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十八話 魔王


 建国を始めて、街が出来た。でも、まだ足りないことがある。



 娯楽。圧倒的に娯楽が無い。俺の演奏は定期的にしているし、最近はマンネリ防止の為に歌ったり踊ったりと、アイドル紛いのことも始めた。

 CDやスピーカー、バックバンドなんて気の利いた物は存在しない、アカペラ歌唱というのは難しい。前世の俺がオタクじゃなかったらきっと出来なかっただろう。



 結構これも人気を博しているイベントの一つだ。だが、それだけでは一点的。他の選択肢が無いが為に、全人口がドルオタになってしまう。

 しかしそれは暑苦しいので、この辺りで新たな娯楽を生む必要がある。

 だが、前世の常識がここと比べると未来に行き過ぎているので中々思い付かない。



 ということで、散歩に行く事にした。案が思い浮かばない時には散歩をすると良い。前世の世界でも行き詰まったクリエイター達は同じようなことしてたと思う。散歩じゃなくても、旅行とか。ネタ探しは重要。


 街にはいつも行っているから今日は魔物が居る森に行くことにする。

 あの森、何の名前も付いていなかったが、俺がラ・モールの森と名付けた。日本語訳で、死の森。

 魔物が無限に湧き続けるというのは肉系の食料不足の心配が無いってことでも有るが、安易に入ると魔物に襲われて死ぬ可能性も有るということ。不安にさせる名前にしてしまったとは思うが、こっちの言葉では何の意味も持たないから大丈夫。



 オリヴァーやマリーに暫く留守にすると告げて森に入った。魔物が湧く魔素湖(瘴気留まりとも呼ばれるらしい)は森が深くなればなる程ドブの色に近付いて行く。

 人間は魔力、魔物やその上位互換である魔族はエネルギーの単位が魔素という言葉になるそう。わざわざ呼び名を変えるのも面倒だし、人魔共に魔力で統一しても良いと思うんだけどな。流石に無理か。



 途中で何体かの魔物に襲われたりもしたが、拍子抜けするくらい弱い。この辺のモブっぽいのが人間に食料にされる魔物だろうな。



「……? 誰だ?」

 かなり深部に行った辺りで人影らしき物を見つけた。周囲の魔素湖は強めの魔物が湧くが、傷は一切見受けられなかった。全裸なのが少し気になるが。服を一切着ない種族か?


「そこで何してるんだ?」

「……!」



 声を掛けられるとは思っていなかったなか、裸の彼は飛び上がる。

 とてつもないイケメンだ。イケメンの裸体は目に悪い。


 思わず無限収納に入れていた服を渡してしまった。この服は俺が前世着ていた学ラン。無限牢獄で出せた。

 出せたのは裁縫は並以上に出来たからだと思う。目の前の人? は見た感じ百八十近くある。今の俺の服じゃ小さ過ぎて入らない。だが、前世の俺は百八十超えてたから。




「……?」

「どうぞ」

 言語は問題無く通じるようで、戸惑いながらも彼は俺が渡した学ランに袖を通す。


『ヴィーネ、この人ってどういう人なんだ? 何か、角生えてるんだけど』

『魔族ね。魔族っていうのは、瘴気留まりからごく稀に湧く理性と自我を持った魔物のこと。この近くには魔族が二百体くらい居るわ』


『魔族? 角以外は普通に見えるけど』

『今フェリーチェの前に居るのは結構強い個体よ。守護者で互角。普通の人間にはまず倒せないでしょうね。名前を持っていないから勝機はフェリーチェにあるけど、これが名前を持つようになると勝てるかは分からないわ』



 名前を貰うと強くなるって、自己認識が強くなるからってことか?


「なあ、魔族って名前持ってる奴居るのか?」

「……居ない。仲間意識は強いけど、呼称を必要としないから」

「俺が名前を付けるって言ったら?」


 魔族は仲間意識が強い。これは俺にとって凄く重要な事。うちはまだ貿易相手が居ない。しかも、働ける人口も足りない。ここで魔族と手を組んで国を興して貰えば、うちは貿易相手を手に入れられる。勿論技術が無ければ勉強してもらえば良い。もし技術があるなら、それを活かしたいところ。



「嬉しい」

「それじゃあ、今からお前の名はオブシディアンだ。それと、魔王を名乗ってもらいたい」

「まおう…………?」


「魔族の王ってこと。建国してもらいたいんだよ。俺の国と交易するために。あ、俺の名前はフェリーチェ」

「フェリーチェ。素敵な名前をありがとう。一生、大切にする」



 オブシディアン。日本語に訳すと、黒曜石。髪と瞳の色が黒曜石色だったから。実に安直。

 英語名がかっこよくて良かった。強そうな名前。オブシディアンと常に一緒に居るという狐耳の魔族にもルナールという名前を与えた。魔王となったオブシディアンは不老不死、ルナールは寿命の消失が起こり、永遠の二十代という何とも羨ましい能力を手に入れた。

