十五話 新しい仲間
「木造建築、ですか……」
「ああ、俺が考えたイメージ図がこれなんだけどさ……」
「ふむふむ……」
神社も残す所、石階段数段分となり、今は建築士達と今後の建築物の構想を立てている。
俺の屋敷は寝殿造りにしたい。勿論、中まで寝殿造りに寄せるわけでは無い。外観だけだ。中は書院造り風だったり、数寄屋造り風だったり。後は蔵造りとか。所々現代日本の面影は欲しいが、メインは日本っぽい建築を採用したい。
雰囲気に合わせる為にいずれは日本刀擬きなんかも欲しい。鍛治の心得は無いから、俺が伝える何となくのイメージだけでどこまで行けるか。
「あまり見た事がない建築様式ですが、何かモデルがお有りで?」
「ああ、それは秘密。でも良いだろ? こういうデザインも」
「はい。リラックス出来る家になりそうですね」
建築士達は全員、俺の案を採用してくれた。初めは民家土足禁止のシステムに戸惑っていたが、掃除の手間が一つ省けると言ったら納得していた。
やっぱり、どこに行っても掃除は面倒だって認識なんだな。日本の知り合いにも居たように、趣味にしてるような奴も一定数居るだろうけど。後は料理に外の埃とか入ってて欲しくないから。
畳もどこまで再現できるかは分からないが、もし出来なかったとしてもフローリングで現代風に出来る。中身と外見が違いすぎるが、そこは妥協しなければ。
「かしこまりました。こちらの案で試作をするのでまたお時間よろしいですか?」
「ああ、見つからなかったらオリヴァーに声掛けてくれ」
超能力でも有るのか、オリヴァーは俺がどこにいても追ってくる。安心して遠出が出来るものよ。
あ、ちゃんと配慮はする。流石にな、そこまで俺も鬼畜じゃないから。まだ街の規模も小さいし、毎分六十メートルの人間が日帰りで行けるくらいの距離までしか行かない。
「それと、家具職人が用事が有ると……」
「分かった。そっちにも顔を出しておく」
家具職人は望んで俺に着いて来た人しか居ないから、変に気を張らずに済む。というか、皆ご近所さん。
「おーい、俺のこと呼んだって聞いたんだけど?」
「おお! フェルちゃん!貰ったサンプルを参考にした試作型が一式完成したんだ」
「もう出来たのか! 早いな」
「へへっ。急かされねぇと逆に効率が上がるみてぇでさ」
皆自分のペースで作成出来たようでご機嫌だ。鼻歌でも歌い出しそうな勢いの人も。
「落ち着いたら家具以外の小物も作ってみたいわぁ。でも、暫くは家具メインで頑張るわね」
出来た家具は試作品ということで、俺に渡って来た。俺の感想を聞いた上で、更に改良を加えてくれそうな予感だ。
この街にはまだ通貨が無い。俺が一度全てを廃止したから。金銭での見返りが無いからと仕事を放棄する人も現れるかもしれないと思っていたが、杞憂だった。皆にとっては金銭が得られない事よりも、搾取・弾圧が回避出来た事の方が大きいらしい。
後、自分以外もお金を貰っていないというのも有るようだ。
政治体制とかもさっさと作りたい。君主制は俺が面倒臭い。完全に手離すことはしないが、ある程度の民主制は持たせておいた方が良いだろう。
「それじゃ、家具達の感想はまた伝えに来るよ」
「おう」
「待ってるね」
家具が粗方作り終わったら譜面台とか作って欲しいかも。俺は暗譜得意だけど、そうで無い人が大半だし。後で案も書き出しておくか。
後は……セロんとこ行こう。ヴィーネと話した事も伝えておかないと。
確か中心部から少し離れた場所にある青空教室付近に居たはず……。
「あ、セロ」
「フェリーチェ様、どうかなさいましたか?」
「ちょっと話がある」
人目が付きにくい場所に移動してからヴィーネと話した内容について共有した。俺の正体はここに居る人間全員が知っているが、まだ日程も定まっていない事柄はあまり第三者に漏らしたく無い。
人を集めた時も楽曲の使用用途に関しては伏せておいて欲しい旨も。
自ら志願したセロはもう、俺の中ではいずれ出来る楽団のリーダー的存在だ。最重要事項だと伝えると、少し緊張しつつも頷いてくれた。
「お任せください、フェリーチェ様。小さい子達も音楽に興味を持ってくれましたし、心得の有無を問わず、楽団の入団希望者が出て来ました。一定レベルの事が出来るように頑張ります」
「俺が渡した譜面の進捗はどうだ?」
「私一人であれば通しでの演奏が可能なまでになりました」
