二十一話 新天地
結局、二戦した俺は、格好付けて退散したものの、すぐにダウン。オブシディアンとの建国場所決めの散策はまた後日……ということになった。
まあ、次の日の朝にはもう全部治ったから、後日ってより翌日だけど。
「もう、平気なの?」
「平気。色々と予定狂ってごめんな」
「大丈夫」
湧いてから殆どの時間を二人きり、しかも無言で過ごしていたオブシディアンとルナールは、まだ他人との会話に慣れていないのか、流暢に話すことは無い。
だが、その分表情は豊かだ。言葉が多少足りなくても、顔に出るから分かりやすい。
まだ二人の服は無いので俺の貸した学ランだが、その内動き易い服を贈りたい。
ゲームのラスボスみたいな魔王っぽく、威厳のある感じ……はどこかフワフワしてるオブシディアンには似合わなそうなので、ラフなので良いな。
俺の屋敷からラ・モールの森までは遠い。地図で表示できる範囲の端っこまでは転移で行って、そこからは徒歩。
因みに、地図で表示出来るのは、既に大陸として発見されているか、俺が行った事が有る場所に限る。だから、俺がオブシディアン達を見つけた辺りまで……数日分の労力をすっ飛ばせることになる。
ヒリュウから『竜人族は竜の姿になれますし、お乗せしましょうか?』と善意しか無い笑顔で言われた時は驚いた。
連れ帰っている時にオブシディアンから聞いたのだが、本来の姿になるのは弱みを見せるのと同じ。故に、リスクが高く何かしら裏が有ると思った方が良い、と。まあ、人間で言うと銭湯以外の場所、且つ人前で裸になるのと同じだからなぁ、何て思っていたのだが。
オブシディアンに視線を向けると『なるほど、これが例外……』等とトンチキな事を言っていてまるで当てにならない。
ルナールも驚愕でそれどころじゃ無さそうだ。上司に当たるサンの顔に動揺は見られないが、余りにも裏がなさ過ぎて逆に真意を計りかねている。あれだ、算数で躓く大人みたいな感じだ。
でも、俺としては裏が無いならありがたいだけだ。折角申し出てくれたのだ。乗らぬ手はない。
「ありがとう、ヒリュウ。転移先からじゃあ、乗せてもらって良いか?」
「……! お任せください」
何人乗りかは分からないが、提案するという事は俺、サン、ルナール、オブシディアンの四人は少なくとも乗せられる大きさになれるのだろう。
飛行機程の安定感は期待出来ないが、楽しみだ。
――そう、上から目線で思っていた数分前の自分に平手打ちをかましてやりたい。
何だこの乗り心地。飛行機以上じゃないか。
閉鎖空間ではない筈なのに、風は吹き込んで来ないし、揺れもほぼ無い。揺れないで有名な、日本の新幹線と同等なんじゃないか? しかもずっと座っていても疲れない。鱗なんて無いかの様に、座り心地の良い背中だ。
魔族の二人はもう慣れた様で候補地を絞っていた。うちから道を引きやすい所が良いらしく。俺とサンはまだ見慣れぬ景色に見惚れるしか出来ない。
異世界、しかも産業革命の象徴とも思える汽車すら無い世界に来てから、空を飛べるとは思っていなかった。魔力の量的に、俺であれば体を浮かす事は出来る。
しかしそれは周囲に上向きの風を起こすことで、瞬間的に人外レベルで高く飛び上がる様なもの。長期間宙に浮いた状態を保つ飛行とはとても呼べない。
だが、これは誰がどう見ても飛行だ。本人さえ良ければ、転移以外の長距離移動はずっとここに乗っていたい。
「フェリーチェ、あれ」
景色に見惚れる俺の肩をオブシディアンに叩かれた。ルナールが指す先には少し開けた場所がある。国と呼ぶには少し小さいが、今の魔族の人口であれば十分使える。
ヒリュウにそこまで飛んでもらうと、変わった地形になっていると気付く。平地をぐるりと見渡す事が出来そうな小高い丘が有るのだが、それが丸まった竜のような形をしている。
オブシディアンとルナールはこの場所が気に入ったらしい。他の候補地を見つけに再び移動しようという気配は感じられない。
これから数日〜数週間、ここに滞在して付近の生態系や気候感を確認する。この場所は森では無さそうだが、すぐ近は魔物の巣窟だ。魔物の動きも確認しておきたい。人間相手には敵対する魔物が、上位種族である魔族に対してどう動くか。
「ここなら開発をやり易そうですね。ここに決まった時の為にも、比較的安全そうな場所は見つけておきたいところです。道を通すなら、着工中の被害が出ないとは限らないですし」
地図を広げてサンが考え込む。一応サンは忍者のような立ち位置だが、他国との交友関係が一切無い今の所はそれらしい仕事が無く、俺の助手として活動している。
「そうだな、この期間中にある程度の目星は付けておきたい。中心部からここまで、最短ルートを取るならこの辺を通すのが早いんだが……」
「いえ、ここは狩猟の際に中程度の魔物が複数体確認されていますし、少し遠回りでもこちらから迂回する方が安全かと」
オブシディアンとルナールは測量、ヒリュウは晩御飯の調達、俺とサンは道の候補地の絞り込みを行う事になった。
俺としては、短くて安全な道というのを取りたいが、サンは魔物を避けるには魔素湖自体から離れないと魔物は脅威で有り続けると言い、中々話が纏まらないでいた。
最短ルートには魔素湖が有り、その周辺にも多く有る。となると、かなり遠回りをしなければいけなくなる。安全性は上がるが、ナマモノ等の交易には不向きの距離感になってしまう。空でも飛べればまた違うのだろうが。
「ゔーーーーーーん…………どうしたものか……」
「あ、あの……」
「ヒリュウ、もう帰ってきた――」
俺はその後の言葉を紡げなかった。多分、誰だってこうなる。
だって、大きな食材を抱えたヒリュウの傍に、竜が二体侍っているから。
「えっと……何事?」
俺は食料確保を頼んだはずなんだけど。
何だろ、最近はオプションも付けてくれるのか? 飲食店のお水サービスみたいな感じで。
ていうか、この二頭って魔物じゃね? 魔物って懐くの? マジで?
