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十九話 魔族


 魔族が加わったことで街の人口は一時的ではあるが、ゼロが増えた。



 これは後から聞いたのだが、コミュニティを作った時点でラ・モールの森内に点在するどの魔素湖からも、もう二度と魔族は湧かない。

 魔族として一つのコミュニティに属すのと同時に、本来備わっていなかった生殖機能が発現、それに伴い湧かなくなるとのことだ。

 そこに至るまでの仕組みは全く理解出来ないが、とにかく今後徐々に野生の魔族を見る事が出来なくなるってことだけ覚えておこう。



 最初だし、魔族も人口は直ぐに増えるだろう。ある一定のラインに行くと横這いになるだろうけど、少なくとも一万人くらいまでは増え放題だと思う。


 魔族は長命種ばかりだから地球じゃ希少価値の高い職人技術もその気になればどんどん極めていくのだろう。初めての貿易相手が知り合い且つ高度技術の使用者(予定)というのは大きい。小人族に関してはもう既に修得から極めの段階に行っているかもしれない。



 彼等の纏う衣服は俺が伯爵家で見たどんなドレスよりも綺麗で、ずっと触れていたいくらい手触りの良い物だったのだ。

 多分、衣服制作に関しての技術は現代人よりも上だろう。デザインさえ見せれば和でも洋でも作れるはずだ。


 ミラの服も、この世界の人間からしたらワンピースに見えるが、俺にはピンクと白の和ロリファッションにしか見えない。前あわせの時点でもうそれ。

 パンダの耳みたいな二つのお団子ヘアがあるせいで、漢服にも見えるが、俺は和ロリファッション説を全力で推す。



 別にロリコンというわけでは無い。前世、俺への誕生日プレゼント、と言って見せてもらった理久の女装姿はそれはそれは可愛らしかったから。この世界で会うことは出来ないが、恋人との記憶を掘り起こして思い出しニヤケくらいしたって良いだろう。



 一応、理久はまだ俺のことを恋人だと思っているはずだ。俺が死のうが、理久が死のうがそれは変わらない。

 異常な程俺一人だけに固執していた理久が、今更他の人間を選べる訳が無い。だから俺も、最期まで理久をただ一人の恋人とする。例え、王として子供を残す儀式を行ったとしても。



「ここ、本当に使っても?」


 船内の案内が終わり、再び外に出て船体を見たオブシディアンが信じられないと言ったニュアンスを含んだ声を上げた。



「ああ、勿論だとも。朝食は六時半、昼食は一時、夕食は七時に広場に行けば出て来るからそれを利用してくれ。遠慮は許さんからな」


 これからオブシディアンには建国っていう一大事業を興して貰う予定なんだから。



 船内の案内で部屋のサイズ感も確認したが、巨人族もベッドはギリギリだったものの、天井は広々使えていた。

 やはり念には念を入れまくって普通の家屋よりも高く作っておいたのは正解だった。この世界の平均的な家屋は、精々二メートル半いかないくらい。そんな所に押し込めば巨人族は頭ゴッツンコ案件だし、百八十の父さんでも窮屈に感じる低さ。


 だから、船内はどこも最低三メートル半を意識して作った。共有スペースは、人口が集中して圧迫感を出すから、最低ラインよりも少し高い。吹き抜けは流石に作れなかったから、せめてもの抵抗が現れてる。



「じゃあ、アタシ達は与えられた仕事をこなすだけね」

 未だに俺の肩に乗っかって髪を弄り続けるミラが頭上からそう俺に言った。



「出来るな?」

「もっちろん!」

「我らにお任せを」


 仕事割り振りは勿論、全員の希望を聞く。叶えられない事もあるだろうが。体格的にも体質的にも魔族と人間とは違うから。


 鬼人族と竜人族はほぼ全員騎士を志願した。曰く、怖がられる見た目をしているから敵の威圧に丁度良いとのこと。前世からこれ系統のファンタジーを読んでいた俺からしたら竜も鬼も格好良いだけだが。

 それに、前世よりも強くなった今の俺なら殺気を向けられても眉一つ動かさずにいられるかもしれない。



 巨人族は建築や土木系。経験は無いようだが、体の大きさで何とかなる。建国の際も活躍するだろう。


 鳥人族は男性は夜番の騎士、女性は家事系統を選ぶ印象が強かった(例外も勿論有るけども)。

 人間は夜目が効かないが、鳥は夜でも活動出来る。

 鳥人族って、前世で言うフクロウみたいなんだな。竜人族もそうだが、飛行が可能なので有事の際には魔族側がかなり有利になるだろう。調理に関してはアレンが指導してくれるだろう。


 少なくとも、俺が頼めば断らない。それに、アレンは俺以外の幹部の食事まで一人で回している。部下が出来るのはアレンとしても受け入れる方が楽だ。



 小人族は魔族の中で唯一、高い技術を持って生まれてくる。身長と寿命以外は人間とそう変わらないし、好きな所に行けば良いと言ったら各々の分野を選択した。



 エルフ族は人間の服飾雑貨類に興味を示したのでミラに預ける。

 エルフ族は八百年以上生きるとハイエルフという、別の種族に進化するらしいのだが、その唯一のハイエルフ、シノは武器を持つ事を選択した。弓でも剣でも刀でも、好きな物を選んでくれれば良い。職種は狩人。食料調達班だ。