ここに来てから一ヶ月ちょっと。凄いな、この短期間であの鬼畜譜面を攫えるなんて。
「それじゃあ、志願者達も出来るように指導してやってくれ。時間は幾ら掛けても構わない」
「はい、分かりました」
あ、そういえば。セロって領主館で演奏してたって言ってたな。もう廃墟だけど、探せばグランドピアノくらい有るかもしれないな。
「あ、セロ。それとさ――」
確認をとったところ、グランドピアノは置いてあるそうだ。もし調律が出来ていなくてもセロが出来るそうなので、俺はサンと転移で廃墟と化した領主館に向かった。
ちょくちょくヴィーネに情報を貰っていたから、あそこの屋敷が領主夫妻の死後、手付かずだったということも知っているのだ。サンを連れて来たのはピアノの部屋まで案内してもらうため。
今、この領地は国有となったらしいが住民の顔色はあまり良くない。今回は館まで転移で来たが、敷地内から少しだけ見えた住民の疲弊っぷりは凄かった。
領主が消えた事で、国が直接我を通すようになったのだろう。居た時でさえ酷かったのだから、今は更に。
「楽器類はこの部屋に」
「へえ、結構あるな」
「一応、伯爵家でしたから」
「は、伯爵!?」
母さんよりも上の位だと……? 品位のカケラも無いあの二人が……? 俄かには信じられないな。
「驚かれるのも無理は有りませんね。私も自分の出自が信じられません。両親には教養が有りませんでしたから。実際、マナー講師は付けられていたのでしょうけど……根が不真面目な人でしたから」
穏やかに微笑んだサンは無造作に積まれていた譜面を丁寧に纏め始めた。血液型性格占いなんかがこの世界にもあるなら、多分A型だ。
技巧は技巧、練習曲は練習曲、とジャンル毎に分けている。前世の俺はABだったが、ここはサンと同じタイプだった。何なら、五十音順に並べて、更に教本も背が高い順に並べていたような。
ほぼ倉庫と化していた部屋の中央にはグランドピアノ。前世の俺が買う気も起きない値段だったグランドピアノが埃を被ってしまっている。一体、いつからこの状態なのか。
鍵盤を押すと、半音以上ズレている。しかも、謎のビブラートまで掛かって……。背筋がゾワリ。これはセロの調律が終わるまでは近寄りたくないな。
椅子も含めて無限収納に突っ込んだ。
「フェリーチェ様。この屋敷の物は全て貴方の物として持って行ってくださって結構です。他に必要な物がございましたら案内いたします」
「良いのか?」
「ええ。国の財政はあまり良くありませんから、金目の物は全て持ち去られていると考えるのが妥当でしょう。服は流行りが過ぎてしまっていますが着ることは出来ますし、本もそれなりの冊数があったはずです」
良いこと聞いた。音楽以外の娯楽も欲しかったんだ。どんな本が置いてあるかは分からないが、気分転換になる物だと嬉しい。
俺の予想だけど、多分医学書は無い。治癒魔法がある時点で医学の発達は阻害される訳だから。でも、世界観から考えると医学書の代わりに魔導書はあるんじゃないか? 浅い知識でも楽しめるようなライトなファンタジー本を好んで読んでいたから、それが有るとかなりアツい。
「じゃあ、ここ漁ったらサンの判断で案内して。必要だと思う部屋全て」
「かしこまりました」
そして、俺達は引越し業者もビックリな荷物量になった。
内訳。楽器・譜面類、普段着・ドレス・メイド服・燕尾服、魔法の参考書二十冊・歴史書十二冊・貴族史八冊、武具各種。
見れば見る程突っ込みどころが出てくる。魔導書が無いのは残念。
まず、この前まで居た領主、相当勉強が嫌いだったんだなぁ……というところ。
魔法の参考書が多いのは先代以前は魔法具と呼ばれる、誰でも簡単に自分属性以外の魔法を行使する事が出来るという便利機器を研究していたからだとか。論文の様な物だった。代替わりしてから九割くらい処分されたらしい。
それと、ドレスの状態が悪すぎる。多分一回着たドレスは放ったらかしにされていたのだろう。贅沢な奴だ。メイド服の管理も微妙だったし、俺とは合わなさそう。
あと一番大きいの。皆、自分の作業着は持って行きな? 俺別に禁止したりしないからさ。
鎧も剣もそのままだった。大切にされていた片鱗は見えたから涙を呑んで置いてきたんだろうけど……。大体の理由は、俺に反乱の意思有りって判断されるのが嫌だったからだと思う。