「食料確保の際、こちらの三頭から襲撃を受けました。丁度良いと思い、その内の一頭は晩御飯用に仕留めましたところ、何故か二頭が着いてきてしまいまして」
ビビられてる……。そりゃそうよな。魔物は魔族と違って知能が高いわけじゃ無い。
でも、本能で身の危険は感じたのだろう。ご飯になるくらいなら、従う方を選ぶのが良い。
「一頭は、サンに」
「俺に?」
「はい、これは俺の命に従います。俺が命じればサンの良き手足となるでしょう。もう一頭は保留ですが、荷物持ちくらいには使えるかと」
雑だな。でも俺には無いんだな、空飛ぶ奴。
「フェリーチェ様をお乗せするのは俺一人で十分。これは譲りません」
そう……ありがとね。でも怖いから殺気は出さないで。
「フェリーチェ様、この魔物が居れば地上の道は必要無さそうですね」
「確かに。見た感じ上位種っぽいし、数はあんま期待出来ないけど」
「…………竜の使役ですか?」
「ああ、ここまでの道を引きたいって思ってたんだけど、最短だと危険で、安全を取るとめちゃくちゃ時間かかるんだよ。でも上手く手懐ければ陸路に拘る必要無いなって思って」
俺の言葉に少し考える様子を見せた後、ヒリュウは小さく頷いた。
「上位種魔物の使役は可能です。魔族も魔物も実力主義。知能は低くとも、実力さえ示せたら長期的な活用も可能です。ただ、少し面倒な性格の個体が多いので、竜を操るのは簡単ではありません」
「面倒?」
「はい。人間は馬上での戦闘も行うと聞きましたが、相性は有るそうですね。同じ様に、此奴らにも好き嫌いが有ります。少しでも気に入らない人間が自分を操作しようとすると、攻撃的になる可能性が高いのです」
確かに面倒な性格だな。躾けられた馬は、例え気に入らなくても、振り落としたり攻撃したりまではやらない筈だから。ただ、実験する価値は有る。
隣に目を遣ると、サンに向けて綺麗に礼をした竜が居る。初対面で懐かれる奴も居れば、いつまで経っても懐かれない奴も居る。騎士の中で、竜と仕事したい奴が居たら本格的に動こう。
「分かった。この話はまた後日、帰ってから検討しよう。オリヴァーに内緒で決めると後が面倒そうだしな」
小言とかじゃ無くて、拗ねる。内緒で決めて、拗ねられて、中々機嫌を直してくれないのは困るのだ。これは経験談。俺は失敗から学べる奴なのだ。
「わかりました。では俺は、その案が採用となることを前提として動く事にします」
「ありがとう、助かる」
サンはヒリュウを俺に付けた時、『自分が未熟だから仕方なく代わりを付けたのだ』と認識した。だから始めは余所余所しい態度を貫いていた。
が、俺の本来の目的を知ったことで普通に会話もするようになり、一緒に行動する事も増えた。
俺がヒリュウを付けたのは、ブラック企業の社長になりたくなかったから。それだけ。サンはセルフブラックの申し子の如く、とにかく休まない。
ほぼ四六時中俺の側にいる。一度休まないのか聞いた事が有るのだが、「自分の居ない間に何か有ればと思うと休めません」との答えが返ってきた。
サンが良いなら良いわ、と無理矢理納得したものの、やはり心配なので。昨日俺がダウンしてた後、二人でスケジュール調整をしていたらしい。
遠征以外は一人ずつ付くと、ジャンケンで決めたとのこと。ジャンケン……強い癖に可愛いなこの子等。
少し予想外の事はあったが、今日はもう暗いので竜鍋でも食べて休むとしよう。