 もう日が落ちて来ていたので詳細は明日以降に詰めるとして解散となった。ここに来てくれた二百人は一度建国のために新たな土地で新たな仲間を導くことになる。

 だがその大多数は建国後、また戻って来たいと言ってくれたので、割り振り先の方にはその旨も話しておかなければ。ここに居る魔族は少ないが、時間の暴力の影響で全体で見れば万単位では存在する。二百人がここに残ったところで大した影響は見られないだろう。



 俺はオブシディアンと一緒にラ・モールの森の奥まで行って国を作るのに適した土地を見つけることになる。


 他の人間が聞いたら、連れて来たのなら別に新たな国を作らなくても良いだろうと思うかもしれないが、俺の作った街では気候や土地の土壌環境がどこも大差無い。もっと広がれば違う点も出て来るだろうが手っ取り早く色々な産業の基礎を作るには離れた土地にもう一つ都市を作り上げる方が楽なのだ。



 ルナールもオブシディアンに着いてくれるらしいから、将来的に俺とオブシディアンとを繋ぐ橋渡し役として活躍することになる筈だ。



 それと、俺の直属護衛? が一人増えた。竜人族で、名はヒリュウ。漢字で書くとそのまま、飛竜。彼だけは完全に俺の趣味と、漢字で書ける名前の人が居て欲しいという願望。パッと見ただけではあるが、オブシディアンやルナールの次くらいには強い。


 人間のランクだと、特級レベルだろう。


 ヒリュウは転移は出来ないものの、気配を消しながら移動することが得意だと言った。サンには忍――この世界の雰囲気に合わせるなら影――になってもらいたいので存分に教わってほしい。

 その身が俺の専属となった時点でヒリュウは建国の為に動く事は無い。だから時間はたっぷりある。あ、部屋も用意してやらないとな。まだ空きはあるから屋敷の増設工事はしなくて済みそうだ。



「新しく入った魔族の名簿?」

「そう」


 夕食後、オリヴァーとルナに今回の名簿を作成して報告。二百人全員の名前を付けた訳ではないが、それでも疲れた。

 一応、種族ごと、五十音順に記載している。自分も読みやすい様に。驚きだったのは、オブシディアンが獣人だったということ。あの角は少し歪んだ羊のような形をしていたが、それ以上の特徴は無かった。



 本人曰く、獣人にもエルフにも人間にもなれなかった成り損ないだそう。魔族に成り損ないとかあるんだ。

 ただ、圧倒的な強さの前ではそんな事は些事でしかない。考え様によっては獣人とエルフの特技を両方持っていることになるから。本人にそう言ったら、キョトンとした顔で、それから「それは思い付かなかった」と笑っていた。



「最終的にはほぼ全員うちに残るんだよね」

「そう聞いてる」


「マリーに誰か付けられる? 結構無茶するからストッパーが必要なんだよね。話し相手にもなるだろうし。現時点で誰かに襲撃されるとは考え難いけどこれからどうなるかは分からないし」

「了解。それじゃあ、明日にでも聞いてみる」

「よろしく」



 マリーが無茶か……。元々そういう性格には見えなかったけど何か心境の変化でも有ったか? 楽しくて止められないって可能性も有るけど。付けるなら多分、女性の方が良いよな。マリーには女友達が居ないから。


 鬼人族はほぼ全員、騎士を志願したからそこから一人マリーに付けよう。鬼は見た目からして強そうだし。初見で敵がビビってくれそうだ。



「フェリーチェ様」

「……? 何、ヒリュウ」

 オリヴァーの部屋を出た俺に、早速付いてくれているヒリュウが声を掛ける。


「先程のお話ですが……」

「ああ、護衛の?」

「はい。実は、推薦したい者が居ます」


「推薦? 誰だ?」

「鬼人族のハナエです。実は、彼女は俺が面倒を見てきたのです。実力に関しては保証出来ます」




 ハナエ……。名付けは俺じゃないからオブシディアンが付けたと思うんだけど、意図せず漢字表記が可能な師弟になったんだな。

 でも、顔が思い出せない。自分が名前付けてたらパッと思い出せたと思うんだけど……。



「桃色のロングヘアで、白い角が一本生えている少女です。これと似た様な面を持っていた筈です」


 そう言ってヒリュウは自分の頭を指す。桃色のロングヘアだけだと分からなかったが、ハナエという少女の顔は思い出した。ピンク色の般若の面を右耳の後ろ辺りに飾っていた。師弟でお揃いだなんて、仲の良いことで。



「ありがとう、ヒリュウ。マリーとの相性さえ合えばハナエを付けることにするよ」

 あ、後ハナエの意思確認もして。


「自分で推薦しておいてこの様なことを言うのはおかしいのですが……良いのですか? 実力がはっきり分からない者を付けてしまって」

「それなりの時を生きた鬼人族が負けるなら、その時は国家も沈んでるだろうね。一人にそこまでの戦力を割く必要は今んとこ無いし、平気なんじゃないの? まあ、心配ならマリーに立ち会って貰って試験した方が良いな」



 確実な勝算が有る訳では無いが、負けはしないと思う。

 ハナエはオブシディアンやルナールよりは年上だが、鬼人族の寿命から考えるとまだ幼く、百年ちょっとしか生きていない。人間の基準だと、準一級。

 変動するので正確な数値で表す事が出来ない、というのが魔族の恐ろしい所ではあるが、一つの指標としては使える。特級の俺は、油断さえしなければ十分にやり合える。



 そうと決まれば早速明日にでもハナエの元に行こう。魔族の建国予定地はその後だ。

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