その気持ちも分からなくはないけどさぁ……。哀愁の漂い方が……。名前まで彫ってあるから尚更。オリヴァーが管理の為に作ってくれた名簿を参考にしながら武具を回収した。
因みに、馬は居なかった。元々は大量に居たそうなので回収された可能性が高い、とのこと。
「あの……!」
「こ、こら……!」
「……はい。何でしょう」
他に何か有ればこの機会に、と庭を散策している時、不意に呼び止められた。外見は幼稚園児くらいの少女。母親と思わしき女性と一緒だ。門の柵に阻まれて近付いては来ないが、開いていたら恐らく俺達の側まで来ていた。
「も、申し訳ございません!」
「いえ、謝罪は結構ですので用件をどうぞ」
「おにーさんたちは、おくにのひと?」
「いいえ。友人を奪われたという情報をもとに、この屋敷の主人を殺した人間です。どちらかと言うと、反逆者に近いですね」
この二人が俺が殺した騎士の遺族かどうかは分からない。だが、少女は門番をしていた騎士の一人に面影が似ている。可能性は高い。
あまり懐かせると母親も複雑な気分だろう。声色は敢えて冷徹、冷淡、塩対応を意識した。アニメキャラから引っ張ってきたり、リアルに居た人間を参考にしたりして。
「それでは貴方が……! まさか、そんな……」
「…………?」
歓喜とも絶望とも、希望とも取れぬ表情を浮かべる母親。少女はよく分かっていないようで、俺と母親を何度も見ている。俺もサンも意味は分かっていない。
その表情の真意を理解する前に、彼女は子供をここに置いて走り出した。何だ、援軍か? 仇討ちか?
子供の方はまるで危機感を持っていない様子。
暫くすると、さっきの女性が大量の人と共に戻って来た。
「「私共も是非、貴方様の傘下に加わりたく存じます」」
そう言って皆、一様に膝を折った。この中には多分、俺が殺した人の遺族も居る。この国を出てから一ヶ月ちょっと。何か心境に変化があったのか? こんな、誰が見ているか分からないような街の中で堂々と。
「その理由は?」
「あまり大きな声では言えないのですが、国からの搾取で私共はもう限界なのです」
「私の知り合いで、建国する人に着いて行くからと引っ越した者がおりまして」
「もう既に仕組みが出来上がった国を出て、俺の所みたいな、土地に仮小屋建てただけの小さな村に来たい、ということか? これだけ居れば、俺が殺した騎士の遺族も居る筈だ。仇を前にして、随分な変わり様だな」
本当はこんな事は言いたくない。でも、裏切り怖いから……。
「虫の良い話である事は重々承知しております」
「ですが、本当に……このままでは自ら命を絶つ者も出て来てしまうかもしれないのです」
寧ろよく今まで出てこなかったな。日本でこの状態だったら俺、確実に理久に心中迫られてたけど。理久が特殊なだけかもしれないが、この世界の人間って根性有るんだなぁ。
「へぇ。まあ、未来有る若者を満足させられるかは分からないけど。着いて来たいなら来なよ。こっちとしても、人手は多い方が良いから。裏切りとサボりは極刑だからそのつもりで」
殺しはしない。問答無用で島流しだ。
「「感謝いたします。フェリーチェ様。我らの忠誠を貴方様に」」
え、こわ。逃げた俺が言うのも何だけど、そんな逃げたかったの? こっち、ほぼ博打よ?
「仕事道具は全部持ってこいよ」
家畜も。今の所、魚介類か草か魔物肉しかバリエーションが無いから。鶏が居たとしたら、卵が追加されるからありがたい。羊が居たら羊毛が取れるし、蚕が居たら絹が取れる。人間以外の動物は狂死しないらしいから安心して無限牢獄で運べるし。
俺の欲望は見事に叶い、養蚕家、養蜂家、酪農家、畜産農家、羊飼いと五つの一次産業従事者が揃った。
後は服飾系の人もちらほら。この人達はほぼ全員、自前の機織り機やミシンを持っていた。持っていない人は手編みで何とかやっていたそう。
一気に進化しそうだ。そして、この街は一気に寂れそう。ゴッソリ人が居なくなるわけだから。まあ、ざまあみろってことで。
五人づつ移動させたらもうこの国に用は無い。途中、面倒な邪魔も入ったが、サンが強かったので俺には何の問題も無かった。
暫くしたら起きてきて国に報告するだろうが、もう後の祭り。俺達はトンズラ済み。間抜け面を拝めないのが残念だよ、エクレシア国中枢部。
「じゃ、さよならぁー」
その言葉を最後に、俺とサンも国を出た。




