十四話 神社
良い感じに村の仮小屋設置も落ち着いてきたので、そろそろヴィーネの棲家、教会の建設に着手していく。色々面倒な事になっているから。
初めて演奏したあの日以降、俺の人気が上がっているらしい。変な宗教を作られる前に手を打っておかなければ。この世界はどの国もヴィーネ一筋なんだから。
それに、ヴィーネが信仰されなくなると俺の力も伸び悩むことになるらしい。守護者は神の力、神力の一部を行使できるのだが、大元の神が信仰されていないと本来の力を発揮出来ない。
まあ、何度もそれは言ってるのだが、皆口を開けば俺への賛辞ばかり。普通なら恨みを買いまくってもおかしくないのに。それだけの事をしでかした自覚は有るから、必要以上に讃えられると困惑してしまう。
音楽の力は偉大なのか、俺に話しかけて来たセロが有名人だったのか、俺の顔が良かったからか。まあ何にせよ、素直に従ってくれるなら楽で良い。一つ分の緊張から解き放たれる。
俺がデザインしたのはファンタジックな欧風教会ではなく、日本の寺社仏閣風。教会には行った事は無いが、これなら小・中の修学旅行で行った事がある。
高校ではお城行った気がする。どこだったかはもう忘れた。安土桃山時代辺りのだった気がするけど、有名な城って多分この時代のだと思うからあまり当てには出来ない。
始めは慣れない建造物で困惑していた人達だが、ヴィーネにも確認は済んでいる。守護者の立場を利用して丸め込んだ。
まず、忌々しい貴族が作らせた建造デザインなんてこの島には要らない。俺達はその貴族から逃げて来たんだから。無理矢理連れて来た奴等はともかく、協力してくれた人達は全部承知の上だと判断したい。
鳥居作る時も、雰囲気作りの激長石階段を作る時も。神社って大体百段以上ある石階段の上の方に建ってるイメージあるんだけど、あれって何の意味が有るんだろうか。
高い所に建設する事について、ヴィーネは一応喜んでくれてるけど。眠れない程とまではいかないが、理由はちょっと気になる。
材料は既に俺が寸法の計測とカットまで済ませているから後は組み立てだけ。自分好みのデザインにしちゃうから自分でやった方が早い。
肘木みたいな慣れない部品は俺が教えながらだが、基本はこっちの建築士に全部任せることにする。強化魔法があればそれなりに時間短縮になるらしいから日本の数倍のスピードで出来上がると思う。当時、どの位の時間を掛けていたかは不明だけれども。
神社には勿論、鈴を付ける。賽銭箱は後で用意するとしても、鈴は必須。この世界はヴィーネが生み出したという魔物が居るらしいから、魔除けみたいな意味合いを込めて。なる早で。優先順位は御神体と同じくらい。
御神体は勿論、見た事はない。公開されていないのだから。だが、場所によっても種類が色々有るらしいから、こっちではヴィーネの彫刻でも飾る。
この島でも公開することはしない。神の加護を得た守護者である俺と、本人であるヴィーネしか知り得ない物として存在することになる。
作業は無限牢獄で……と言いたい所だが、集中し過ぎて心配を掛けることになるだろうから、船を作る時に活躍したブラインド効果のある結界を張って、その中で進める事にした。
御神木に関しては俺が決める物じゃない。ヴィーネが気に入ったの選んでくれたらそれで良い。俺はその意志を伝えるだけで良いのだ。守護者って多分そういうものだから。
「ちょっとぉ〜。ここはもっと美しくしてよね。こう、シュッとした感じで」
「シュッとってどういうことなんだよもう……。俺も彫刻は初めてなんだよ。精々中学美術でやったお遊びの判子作りくらいでさ」
今はブラインドの中でヴィーネに顕現? 降臨?してもらってそれを元に御神体の彫像を彫っている。大工の人達に教えてもらった柔らかい木を使っているから削る感じは版画なんだけど、面積がデカ過ぎて。
