパッと笑顔になった。こっちに来た時とは全然違う。感情を表に出してくれるようになったからか、年上だけど可愛く思えてくる。年の離れた従兄弟を相手にしているみたいな。おじさんだからかな。精神年齢。



「では、ヴェルザードと共に気配を完全に消せる様に訓練します」

「ああ、期待しているよ」


「フェリーチェ様……」

「ヒリュウは俺のこと乗せてくれるんだろ? サンに任せる諜報活動と同じくらい大切な仕事だよ」

「……! 今後も精進します」


 この体で事実上の年上とは到底思えぬ愛らしさ。ヒリュウなんてもう三百歳のお爺ちゃんだぞ。

 何だこの子達は。頭を撫でる手が止まらん。新手の攻撃だ。小動物を前にした時の様な癒しを継続的に与えてくれる。



 これはハニトラ勢が裸足で逃げ出すレベル。今なら正常な判断など出来そうにないし、聞かれてもいない余計な事まで吐いてしまうだろう。


 オブシディアンやルナールが正気に戻してくれて何とか助かった。本人達は名残惜しそうにしていたから、定期的にご褒美で頭を撫でてやるとしよう。

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