 二人とも湧いてから二十年ちょっとらしい。前世の俺とそんな変わらない。何なら、前世含めたら俺の方が年上だった。もし生きてたら今三十だから、俺。



「で、魔王の方は? 受けてくれるのか?」

「出来ることなら、何でもする」


「じゃあ、これからよろしく。魔王オブシディアン。まずは同族を集めておいてほしい」

 同族というのは、友好的な魔族全てを意味する。



「魔族ってどこに住んでるんだ?」

「魔族は、この森の中であればどこにでも居着く。衛生面が良くないから、湧きたての個体はそのまま数年で消滅してしまうことも珍しくないけど……」 

 つまり、魔族は知力はあっても体力面では魔物に数歩劣っているということか。


「国が出来るまで、住める場所は俺が提供しよう。ただ、出来れば衣類は身につけて欲しい」

 全裸で街を闊歩しているとなると、目撃者があまりに不憫。常に水辺に棲む魚人であれば、必要性は薄いが、陸を歩くならせめて何かは着ていて欲しい。



「衣類を身に着けるようにというのは、魔族を高位の存在とするということ?」

「着衣の有無で価値決まるの? 魔族」


「昔、人間の手下だった魔族が、一切の着衣を許されなかったという話を聞いた事があるから」





 え、キモ。変態にも程が有ると思うんだけど。

 全裸で仕えろってことでしょ? 自分は服着て。どこの変態だよ。それともあれか? 武器を隠し持ってる可能性があるって? 魔族なら素手でも強いだろうに。



「俺、何か着てて貰わないと困る。会話する時、どこ見て良いか分からなくなるから。服を作れる種族は居るのか?」

「小人族に聞いてみれば、多分」


 小人族か。ここにも居るんだな。てか、小人も湧くんだ……あの魔素湖。そうだよな、魔族だもんな。ここはもう慣れよう。湖から人の様相を呈した個体が湧き出るのは普通の事だって。



「じゃあよろしく。この森から出られない誓約が無ければ、国作るまでは俺の街に居て良いぞ」

「縛りは無い。彼等も人間には興味が有るみたい」


 オブシディアンがそう言った瞬間、周囲の魔力? いや、ここだと魔素か。その魔素が一気に濃くなった。どうやら、魔族のお仲間が集まって来たようだ。



「強そうなニンゲン」

「なまえつけてた」

「名前……!」


 未就学児くらいの身長の魔族が俺を羨望の眼差しで見つめてくる。このサイズは多分、小人族かな。



「なまえ、ほしい」

「欲しい……」

 大勢でジリジリとにじり寄って来ると、小さくても結構な圧を感じる。


 でも、名前を付けて欲しいと言って来るのは予想外だった。そんなに欲しかったなら自分達で付ければ良かったのに、という本音は喉奥に留め、名前を与える事にした。手を取って喜んでいるところを見るに、人間の幼稚園児よりは落ち着きがあるが、精神年齢は低めだろう。


 はしゃいでいたのに、咳払い一つで整然と一列に並んで順番待ちをする。ギャップが可愛い。俺の中でアニマルセラピー的な存在になりそうだ。小人族セラピー。



 俺が名付けた小人族は全部で二十人。衣類はその中の一人、ミラが率先して作ってくれるそうだ。ピンク色が好きなようで、肩車を要求し、俺の髪をずっと弄っていた。

 可愛いものだ。もう二十年以上は生きているそうだが、小人族は寿命が千年近くあるから、このミラも幼い部類のはず。



 次はポン。何と、ガラスの加工が得意なのだとか。人間世界よりも進んでいるような……。この子はまだ十二歳、マリーと同い年らしいが、ミラよりも落ち着いている。成長速度はかなり個人差が有るってことか。


 最後はライム。植物育成がずば抜けていた。名前の礼に、農業従事者を助けてくれるとの事。

 他は皆、この三人の弟子だった。オブシディアンが名付けた子達も。

 因みに、魔族は名前が欲しい時、名前を持った別の個体に頼まなければならないらしい。




 種をまとめ上げていた長老が数年前に亡くなったことで、小人族は新たな長老として俺を選んだ。いや、同族から選べよ。などということを言っても無駄だ。完全に懐かれてしまったから。


 他にも獣人族やエルフ族、鬼人族なども集まり総勢約二百人の大移動を開始した。魚人族は存在しなかった。魚は魔物だけだとさ。



 そしてエルフ族。俺に馴染み深いのは容姿端麗、出るとこ出てて、スタイル抜群なオネーサン。


 だが、人間の様に容姿は個体差が有り、小人族くらい小さい子も居れば、百八十はあるオブシディアンよりも更に大きい子も居た。

 耳が尖っていない子も居て、パッと見じゃ人間と見分けがつかない。魔族の中では一番人間に近い種族らしい。魔族だから寿命はめっちゃ長いけど。



 森は広大だが、魔族同士は意外と近くに居を構えていた? ようで。まあ、近くってヴィーネが言ったってことは、まだ探せば居ると思うけど。

 街に入ると、丁度作り掛けの家を背に、大工達が昼食を摂っている所だった。




「フェリーチェ様!」

「フェリーチェ様、彼等は?」

「仲間。森に居たから連れて来た。いずれ隣に国が出来るから、それまでこの街に滞在してもらう」


「でしたら、新しく住居を建てるべきでしょうか?」

「いや、あの船を使えば二百人程度、わけないから今は良いや。必要になったら連絡する」

「そうでしたか。では、失礼します」






 驚いたな。俺が無理矢理連れて来た奴が、俺が命令するよりも早く住居作りを提案して来るなど、想像もしていなかった。

 少しは心を開いてもらえたのだろうか。ピッタリと閉じていた扉に人が一人入れるようになったのは大きな進歩。今後に何か良い影響を及ぼしそうだ。



 全裸で歩かせるわけにはいかないということで、自分で服を持っていない人には俺が無限牢獄にちょっと篭ってプレゼントした。


 入社祝い金みたいな感じで。巨人族と呼ばれる人達も居たが、精々前世の俺より少し高いくらい、NBA選手(人間)程度しか無かったから事なきを得た。

 稀ではあるが、前世の俺の二倍くらいのも湧いたりするそうなので、このタイミングで巨人族の低身長しか居なかったのは幸運。



「ここが今日から仮拠点にしてもらう船」


 ミラに散々弄られ、何とも可愛らしい髪型にされたまま、俺は船内を案内した。

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