初めて見たヴィーネは意外にも大人っぽい見た目をしていた。言動が幼いのは性格の問題だった。黙っていればこの世界の創造神であり、唯一の女神だと信じてもらえるだろう。
全世界共通の宗教ってどんな風になるんだろう。齟齬さえ発生しなければ争いの火種は減りそうだけど。
でも、俺の祖国、エクレシア王国と隣国グランベリア王国が(きっかけは鉱山だけど)争いを起こしている時点でもう宗教の有無とか関係無いんだよな。
うちはそうならないようにしよう。無駄な争いは何も良縁を生まない。理久がかなりのヤンデレ気質で、俺に近寄る人間に噛みつきまくっていたからよく分かる。好戦的な人間は疎まれる、と。
でも俺、そんな理久のことが好きで付き合ってたんだよな。まあ、今も好きだけどさ。
「はい、こんな感じ?」
「んーーーー……もっと。私、もっと大人っぽいと思うのよ」
「顔だけは、な。言動のせいで台無しだよ」
「別に良いじゃないの。私の中で神様ってその大半は見た目で決まるのよ? 知り合いの神達も美男美女揃いだし」
「面食い信者とか俺嫌なんだけど……」
などという心底どうでも良い無駄話をしながら進める事数日。余りにも思い通りにならない経過に痺れを切らしたヴィーネが、遂に彫る作業に手を出した。
本来なら魔法で短縮したとしても一ヶ月以上は掛かるはずの彫刻が神の手によってみるみるうちに完成していく。これ、最初から俺要らなかったんじゃ? ヴィーネが作業したらすぐ終わったんだから。
劣化を防ぐ為にヴィーネ自らが神力で保護を施する予定だったのだが、その前に途中作業で神力が込められてしまった。木材の癖に薄っすら光っているのは気のせいだと思う事にしよう。ただ後光が差しているだけだ、と。
「こんな感じで良いわね! 実際の私に似てナイスバディよ!」
「そんなにか?」
顔はかなり再現されているが、頭身とか足の長さとかは……盛ってるような気がするのだ。
「そうよ! 顔以外はちょっと盛っておくのが良いのよ!」
盛ってる自覚が本人に有るなら良いわ……。どうせ周りには見せない物なんだから。
神ともあろう者がこの程度で満足するなんて……。めっちゃ失礼だけど。
防腐処理、防虫処理、劣化防止等が彫刻に掛けられた。制作段階で既に掛かっていたような気もするが、ここは突っ込むだけ無駄だ。未来に影響しないような面倒事には首を突っ込まないに限る。
そうして無限収納に仕舞われた御神体が本殿に設置されたのは、そこから約一ヶ月後の事。
何よりも優先して作って貰った鈴、限りなく日本の神社に寄った本殿、そしてヴィーネの手がかなり加わった御神体。この島初、ヴィーネ教の本拠地完成だ。この歓喜を曲にしたい気分だ。折角だし、今度譜面に起こしてみようか。
ヴィーネも俺の演奏は気に入ったと言ってくれたし、もし俺が作った曲を本人が受け入れたら聖歌的な物にしても良いだろう。年に何回か祭りの日を作ってヴィーネに向けて演奏する、みたいなことが出来るかもしれない。
『なあ、もし俺がヴィーネに曲を贈るって言ったらどうする?』
『曲? 譜面だけ貰っても私は何も出来ないわよ?』
『いや、演奏はこっちがするから』
『なら受け入れるわ。楽しみにしているわね。演奏してくれる日を』
『何年先になるか分からないけどな』
即興だったら今すぐにでも出来るけど。俺だけが出来ても意味が無い。難易度を調整すれば誰にでも演奏出来るような曲でないと。
『気長に待つわよ』
『ありがと、助かるよ』
あまり急かされるのは得意じゃないからな。
「フェリーチェ、建築士達が呼んでる。そろそろ仮小屋から住宅に移行したいってさ」
「分かった。ありがとう、オリヴァー」
わざわざ探して呼びに来てくれたオリヴァーに感謝の意を示し、建築士達の作業場に向かった。




